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VRMMO『SoulOver』  作者: 夜風
序章「僕はアリス」
1/3

1.始まりのバグ

 

 

こんにちは。夜風と言います。

今回投稿する<VRMMO『SoulOver』>は処女作<仮想世界ソウル>のリメイク作品です。全然進まなかった前作をまた書きたくなったら設定が紛失してて文章も目茶苦茶下手だったのでいっその事今の自分なりに設定を練り直して書いてみようということで!『序章分だけ』出来上がったので投稿してみようかと。

まぁ、前作ほど進むかすら不安ですが、よろしくお願いします。

あと、投稿は一つの章が出来上がってから1週間位に纏めて投稿しますので。

それでは、どうぞ!


 

 

「なんで……」

 

真っ赤な紅葉の森の中、少女は立ち尽くす。キラキラと輝く金髪を風に靡かせ、碧い瞳を見開いて自身の手の平を見つめていた。

 

「なんで……ッ!?」

 

ぽん、と手が胸に置かれた。大きい。その一言に尽きる。低い背とロリフェイスに似合わない豊かに育った実が二つ。

 

「なんで女なんだよぉ〜ッ!!?」

 

しかし、少女は……男だった。しかし、それは『現実では』の話である。……しかし、この『ゲーム』の仕様で異性には設定出来ないはずなのだが。

 

さて、この少女……キャラクター名は『アリス』なのだが、アリスは遠い目をしながらこのゲーム……『SoulOver』をプレイする少し前を思い出し始めた。

 

 

 

『ゲーマー待望の<VRシステム>搭載の最新ゲーム!その名も<SoulOver>!』

 

これは、世界中に配られた世界初の『VRシステム』を搭載したゲーム『SoulOver』の広告であった。

 

『VRシステム』……それは、人間の五感を読み取り、サーバー内のアバターに移す事によってサーバー内に用意された空間に入る事が……難しい話になるため、簡単に纏めると、『ゲームの中に入れちゃうゲーム』なのだ。

 

数年前に開発され、医療や観光など、とにかく色々な事に使われ、そしてとうとうゲームにも使われる事になったのだ。

 

そしてその初のゲームが『SoulOver』。複数の会社が共同開発によって生み出された最新ゲームである。

 

予約は開始30分でいっぱいになり、発売後にも店頭に並ぶのは稀であった。

 

「や……た……ッ!」

 

あまりの人気にインターネット上で高値で取引され、犯罪まで起きる始末。しかもそれを問題視した政府が一時販売停止したりなど、手に入れるのは遥か困難な代物なのだ!

 

「やった、やった!やったぁッ!」

 

つまり、今、僕の手の中には奇跡があるのだ。

 

「やったぁーーッッ!!!」

 

家に駆け込んで自分の部屋に入ると、早速箱を開けて中身を取り出す。

 

「これが……『SoulOver』……」

 

『SoulOver』は初のVRシステム搭載という事で本体と一体になっていた。その本体は重そうなヘルメット型で、コレを付けて寝転がり、電源を入れればいい。

 

逸る気持ちを抑え、説明書を良く読んでヘルメットを装着する。僕は、ベッドに寝転がるとゲームを起動した。

 

 

 

……ゲームサーバーにアクセスしています。

 

……アクセス完了。ようこそ、魂の世界へ。

 

 

 

「あ、あれ?」

 

気が付けばそこは白い部屋の中だった。窓も扉も無い、密閉された部屋。

 

『ようこそいらっしゃいました。新しい旅人様』

 

空から光が現れ、集結して人の形作る。その光が消えた時、そこには立派な鎧を着込んだ女性が立っていた。

 

女性はあらかじめ手に持っていた紙を顔の前に持ってくると、それを読み上げる。

 

『当店では、クーポン券を使用して……?当店の料理を割引価格で……ってなにこれ』

 

それはコッチの台詞である。

 

せっかくの雰囲気がダイナシになった所で僕は声を掛ける。

 

「あの……此処でキャラクターを作成するんですよね?」

 

『あ……あ〜。そっか、そうなんだ』

 

なんなのだろうか?Aiではなく、GMなのだろうか?

 

『では』

 

キリッ!と女性の顔が引き締まった。

 

『キャラクターを作成します。全体像を思い浮かべてから……』

 

女性の横に台と、上に水晶が現れる。

 

『この水晶に触れてください。また、性別の変更は出来ませんので、男性キャラクターのみとなります』

 

成る程。僕は少し頭の中でイメージを固めてから水晶に触れる。

 

水晶の中に金髪碧眼の外国人風なイケメンが現れた。なんとなく恥ずかしくなるが、まぁ、良いかと「出来ました」と女性に伝えた。

 

『では、名前を設定してください』

 

名前……名前か。

 

「イージス」

 

どうせ厨二病ですよ。

 

『承りまし……ガガッ!ジ……!』

 

突然、女性のキャラクターがぶれる。

 

ガッ!ザ、ザザー、ザ、ザ……

 

「う、うわぁッ!?な、なんなの!?」

 

うるさいノイズ音。女性キャラクターはブレて消え失せ、部屋すらもブレていく。

 

ガガガガーゃいまザザザッいってグガガガせ!行ってらっしゃいまァーーッ!!!

