2.隠れ家と謎の男
第2話投稿します!タグにもあった軽いエロが入ります。ノクタンに逝かないようにするつもりですが、多分そのうち酷くなっていくと思うので「これマズイだろ」と思ったら感想で警告お願いします。
「『痛覚刺激』!」
「キャイイィンッ!?」
アリスの発動したスキルが襲い掛かろうとしていた『ドッグワン』という黒い犬のモンスターにダメージを与えずに痛みだけを与える。
グッタリしてしまったドッグワンの首を、アリスは無情にも首を捩った。
「……ゴメン」
……僕はずっとこれを繰り返して経験値を稼いでいた。
罪悪感が酷いが、まともに戦えばコチラの敗北は明らか。心を鬼にして殺し続けた。
カララーン……
「……これでLV5」
LV5。しかし、まだ普通のLV1より弱い。もっと強くならないと……!
座り込んでいたので勢い良く立ち上がり……目の前が真っ暗になって倒れ伏した。立ちくらみだ。どうやらかなり無理をしていたらしい。
「……ダメだ、寝床を探そう」
続けるにも、精神的に既に参っていた。
ガクガクと細い足に力を入れ、ふらふらとした足取りで歩く。少し歩いた所で森を抜け出した。
空を見上げれば既に夕方。目の前には丘になっていた。
頂上に登ると木より少し高くなる。此処からは始まりの街らしき街が良く見えた。
中々に幻想的だ。異界の自然溢れる風景を真っ赤な夕日が照らしていた。
「……いつ、この世界から出られるのかな?」
どんなに美しくても、これはツクラレタ世界。美しいと思っても、それはただのデータなのだ。
(……ダメだ。早く寝所を探そう)
既に日が沈んで辺りは暗闇となっていた。足元すら見えない。
こうなれば移動は危険だ。
せめて坂で寝ようと丘を少し下る。
ズボッ!
「え?きゃあッ!?」
しかし、足の踏み出した場所には穴があった。それも大きく、深い穴が。
「うわあああッ!?」
そのまま転落し、地面に激突……せずなにか柔らかい物がクッションになった。おかげでダメージも無いようだった。
「あ、危なかった……」
墜落ダメージはどれくらいだろう?まともに受けていたら最大HP5の僕は呆気なく消し飛んでいただろう。
ヂイィィィィィ……。
冷や汗が吹き出た。沢山。
い、今の鳴き声……自分の下からしなかったか?
自分を受け止めてくれた『クッション』を見る……ギョロリ、真っ赤な目と目が合った。
「つ、『痛覚刺激』!」
「ヂイイイイッ!??」
クッションとなったモンスター……マッドマウスは、鳴き声を上げて動かなくなる。
トドメを刺すと、『マッドマウスの前歯』が残った。
僕は急いで立ち上がると回りを警戒する。
しかし、何も聞こえないし、見えない。……マッドマウスは一匹だけだったようだ。
ふぅ、と溜息を吐く。とんだアクシデントだったが、此処なら寝所に出来そうだ。
巨大な木の根に身体を預けてその日は眠った。
「……ん、くぁああああ〜………」
天窓……というか入り口の穴から明かりが差し込み、眩しくて目覚める。
「………?」
寝ぼけ眼で辺りを見渡す。
……あれ〜?此処何処?
気が付けば穴の中。誰だって訳がわからなくなるだろう。
ついでに言えば、アリスは朝に滅法弱い。
周りの土の壁。巨大な木の根が生える空間を見て一言。
「憧れのマイホーム〜♪」
一体どんな勘違いだろうか。しかし、しばらくは此処で生活する事になるのであながち間違ってはいない。
穴から外へ出ようと土壁の石に手足を掛けてロッククライミング宜しく登って行く。
「わぁあ〜♪絶景だね!」
上半身を外に乗り出した状態での一言。丘から見える世界は、現実で見た風景のどれよりも美しい……。
「………ハッ!?」
おめめぱちくり。アリスはたった今完全に目を覚ました。
「な、なにやってんだ僕はぁ〜〜………」
寝ぼけと女の子のキャラクターのせい、だろうか?アリスはガクッ!と上半身を地面に投げ出した。
「朝?なんの事かな?なんの変哲も無い朝だったさ!」
とりあえず、朝の事は忘れる事に決めたアリスは、再びマッドマウスの穴蔵に戻ると木の根に座り込む。
「とりあえず、寝所は此処で良いとして……今後どうするか……の為に情報も必要で……?その前に安全なLVまで上げないといけないし……アアッ!!もうっ!やる事多くて訳わかんないよっ!」
バタリと木の根に寝転がった。
くぅぅ〜……。
僕のお腹から可愛らしい音が鳴った。仮想世界でもお腹は空くらしい。
顔が真っ赤に熱くなっているのを感じる。
「……食べ物、探そっと」
考え事はとりあえずポイッ!と捨てたアリスは再び外へ出る。
ポロローン!
