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俺とクレアの異世界転生黙示録 〜純情編〜  作者: ゆか
草原の宿屋と恐怖の両刀吸血姫編
19/43

新たなる住まい


 二日間に渡る長距離飛行を経験した俺とクレア様にはさすがに疲労が溜まっており、一通り荷物を片付けた後はグレアムさんの言葉に甘えてそのまま部屋で休ませてもらった。

 あれだけ飛んだ後でも元気に村内を走り回っていたピヨスケの体力は、一体どうなっているのだろう。

 そして日も傾いて来た今は、そんなピヨスケも含め、エリーヌさんに運んできてもらった料理に屋根裏の自室で親子三人舌鼓を打っている。


「料理長さんのお料理は今日も絶品です!」


 ピヨスケがそう言うように、この宿の料理長が自ら用意してくれたと言う夕食は、実に美味しかった。

 焼きたての柔らかなパン、ゴロゴロと大きな肉の入ったシチュー、瑞々しく彩りも鮮やかなサラダ。

 構成こそシンプルだが、これほどに洗練された味の料理は地球でもちょっと口にしたことが無い気がする。

 もちろん、無人島での食生活とは比ぶべくも無い。


 相変わらず表情には出さないが、クレア様もこれらの料理を十分に気に入ってくれたようだ。

 無言でそれらの料理をもくもくとその小さな口に運び続けている姿は、心無しかどこか幸せそうにも見える。


 料理長さんにも、改めてきちんと挨拶とお礼をさせてもらわなければいけないな。

 俺は心のTODOリストにそう追記した。


 ところでピヨスケは、こっちではこんなに美味しいものをいただきながらも、島では俺の料理とも言えない料理を嫌な顔一つせず食べてくれていたということになる。

 本当に、なんて良い子なのだろう。


「パパ、どうかしましたか?」


 そうピヨスケに問われ、俺はハッと我に返る。

 ピヨスケを眺める顔がいつのまにか緩みきってしまっていた。


「いやあ、ピーちゃんは本当に可愛いなあと思って」


 俺の心からの言葉を聞き「ふぇぇ」と顔を紅く染めるピヨスケの隣では、自分の料理をいつのまにか完食していたクレア様が、俺の皿へとその滑らかな手を伸ばしている所だった。






 夕食を終えた俺たちは、宿屋の裏庭に設置された、個室制の水浴び場で身を清めた。


 なお、精霊がこの宿屋に住み始めたということはすっかり有名になっていたようで、水浴び場に向かう途中でも、宿泊客たる冒険者や従業員数名と挨拶を交わす事になった。

 俺たちに声を掛けてくれた冒険者達は皆、内に秘めた大きな力を感じさせる独特の雰囲気を宿していたが、性格はおおらかで優しそうな人が多かった。

 彼らとも、少しずつでも交流を深めて行ければ良いなと思う。


 そして精霊界へと赴くピヨスケを見送った俺とクレア様が、再び自室である屋根裏部屋へと戻って来た頃には、日もすっかり暮れていた。

 三角窓から望む冒険者村の家々は、未だ暖色の明かりを灯しているものもあれば、既に闇の静寂に溶け消えているものもある。


「じゃあランプの灯、消しますね」


 クレア様がベッドに潜り込んだのを確認し、俺は壁に固定された洋灯の火を静かに消した。

 照明の消えた室内は、窓から入り込む月明かりにだけ照らされて、少し幻想的な雰囲気を感じさせる。


 彼女が潜り込んだベッドは、室内に三つ用意されたもののうちの一つ。

 それらのうち一回り小さい物はピヨスケ用のベッドなので、俺は最後に残った一台を選んで潜り込んだ。

 ちなみに長年の習慣がすっかり染み込んでしまったせいか、俺もクレア様も衣類は着用していない。


 無人島での干し草の寝床とは比較にならない、ふかふかとしたベッドの肌触りを、全身で感じる。

 掛け布団にも羽毛がふんだんに使われているようで、ふわふわと柔らかい。


 ついこの間まではとても考えられなかった極上の就寝環境を、なんと一人一人で占有できている。

 これなら、クレア様にも空の旅の疲れを存分に癒してもらえることだろう。

 まあ、島で眠る時はいつも触れていた彼女の肌の温もりが、今は感じられない事が寂しいが。


 そして掛け布団を頭までかぶった俺が、うつらうつらとし始めた頃。


 布団の中に何かが潜り込んでくる気配を感じ、俺は意識を取り戻す。

 俺の隣で、何かがモゾモゾと動いている。

 やがてその物体は、俺にピタリと寄り添うように接触した。


 この少しひんやりとした心地よい感触を、俺は他の誰よりも良く知っている。


「クレア様……」


 もう一度布団の中でごそりと動き、俺の胸の上にその可愛らしい頭をちょこんと乗せた彼女を、俺はそっと抱きとめる。


「やはり枕が変わるとよく眠れんな」


 肌を俺に密着させながらそんなことを言うクレア様の小さな姿が、たまらなく愛おしい。


「そういえば今日はいつにも増して口数が少なかったですけど、やっぱりピーちゃんに妬いちゃってました?」


 少し意地悪っぽく発した俺の言葉を、彼女は「馬鹿を言うな」と否定すると、そのまま俺の腹の上へと這い上がって来た。

 今宵の俺たちの就寝時刻は、後少しだけ遅くなりそうだ。

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