脚本変更?
3万1回 7月29日 木曜日 午後4時18分10秒(曇天)
「3万1回か……」
誰に言うでもなく、ぼそりと呟く。
結局、世界は未だに変わらないままでいるようだ。
あの日。3万回目の命日のとき、俺は始めてあいつに聞いた。
「何故俺達を殺すのか」と。
あいつは答えた。
「貴様達に知られてはならないから殺すのだ」と。
一体何を知られてはならないのか。それを知ったところで何もしないのに。
あいつにそれを訴えれば理解してくれるだろうか?いや、話を聞こうともしないだろうな……。
気になるのは二つ。
……そうだ、管理者とこの世界の法律だ。
あいつの言うとおりなら、この世界には本当に管理者が存在している。
恐らくそいつがこの世界を何時までもループさせている人物なのだろう。ならば、そいつをどうにかすれば世界はループせずに済むって事か?
ってかそもそも管理者ってどいつの事なんだ?
それとこの世界の法律。
俺が今までと違う行動を取ったら、あいつは「それが世界を壊してしまう」と言っていた。予定外の行動を取るのがこの世界の規律を乱すことになるのだろう。それも世界が滅びるくらいの予定外の行動だ。
って事は、予定外のことをしたあの日から世界が壊れ始めている……?
でも、今日まで普通に同じ生活を繰り返してきているし……世界が崩れているような感じはまったくしない。
さっぱり訳がわからない。
多分、これからも同じ生活が続いていくのだろうけど。……でも、何でだろう。何かが変わりそうな気がする。理由は分からないけど、そんな考えがずっと朝からあった。
「お〜い、勇気〜。早く帰ろうぜ〜。部活終わったんだろ〜」
大樹が自転車置き場で叫んでいる。魅喜も一緒だ。
バスケ部の部活もようやく終わったところだ。今日もいい汗をかいたぜ。
「OK。今すぐ行くから待ってろ。……そうだ、魅喜!てめぇ俺の自転車の鍵をパクったろ!今すぐ返しやがれ!」
「失礼ね!なんで私がそんな脂汗のついた鍵を取らないといけないのよ!?」
「んだとコラアァァ!貴様今すぐ3枚に下ろしてやらあ!」
「ちょっと、そんな不細工な顔して走ってこないでよ〜!この変態が〜〜!」
なっ!俺はそんな不気味な顔して走ってるのか……?ちょっと反省……。
…………いやいやそんな事じゃなくて!何が脂汗のついた鍵だと?ふざけんな!
俺は全力疾走で魅喜に近づく。今のスピードなら100メートルを10秒で走り抜けれそうだ。
「覚悟ぉぉぉ!小林魅喜ぃぃぃ!!」
拳を作り、今にも飛び掛ろうと身を屈める!
その瞬間だった。大樹と魅喜の後ろのフェンスの向こうに、真っ黒いコートに身を包み、同じく真っ黒い帽子をかぶった人がいる。
それを見たとき、体中の血液が冷たくなった。
――あれ、あれ……あれ……。
もしかして、あそこに居るのは……?
……こんなの見たことがないぞ!ルール違反だろう!?何であいつがもう来ているんだ!俺達が死ぬのはあと1週間先の話じゃなかったのか!?
何で……?予定外の事をするなって言ってたじゃないか!
なんで言ったお前が自分からルールを破ってるんだよ!
そいつはフェンスに指をかけ、こちらを、俺だけをじぃっ……と見ている。
その目が怪しくギラリと光る。
駄目だ……もう殺される……
「こんにちは、伊藤勇気君」
突然そいつに話しかけられて、しばしの間思考が停止する。
「あら……返事は返してくれないのね?なかなか冷たい子ねぇ」
はっと気づいて、周りを見る。既に周りは暗闇に包まれ、なぜか俺はそいつとフェンス越しに対峙していた。
周りには誰も居ない。校庭にも誰も居ない。
大樹は?魅喜は?学校の皆は?どうしてもう日が落ちてるんだ?
まだ夕方だろ?そうだ、時計を見ればまだ午後4時過ぎってことがわかるはず……
校庭の電子時計に目をやる。
――20時12分30秒――
「おいおい……何だこりゃ……冗談だろ?ははっ、一体何がどうなって、」
「貴方は別の世界に来たのよ。幾つもある選択肢の先の世界へとね」
言葉を突然遮られる。
……え?別の世界だって?幾つもある選択肢の先の世界?
………世界が変わった。気がした。
?回 ?曜日 8時12分30秒? (晴天)
「そうねぇ……飲み物はオレンジジュースと、アイスティーで。シロップは付けないでね」
今、俺はこの黒コートの謎の人物と近くのファミレスに一緒に居る。
口調や、声色からして女性のようだ……。何なんだ?この人は。
いや、それ以前にこの展開は何だ?こんなの初めてだぞ……。
今までループしていた中で、こんなことはただの一度もない。
「あの……何なんですか?突然一緒に来いって言って、ファミレスに連れ込むなんて」
「……単刀直入に言うわ。あなたはこの世界……いいえ、貴方が存在していた世界がループしているのを自覚していた?」
「えっと……何なんですか?その俺が存在していた世界って言」
「良いから質問にだけ答えてね。お願い」
またもやいきなり遮られる。
何故だか知らないが、この人は俺がループ世界を自覚しているかどうか聞いてきている……。
どうしてだ?
それよりも俺の存在していた世界だとか、さっき言っていた幾つもある選択肢の先の世界って何だ……?
「どうしたの?知らないなら知らないで良いのよ。一応、イエスかノーかは答えてね」
「……知っています。俺は、世界がループしているのを知っていました。それが一体どうしたんですか?」
「知っているのね。ならあんな事が起きたのも理解できるわ。あの世界の管理者は想像力に長けているようねぇ……」
何を言っているのかさっぱりだ。あんな事って何だ?あの世界って何だ?
「あの……何なんですか。あの世界とか、さっき言っていた幾つもある選択肢の先の世界とかって」
「……これから言うことは全て真実よ。貴方が信じるか信じないかは勝手。まぁでも、信じるでしょうけど。その前に一つ伝えておかないとね。貴方をこの世界へと連れてきた理由を」
さっきからこの世界とか、あの世界とか……
目の前がぐにゃりと歪む。
「この世界に貴方を連れてきた理由。それは貴方が存在していた世界を変えるためよ」