 

その部屋はノイズとバグで消え失せた。僕は真っ黒な空間に投げ出される。

 

な、なんなんだ!?一体!?

 

そして突然、世界が現れた。鬱蒼と茂る木々、その中にある街。

 

まて、コレが見えるって有り得ないよね?

 

引き寄せられる感覚。風が僕の身体にぶつかり、音がうるさい。

 

「って落ちてるじゃないかぁーーッ!?」

 

現在落下中。どうも僕が出たのは空中だったらしい。紅葉の繁る森へと落ちていく。

 

「うわあああああ!!?」

 

木々に叩き付けられ、落ちていき、柔らかい地面に落ちた。

 

「ぐふっ!?」

 

背中から落ちた為にお腹の中がぐちゃぐちゃになるような痛みが襲う。

 

ゲームシステムにより、ゲーム開始直後のダメージは無効化された。ふつうそんな事はありえないのだが、念の為にシステムが設定されていた。痛みもある程度セーブされ、それでも突然の衝撃と痛みは辛い物があった。

 

「………う」

 

なんとか起き上がり、頭を振った。バサバサと振り回される『長い髪』。

 

「……?」

 

何だろう?と金色の糸の様な髪を一房手に取る。おかしい。『イージス』の髪はこんなに長くなかったはず。そもそも、髪を持つ手が小さくて、細くない……か?

 

僕の視線は、髪から胸へと移っていた。

 

知識では知っている。女性にしかない脂肪の塊だ。母性の象徴でもある。

 

だが、本来男である僕にあるはずの無い物なんだ。それがなんでついているのかーー?

 

バッ!と股間を押さえた。ない、無い!?男性の象徴がーー!?

 

「あ、あ、あ……」

 

手の平を見つめる。小さくて細いーー女性の手、だ。

 

そして冒頭に戻る。

 

 

 

思いっ切り叫んだ後、しばらくそのまま硬直していたが、ふと我に返った。

 

「そ、そうだ!どうしてこうなったのか、調べないと……」

 

とりあえず、ログアウトだ!

 

左手の人差し指と中指を揃えて横に2回振る。すると<しゃららーん>と効果音が鳴り、目の前の空中にメニューが表示される。

 

……………………………

キャラクターカード

アイテム

アビリティー

パーティー

フレンド

設定

……………………………

 

設定を選択。

 

「あれ……?」

 

ログアウトが見付からない。

 

慌ててメニューに戻り今度はキャラクターカードを呼び出してみた。

 

……………………………

アリス 女性 LV1

・アビリティー

AiスキルL1

なし

・ステータス

HP1

SP1

攻撃力1

防御力1

知力1

守護力1

敏捷力1

『(自己紹介)』

……………………………

 

「な、なんだこれ……アリス?」

 

というかコレ、かなり酷いステータスではないだろうか?見た限り敵の攻撃に掠るだけで死ぬんだが……?

 

と、とにかく!ここにもログアウトボタンが無い。おかしい……説明書では確か設定にログアウトボタンがあったはず。見間違えたかとキャラクターカードを見てみたが、ログアウトボタンは無い。

 

設定の中にあったヘルプを覗いてみたが、ログアウトボタンについて書いていなかった。

 

「ど、どうなってんの……?」

 

キャラクターも、出た場所もおかしかった。しかもログアウトすら出来ないなんて……。

 

「だ、誰か……」

 

ふらふらと僕は歩きだした。誰か、誰か助けて……!この状況を説明して……!

 

ガサガサ!

 

ビクッ!と僕の身体が震えた。恐る恐る揺れた茂みを見る。モンスターだったら、ヤバい……!

 

「え?人?」

 

「ッ!?人いた!!」

 

茂みから出て来たのは紅が目立つ女性。重そうな鎧を引きずり、歩いてきた。人がいるとは思っていなかったのか、きょとんとした顔で手に持つ大剣を下げた。

 

「たたた、たすかったよぉ〜……。ねぇ?ログアウトの仕方教えてぇ〜……」

 

両手を合わせてお願いすると、紅い女性は溜息を吐いた。

 

「……出来ないわよ。さっきのシステムアナウンス、聞いてなかったの?」

 

「ええッ!?で、出来ないって!?」

 

なんでそんなことに!?

 

「あたしだってわからないわよッ!ただ、『アリス』って名乗る奴がサーバーにハッキングして乗っ取ったって宣言してからログアウト出来なくなったの!」

 

「アリスって……僕ぅッ!?」

 

アリス=このキャラクター。

 

思わず叫んでしまった僕は、赤い女性に怪しげな目で見られているのに気付いた。

 

「……自分の名前?」

 

「あ、いや……の、乗っ取ってないよ!?僕じゃないからね?」

 

「………」

 

や、ヤバい……!なんか怪しさ満天だ……。

 

「……貴女、名前を名乗りなさい」

 

え、えーと……

 

「い、イージス……」

 

「その見た目で?」

 

「う……」

 

た、確かに『イージス』はこの見た目には似合わな過ぎる。

 

「キャラクターカードを見せなさい。キャラクターカードを選択して交換するだけなんだから、簡単でしょ?」

 

「…………」

 

だ、ダメだ。見せられない!

