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俺とクレアの異世界転生黙示録 〜純情編〜  作者: ゆか
草原の宿屋と恐怖の両刀吸血姫編
15/43

転機

 俺たちがこの無人島に転生して来てから、かれこれ五年の月日が流れた。


 人の身に近くなったはずのクレア様の容姿は、今も当初と全く変わらない。

 不老による不死という神様の特性が、失われずに残っていたらしい。


 そして外見年齢に変化が見られないということに関しては、俺についても同じだ。

 クレア様が言うには、あの転生事故が原因で、俺と彼女は深い所で混じり合ってしまっているらしい。

 なおその説明の際にクレア様が「気持ち悪いな」とこぼしていたような気がするが、それはきっと俺の気のせいに違いない。


 ピヨスケはと言えば、一年も経つとすっかりあの親鳥と同程度の大きさまで成長し、二年目頃からは近辺の海原や精霊界へと、好奇心に任せて元気に飛び回っている。

 今では大海の先に大陸すら見つけ、そこで羽根を休めたりもしているらしい。


 なおピヨスケという名前については、クレア様の反対もあったことで変更を考えたりもしたのだが、当のピヨスケが他の名前に全く反応を示してくれなかったことによってそのまま定着した。

 俺としてはもともと気に入っていた名前だったのだけれど、ピヨスケとあの親鳥のように意思疎通が行えるようになった際に、ピヨスケが実は女の子さんだったと言う衝撃の事実が発覚した時は、さすがに頭を抱えこんだ。


 俺とクレア様の関係についても語っておこう。

 さすがにピヨスケが生まれてすぐの頃は少しは自重していたものの、ピヨスケがしばしばこの島を離れるようになってからは、俺たちは再び蜜月の日々を過ごし始めた。

 詳細な説明は省くが、主従逆転ペットごっこ、特濃ミルクしぼり大会、人力消火競争を始め、素敵な遊戯もいろいろと発明された。


 けれども俺とクレア様の間には、ピヨスケ以外の新しい命を未だ授かっていない。

 これには俺もいろいろな意味で心配になり結構思い悩んだのだが、クレア様曰く、無限に等しい時を生きる神様と言う存在は、もともと着床率があまり高くないらしい。

 それを聞いて俺はようやく安心することができた。






 さてそんな俺とクレア様は今、岩山の頂で並び座り、ピヨスケの帰りを待ちながら遠景に目を配っている。

 そこにあるのはいつもの見慣れた一面の青……ではなかった。

 俺たちの視線の先、太陽が沈みいく方角が、雲すら存在しないにも関わらず、どんよりと暗く濁っている。


「かなり魔の領域が広がっているな」


 そう言うクレア様に、俺は頷きを返す事で同意を示す。


 俺以外の転生者達は上手く事を運べていないのだろうか。

 数年前からこの島からも見えるようになった、魔に属する物達が住まうと言う領域は、徐々にその範囲を広げ続けている。


 このままではいずれこの島も、魔に飲み込まれてしまうだろう。

 そのとき戦う為の力を持たない俺たちが、生き延びられるとはとても思えない。


 そういう訳で俺たちは、ピヨスケに乗って大陸へと移住することを決断した。

 成長した今のピヨスケなら、俺たち二人を乗せても大陸まで余裕で渡る事が出来る。


 そんな事を考えていると、


 ——ママ、パパ、今帰りました!


背後から大きな羽ばたき音と共に、可愛らしい声が聞こえて来る。

 俺たちが振り返ると、そこには巨大な両翼を広げて優雅に着地するピヨスケの姿があった。


 流れるような真っ白な羽毛に嘴までをも包んだ美しい姿。

 長い尾羽や風切羽は山頂に収まりきらず、岩山の側面へと垂らしている。

 俺たちを見つめる蒼い瞳は、クレア様と同じ色でありながら、どこか無邪気さを感じさせる。


「おー!ピーちゃんありがとう!」


 俺は労いの声をかけながら、ピヨスケへと近づく。

 ちなみにピーちゃんと言うのは、俺がピヨスケに付けた愛称だ。

 彼女が女の子だと知ってから、どうもピヨスケと呼ぶのに抵抗が出来てしまった。


 ピヨスケの足下には、動物の皮で出来た鞄が置かれていた。

 今回の俺たちの移住先となる宿の主人から受け取った物を、ピヨスケにここまで運んで来てもらったのだ。


 なんでも、宿の娘さんが川で溺れていた所をピヨスケが助けたことがきっかけで、今では随分と懇意にさせてもらっているらしい。

 ピヨスケを通じた何度かの手紙のやり取り——この世界の基本的な言語体系は転生装置のデフォルトサービスとして俺にも与えられていた——の後、今回の移住の件を相談した所、快く部屋を提供してくれる事になった。

 相手の好意につけ込んでいるようで少し気が重くなるが、とにかくクレア様が安全に居住できる場所を確保することが最優先事項だ。

 宿の主人やピヨスケには感謝してもしきれない。


「クレア様、出発の時にはこれを着て下さい」


 皮鞄から取り出した白い衣服を差し出すと、クレア様は「ん」と小さく頷きそれを受け取った。

 さすがに裸で人前に出る訳にもいかないので、宿の主人に頼んで用意してもらったのだ。


 クレア様に衣服を渡した後、自分用の布服を取り出した俺は、皮鞄の中にもう一着白い衣服が残っている事に気付いた。

 クレア様用と考えても、さすがに小さ過ぎる大きさだ。


 俺がその服をつまみ上げて疑問を顔に浮かべていると、


 ——あ、それはピーのです


と、ピヨスケの声が聞こえて来た。


 ???


 混乱を深める俺の思考は、クレア様の一声で打ち切られる。


「ピヨスケも疲れたであろう。

 食事を用意するから、休んでいて良いぞ」

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