孤島に降る雨の下で
俺とクレア様がこの無人島に転生して来てから、早くも五ヶ月が過ぎた。
島には三日前から雨が降り続いている。
太陽は一面の雨雲に遮られ、昼間だと言うのに薄暗い。
この島は降水量が少ないと思っていたのだが、降るときは結構纏めて降るのかも知れない。
そんな中クレア様はと言えば、洞窟の入り口手前で雨浴びをしている。
周囲に陸地が全く存在しないことによるのか、この島に降る雨はそのまま飲料水としても用いることが出来る程に澄んでいるのだ。
彼女は身に一糸も纏わず自然体で佇み、双眸を閉じ顔を天へと向けながら、僅かに両手を広げて降りしきる雨を全身で受け止めている。
薄闇の中に浮かび上がる彼女の白い身体は、えも言われぬ程に幻想的だ。
先に雨浴びを終えた俺がしばらく洞窟内からそんな彼女の様子を眺めていると、やがて彼女は満足したのかすっと両手を降ろし、ゆっくりと洞窟内部へと戻って来た。
洞窟内では松明の明かりによって、岩壁の陰影がゆらゆらと揺れている。
彼女はそんな中を、身体に付いた水滴を拭いもせずに、一歩一歩俺の方へと近づいてくる。
彼女の滑らかな肢体を伝い、水滴が床へと滴り落ちる。
そんな彼女の姿に見蕩れている俺の前を、彼女は無言で通過し、干し草で出来た寝床の上へと腰を下ろす。
——あ、寝床が濡れちゃいますよ。
俺がそう言いかけた時には、彼女は既に柔らかな干し草の上へと、その小振りな臀部を沈めていた。
彼女を中心にゆっくりと、雨水の染みが広がって行く。
「退屈だな」
その蒼い瞳を俺へと向けた彼女が、不意にそう呟いた。
降りしきる雨の中、ここ数日俺たちはこの洞窟からほとんど離れていない。
洞窟内を流れる冷水に浸して保存している果実や、乾燥させたキノコ類も含めて、食料の備蓄はまだまだある。
「暇つぶしに何かします?」
そう問う俺に彼女はあの邪悪な笑みを浮かべ、干し草の上に座ったままゆっくりと、見せつけるように、その細い両の脚を開き始めた。
「ど、どういうつもりですか」
高鳴る心臓を抑えながらそう聞く俺に対し、彼女はその笑みを深める
「このような状況に置かれた若い男女に残された娯楽など、一つしかあるまい?」
松明の炎の揺らめく光に照らし出された彼女の顔は、その幼い容姿に反して淫靡な雰囲気を纏っている。
その身を伝う水滴の一粒一粒までもが、俺の情欲を掻き立てる。
外見からその実年齢を想像することは出来ないが、普段彼女が身に纏う静かで冷徹な気配は、そこに畏怖すらをも感じさせる悠久の時を内包している。
だが今眼前にある小さな存在は、色欲を持て余した、ただの一匹の雌の獣にしか俺の目には映らなかった。
「どうした?
妾の初めての相手になれるのだぞ?」
その言葉を受けてついに限界を超えた俺は、動物としての本能に操られるように、彼女の身体を押し倒した。
精巧な硝子細工のように繊細なその小さな身体。
それをこの手でめちゃくちゃにしてやりたいと言う欲望。
彼女の頭部の両隣に置いた腕で身体を支え、俺はゆっくりと自身の顔を彼女の顔へと近づけて行く。
彼女の形の良い小鼻に、俺の鼻が触れそうになる。
伝わってくる彼女の静かな息づかいと、興奮に乱れた俺の荒い呼吸が、なんともアンバランスに感じられる。
お互いの視線は、瞬きすら挟まずにずっと合わさったままだ。
感情を読み取ることが難しい、どこまでも深く蒼い彼女の瞳。
その静かな鏡面には、逆にこちらの心の奥底が映り込んでいるのではないかと思わされる。
さらにじっと見つめていると、その深淵へと落ちて行ってしまいそうな錯覚さえ抱かされる。
そんな彼女の瞳が、俺の中に僅かに残った冷静な部分を引き戻す。
俺が彼女に抱いているようなこの狂おしいほどの想いを、おそらく彼女は俺に対して抱いていない。
そんな状態で、これ以上先に進んでも良いのだろうか。
彼女の大切なものを今、俺が奪ってしまって良いのだろうか。
だがそんな俺の最後の理性は、挑発的な笑みを浮かべながら発された彼女の言葉に、あっさりと掻き消される。
「貴様がいつも求め続けて来たものは、文字通り目と鼻の先だぞ?
それとも怖じけ——」
嘲るように動いた彼女の口を、俺は自らの唇で乱暴に塞いだ。
身体の上に感じる心地よい重みに、俺はゆっくりと目を開く。
辺りには静かな暗がりが広がっている。
あれほど降り続いていた雨は、いつの間にか去ってしまったようだ。
松明の炎も既に消えている。
そうか、あのまま眠ってしまったのか。
洞窟の入り口から射し込む月光に照らされた、クレア様の安らかな寝顔。
俺の胸の上で心地良さそうに寝息を立てるその表情は、あどけない子供のようにも見える。
彼女の新雪のような白い髪に、俺はそっと指を梳き入れる。
すっかり乾ききったそれは、サラサラとしながらも柔らかく、いつまでも触れていたくなる。
結局、一時の快楽にその身を任せてしまった。
瞳に焼き付いた情欲に乱れる彼女の姿が、鮮明に思い出される。
だが、あのような行為に至った今ですら、彼女は俺のことを暇つぶしの玩具程度にしか考えていないのだろう。
それでも、構わない。
俺は必ずこの人を幸せにしてみせる。
そしていつか必ず、この人の思いを俺へと向けさせてみせる。
月明かりの中浮かび上がる彼女の透き通るような身体を、慈しむように撫でながら俺は決心を新たにする。
腹上に感じる彼女の命の重みを抱きしめながら瞼を閉じると、俺は再び心地よいまどろみへとその身をまかせた。