 

「あっコラ待ちなさい!」

 

思わず逃げ出した僕を誰も責められないよねっ!?

 

しかし、僕は忘れていた。僕の敏捷力は『1』である。

 

(お、遅い!?足が凄く遅い!?)

 

これではすぐに捕まってしまう!?僕は思わず振り向いて……逃げ切れそうだと安心した。

 

「ま、待ちなさ……お、重っ!?」

 

紅い女性は自分より遅い速さでのろのろと歩いていた。

 

この時は知らなかったが、どうもハッキングの時、プレイヤー全員が始まりの街に転送され、レベルを1に戻されたそうだ。当然紅い女性の鎧の重量制限は満たせておらず、敏捷力は0となっていた。

 

まんまと紅い女性から逃げきった僕は、しかし途方に暮れていた。

 

「なんで僕のキャラクター名がハッキングした人の名前になってんだよぉ……」

 

あまりに理不尽な出来事にガックリと膝を付いた。

 

「これじゃ始まりの街にも行けないよね……。死んでも始まりの街で蘇生だろうからかなり危険だし」

 

しかし、街の外とはつまり、モンスターがいるのである。

 

「……ノーダメージでレベル上げ?VR初心者の僕になんて事求めてるんだ……」

 

せめて、安全な場所を確保したい。

 

「キシャー!」

 

……しかし、天は僕が嫌いらしい。

 

後ろから聞こえた鳴き声に、思わず固まった。ぎこちない動作で振り向く。

 

白い毛、小さなボディ。長い耳とクリクリの目。

 

そして、何故か付いてる額の長い角。

 

「キシャー!」

 

……角を持った兎だった。

 

ニードルラビット×1

 

「うわあああああ!!!??」

 

最悪だーーッ!!!

 

何度も言おう!僕はHP1なのだ!しかも最大値が!

 

「シャッ!」

 

「ひゃッ!?あぶなッ!?」

 

飛び掛かって角で突こうとしてきたニードルラビットを大きな動作で避ける。

 

な、なにかないのか!?

 

僕はメニューを呼び出した。

 

……………………………

キャラクターカード

アイテム

アビリティー

パーティー

フレンド

設定

……………………………

 

アイテムを選択……アイテム一切無し。

 

ニードルラビットが再び飛び掛かって来た!意識をメニューに集中させていたせいで紙一重になったがなんとか避けた。

 

アビリティーを選択!

 

……………………………

使用可能アビリティー

・痛覚刺激

単体の痛覚を刺激する。

使用条件『名称読上』

消費SP0

……………………………

 

な、なんだこれ!?

 

とにかく、わからなくてもこれくらいしかやれる事が無い!僕はニードルラビットを指差して『名称読上』……アビリティーの名前を叫んだ!

 

「『痛覚刺激』!」

 

「ギャーッ!!?」

 

痛覚刺激を発動させた瞬間、ニードルラビットが叫び声を上げた。

 

エフェクトも効果音も何も無い。しかし、ニードルラビットは身体を痙攣させて暴れていた。

 

ビックリして指差しを止めると痛みは無くなったのか、グッタリして動かなくなった。

 

「だ、ダメージすら入らないのに、痛みだけを与えるアビリティー……?」

 

どうやら、キャラクターだけでなく、アビリティーすら普通では無いらしい。

 

グッタリと隙だらけのニードルラビットにトドメを刺すのは気が引けたが、LVが上がらないので意を決してニードルラビットの首を捻った。

 

ゴキッ!

 

生々しい骨の折れる音と共に赤い光の粉が飛び散るエフェクトが現れ、ニードルラビットは消えた。ドロップアイテムであるニードルラビットの角だけが残る。

 

……今、僕は生き物を殺したのか……?

 

急激に沸き上がる吐き気。手に残る命を奪った感触。

 

堪えきれなかった。

 

「オエェェエェエッ!!」

 

思わず口から汚物を吐き出していく。胃がひっくり返るんじゃないかという位出してようやくスッキリした。

 

(……VRゲームを遊ぶという事が、こんなに嫌な事をすることとは知らなかった)

 

普通なら武器などで間接的な感触であり、そして大抵は気分は高揚している。アリスのようなケースは稀なモノだった。

 

吐いて気分が楽になり、僕はニードルラビットの角を手に取って立ち上がった。

 

カララーン!

 

鈴の効果音。なんだろうとメニューを開くとLVが上がっていた。

 

全てのステータスに+1。それだけである。

 

(普通なら幾つかにポイントを割り振るのに、オートで全部上がるのか)

 

どうやら、僕は随分と大変な事に巻き込まれたらしい。

 

それを理解して、生き残る為に、僕は次の獲物を探し求めた。


次回の投稿は……それじゃ火曜日で。

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