何か心地好い効果音が鳴った。目の前に『この穴蔵は<隠れ家>に設定出来ます。隠れ家に設定しますか?』と表示される。
……またよくわからないシステムが出て来た。とりあえず『YES』をタッチ。まぁ、多分『隠れ家』っていう位だから何かラッキーだったんだと思うし。
文字が消え、新しく書き直される。
『隠れ家<秋風の丘の穴蔵>を入手しました。室内が改装されます。時間を空けてお越しください』
ん〜?もしかして……システム的にも僕の家になった、って事かな?
だったら、これ以上の幸運は無い。僕はるんるん気分で森に突撃した。
後悔していた。何故かって?なんの警戒もせずスキップしてた事にだよ!
さぁ、現実を見てみよう。
熊
狼僕狼
木
いやっほー……なんて絶望的なんだ……!
1.スキップ。しかも笑い声を上げながら。
2.狼に遭遇。しかし僕は歌いながら突撃。痛覚刺激をしようとした時、油断していた僕に横から二匹目の狼出現。体当たりを喰らって4ダメージ。今HP1。
3.今更命の危機を実感。逃げようとしたら熊まで現れ、木に追い詰められた。←今ココ。
「グルルルル……」
「ガルルルル……」
「グガァァァ……」
き、木に登って逃げるか?いや、背中をさらけ出す訳にはいかないし。痛覚刺激で1体倒しても残り2体に致命的な隙が……。
その時、だった。熊が横から飛来したナニカに突き飛ばされ、盛大に吹っ飛んだのは。
「グカッ!?」
ついでに狼の注意も逸れた。僕はその隙に包囲網から抜け出す。
「い、一体何が……」
飛来したナニカは砂煙で良く見えない。
「ギガアアアアアッッ!!!??」
熊の悲鳴。狼は更に警戒を強める。
砂煙の中からナニカが飛び出した!飛び出したナニカは狼の横に一瞬で近付くと狼の首を切り裂く。
「キャイイッ!?」
そしてすぐナニカが見えなくなったと思ったらまた狼の悲鳴。振り向くと狼は既に絶命していた。
その狼の横。一切返り血を浴びず、立っている男がいた。
漆黒のスーツに身を包んだその男は、かなり長身で180位はあるだろうか。髪はオールバック。顔付きは後ろを向いているのでわからない。両手の白い手袋に握っているのは三本の刃が付いた獣の爪を模した武器。
「大丈夫か?女。まったく、一人でこんな森の深くにいるとはな」
「あ……」
男が振り返った。鋭い目つきが僕を威圧する。
美形だった。まぁ、ゲームなのだから当然だが。誰もが想像するような漢の顔。
男が近付いて来る。思わず一歩退いたが、気にせず男は僕をジロリと見下す。
何故だろう?顔が……胸が熱い。ドキドキする……。
「……合格」
「……え?」
呆けていてよく聞こえなかった。
「俺の女になれ、幼女」
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ハッ!?
よ、幼女?
「やはり女は小さくなくてはな……。好みの顔だし、何より抱き上げやすい。保護欲が………うおおッ!!」
チーン!
男=幼女好き変態紳士
一気に何かが冷めた。
「うわあ変態ィィィィィッッ!!!!!???」
後ろ向いてダッ
「フハハハハ!逃がさん、逃がさんぞ幼女!」
いやあああああッッッッ!!!!???なんか速過ぎるよこの変態!
一瞬で回り込まれ、抱き上げられる。
……アリスはもう色々と諦めたのだった。
「あ、待って!僕は始まりの街に入れないよ」
「む?何故だ?」
ナチュラルに始まりの街に入られそうになって焦った。今の僕は『アリス』。始まりの街なんかに入って名前がバレたらどうなる事やら。
というか、どうやって説明すれば……。
「始まりの街にはモンスターと犯罪者以外は入れるはずだが……?」
あ、ヤバい!犯罪者扱いされる!
