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俺とクレアの異世界転生黙示録 〜純情編〜  作者: ゆか
草原の宿屋と恐怖の両刀吸血姫編
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ボルギスの戦斧亭

 エレナちゃんに連れられて、宿屋の裏口から壮年の男性が姿を見せた。

 丸刈りに顎髭を携えた強面の顔に、鍛え抜かれた逞しい身体。

 彼がこの宿屋、ボルギスの戦斧亭の主人である、グレアム=ボルギスさんだろう。

 彼も若い頃は先代同様に冒険者をしていたらしいのだが、未だ現役だと言われても驚かない容姿だ。


「霊獣様、それにケーゴ様にクレアーティ様、遠路はるばるよくいらっしゃいました」


 その外見には少し似つかわしく無い、とても丁寧な挨拶だ。


 そう言えば、この世界に来てから本名で呼ばれたのは物凄く久しぶりな気がする。

 ピヨスケにはずっとパパと呼ばれているし、クレア様に至っては未だに貴様呼ばわりだし……。


 グレアムさんに僅かに遅れて、エレナちゃんと同色の栗色の髪をした女性が姿を現し頭を下げる。

 優しそうな雰囲気の、とても奇麗な人だ。

 グレアムさんの奥さんの、エリーヌ=ボルギスさんに違いない。


 そこまで考えた俺は、思い出したように慌てて頭を下げ返す。


「いえ、こちらこそ突然無理な願いをお聞き入れ頂いて、本当にありがとうございます」


 五年以上も無人島に引きこもっていたせいか、挨拶も忘れて二人を観察してしまった。

 少し失礼だったかもしれない。

 だがエリーヌさんはそんな俺の態度は気にした風も無く、


「霊獣様にはこの子が危ない所をお助けいただき、感謝してもしきれません」


と、エレナちゃんの頭を撫でながら改めて謝念を伝えてくれた。


「いえいえ、ピヨスケも皆さんには懇意にさせて頂いているようで……」


 そこまで言いかけて、俺は当のピヨスケの様子が少しおかしいことに気付く。


「ん?

 ピーちゃん、どうかした?」


 どことなくそわそわしているピヨスケに俺はそう問う。

 するとピヨスケは少し言い淀んだ後、


「ピーは、パパとママを連れて来た後、エレナちゃんと遊ぶ約束をしてたんです」


と、心の内を明かしてくれた。


 なるほど、ピヨスケには今晩からまた精霊界へ赴く予定だと聞いている。

 精霊界とはその名の通り、精霊を初めとした不思議な生き物達が住まう場所らしい。

 そして元来精霊界の生物である彼女にとって、成長期には向こうで過ごす事も重要なのだそうだ。

 そうなるとしばらくはエレナちゃんとも会えなくなる訳で、その前にたくさん遊んでおきたいのだろう。

 よく見ると、エレナちゃんもピヨスケをチラチラと眺めている。


 再度ボルギス夫妻と視線を合わせると、彼らもピヨスケに賛同してくれた。


「この村には子供が少ないですからね。

 霊獣様、私たちの方からも娘を是非よろしくお願いします」


 そして俺たち父母陣からの許諾を得たピヨスケとエレナちゃんは声を揃え、


「わーい、ですー!」


と村の方へと駆けて行った。


 俺たち一同はしばらくその様子を微笑ましく眺める。

 俺の隣では無表情ながらクレア様も、掲げた小さな手をにぎにぎして見送っている。


 やがて二人の姿が見えなくなると、機を見計らったようにグレアムさんが口を開いた。


「では、ケーゴ様、クレアーティ様。

 そろそろお部屋の方へご案内します」


 二人にも宿の仕事があるだろうし、あまりここで時間を食うのも悪い。

 でも、今のうちにこれだけは言っておかないと。


「ところで、クレア様はともかく、俺への様付けはやめていただけませんかね?

 俺はほとんどただの人間なので、なんというかその、むずがゆくて」


 ボルギス夫妻の態度から、この世界で霊獣やそれに関わる者がどれだけ敬われているかが良くわかる。

 だが、今後もずっとこんな距離感が続くのはちょっと遠慮したい。

 しかも、親子程にも年の離れた相手に。


 そんな俺の要望を聞いた夫妻は、少し顔を見合わせた後、


「わかりました。

 では、ケーゴさんとお呼びさせていただきます」


と一応の了解を示してくれた。






 裏口から宿屋内へと入った俺たちは、従業員用の通路を通り、三階屋根裏部屋へとやってきた。

 このボルギスの戦斧亭は一階が食堂兼酒場、二階と三階が宿泊用施設となっている。

 ちなみにお土産に持って来たパナムスの果実は、一階調理室の前を通った際にエリーヌさんへと手渡し、彼女ともそこで別れた。

 内地でパナムスはかなりの高級果実らしく、ボルギス夫妻には大変喜んでもらえた。

 まあ、今後二人から受ける恩義に比べれば、些細なものでしかないが。


「本当にここでよろしかったのでしょうか?

 宿泊客用の部屋を空けても良かったのですが」


 屋根裏部屋へと入り内装を見回す俺たちに、グレアムさんが問いかける。


「いえ、お気持ちだけで十分です。

 ここでも十分過ぎますよ」


 俺たちが屋根裏部屋に滞在するのは、ピヨスケを通した手紙のやりとりで取り決めておいた事で、クレア様も了承済みだ。

 俺としては、客室を貸してくれると言うのなら、多少厚かましくてもクレア様の為にそちらの方が良いだろうかとも考えていたのだが、彼女自身が断りを入れてくれた。


 屋根裏部屋は奇麗に掃除され、簡素ではあるものの少し大きめのベッドが二つ、小さめのベッドが一つ備え付けらている。

 さらに窓際には椅子と机、壁には本棚も設置されている。

 これらを俺たちの為に用意してくれたのなら、ここに運び込むだけでも結構な作業だっただろう。

 ボルギス一家の親切心が身に染みる。

 それに、この部屋の三角の窓から眺める景色は、村の様子を見渡す事が出来てなかなかの壮観だ。


「こんな素敵な部屋を用意していただき、本当にありがとうございます」


 俺はグレアムさんへと、心からの謝礼を述べた。

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