「え、えっと……は、入れることには入れるんだけど……入りたくない事情が……」
「……まぁ、良い。なら、街の外のモンスターの居ない広場に……」
「その前に降ろして欲しいんだけど?」
因みに今僕は抱き上げられたままだ。お姫様抱っこで。
「駄目だ」
えー。
とはいえ、HP1で無理はしたく無いので、そのまま抱き上げられているしかないのだ。無理してダメージ受けたら死ぬ。
まぁ、広場に連れて行かれた訳だが……。
「ムリムリムリムリ!ちょ、入っちゃダメ!入っちゃダメ!」
「………?」
な、なんで紅い女性がいるの!
広場でランニングをしている紅い女性は明らかにあの(1話参照)女性だった。
……なんでランニングしてるんだろう?ステータス上げないと足速くはならないと思うんだけど……?
「此処も駄目となるともう森の中しか無いのだが?」
「う……あ、そうだ。僕の隠れ家行こう」
「隠れ家か。森にあったんだな」
「うん。……案内するから、降ろして欲しいな?」
「駄目だ。案内なら降ろさなくても出来る」
結局降ろしてくれないらしい。……というかあれ?なんで一緒に隠れ家に行く事になってるんだろ?無理矢理連れて行かれてるだけなのに。
……まぁ、良いか。
「此処が僕の隠れ家だよ。と言っても、今日からだし、隠れ家なんてシステム、今日知ったんだけど」
僕達は森を抜けた丘……というか、『秋風の丘』っていうらしいけど、そこの隠れ家にやってきた。因みに森は『秋風の森』。
「なら、『隠れ家』について俺が説明してやろう」
「お願いします」
……………………………
<隠れ家のシステム>
『隠れ家』とは、つまり野外フィールドに存在する特定の場所を『自分専用』にする機能である。
マッドマウスの巣であった『秋風の丘の穴蔵』はその特定の場所だった訳である。
隠れ家は所有者にしか入口は見えない。しかし、『フレンド』に登録しているプレイヤーは入る事が出来る。
因みに、欲しいと思ってもなかなか見つからない貴重な物である。しかも所有権の移動は不可能。
また、隠れ家登録すると、改装され、洞窟でも部屋っぽくなる。
……………………………
「……といった所か」
ファングの説明を聞いて悩み事が増えたアリス。つまり、『中に連れ込みたいならフレンド登録が必要』ということである。
(フレンド登録、つまり相手に名前を見せるということ。『アリス』の名前は教えられないし、そもそもなんかこの人怪しいし……)
と、そこまで考えて名前を知らない事に気付いた。
「あの、なm……ッ!」
あ、危ない所だった!名前聞いたら聞き返されるに決まってる。
「……?それより、はやくフレンド登録しよう。メニューから『フレンド』を選択して、そこから『フレンド申請』して許可貰うだけだ」
ど、どうする!?
「……別に話するなら此処で良いじゃないですか」
「隠れ家に来いと自分から誘って入れないのは無いだろう?」
う、確かに。でも、名前を教える訳には……!
「………まさか、犯罪者でもなく、始まりの街に入れない……。そして、名前を明かせない……のか?まさか……」
男は、一拍置いて呟いた。
「……アリス?」
「ッ!?」
まさか……なんで、なんでこんなに早くバレるの?
僕は逃げようとした。しかし、何時の間にか腰が抜けて地面にへたり込んでいた。
「あ、あ、あ………」
「その反応を見る限り、予想は大当りのようだな……」
この時、既に僕の頭からはこれがゲームの世界だという事も、死んでも始まりの街に行くとはいえ蘇生する事も頭から抜けていた。ただ、恐怖が僕を包み込んでいた。
男の大きな手が僕に迫ってくる。イヤだ、死にたくないよ……ッ!誰か、助け……
「安心しろ。別にお前の事を殺したりなんかしない」
ポン、と。その大きな手は僕の頭に乗せられた。
「………え?」
「『あのアリス』なら簡単に逃げられるだろうし、こんな所にいるわけが無い」
「あ………」
心から安心感が溢れて来る。男の手が動く。撫でられているんだ……。
「安心しろ。俺が守ってやる」
味方……なんだ。助かったんだ……。
「まぁ、まずは……着替えでも買って来るか」
「へ……?」
あれ?なんで着替え?
「恐怖から解放されて安心したのはわかるが……その、な……?」
男が下を指差す。下を……下半身を見た。
黄色い染みが出来て濡れていた。
…………………え?
「俺とフレンド登録したら隠れ家の中にいろ。俺が始まりの街で服買ってきてやるから……」
なんだか、その優しさが、凄く辛かった………。
……まぁ、あれがエロに入るとは思えませんが。
さて、次の更新は木曜日。序章の最終話ですので、上げたらまたしばらく更新しません。1章が出来上がってから纏めて投稿します。