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the loop world  作者: 灰雲
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役者達の舞台

3万回目 8月3日 火曜日 午後7時28分37秒(晴天) 


何時からだったろう。この世界が回っていることに気づいたのは。

別に地球が回転しているって言うことじゃない。

この世界では同じことが何回も繰り返される。俺は何回も死んで、何回も生まれた。

いい加減、飽き飽きしているのだが何時終わるとも知れない。たった今話しているこの言葉だって、確か最初からの丁度今と同じ時間帯、同じ場所で話したはずだ。

いや、「はず」ではない。話したに「間違いない」。決まっているのだから。

誰に話したって?

――自分に。


たった今、目の前で広がっている「ソレ」はいつも見ている。

「早く搬送するんだ!」

「病院にはすぐに手術が出来るように連絡しておいてくれ!」

普段の生活から遠くかけ離れた惨劇の舞台。はじめてみるその光景に目を覆う人や、泣きながら嘔吐する人も居る。

暗い闇の中、街灯と車の明かりに映し出された謎の塊。赤黒く染まり、時々ピクンと痙攣する。親子連れは足早に立ちさり、野次馬達はその光景をじっと見ていた。だが、その野次馬達も自然と目を逸らしてしまう。

嫌なら見なければいいのに。


――違う。ここにいる人たちは興味本位で見ているんじゃない。見るようにプログラムされているだけだ。

俺は何回もこの光景を見てきている。今日で丁度3万回目だ。

トラックに轢かれて足を切断した中年の男。この後、病院に運ばれるのだが、今日の午後9時34分19秒に出血多量によって死ぬ。

事故の原因はこの男の信号無視。その上酔っていた。そこにトラックが勢いよく突っ込み、酔っ払い男を轢いてしまう。

警察は翌日には何があったのかを遺族に話すが、遺族はこの男が邪魔だったらしく、ろくに話に耳を貸さなかった。警察は呆れてたいした捜査も行わず、何時と知らずに事件は人々の頭から消え去っていく。

そういうシナリオだ。もう3万回も繰り返している。

できればとっとと新しい台本を作ってもらいたいものだ。何所の誰が作っているのは知らないが。

死にたくても俺の命日は決まっている。今から2日後の、8月5日だ。それまで俺は決められたプログラムに従って行動していく。それに反すれば、予定調和の世界の崩壊。何が起こるか、わかったもんじゃない。

この世界の人々に意思とか感情なんて、あってないようなものだ。そんなもの、このおかしな世界で演じる役者に必要ない。

この世界は決められたルールどおりにしか動けない世界。何所の誰が俺達を管理しているんだろう。生と死とか、運命だとか。それがこうやって元々決められていたものだなんて思うと、あまりに呆気ない。

結局、選択肢なんてものは幾つもあるように見えて、そのほとんどは幻で。一つしか進む道が無いなんて。しかもそれが元々決まっていたものなんて。

生きていることに喜びを見出せない。俺達は決められたことだけを演じる役者。それ以上でもそれ以下でもない。本当にそれだけしかない世界なのだ。

この世界には色彩が無い。作り物の世界。

全てが予定調和の世界。起こることは全て受け入れなければならない。

俺は仲間を助けられない。そう決まっている。

後悔はしている。死ぬ間際にいつも思う。

『次こそは世界が変わっていますように。そして俺に、剣をもう一度握らせてください。きっと愛すべき人たちを守ります。だから許してください』

結局それを3万回も繰り返している。何時になったらこの世界の歯車が狂うのだろうか。

いや……。そのときこの世界はどうなってしまうのだ?小さな歯車の所為で、この世の全てが終わるのだろうか?

俺はそれが恐ろしくていつもと同じ行動をしてしまう。

……。それすらも決められた考えなのだろう。俺が世界の規律を乱さないため。

未だに俺は、決まった数字しか出ないサイコロを振り続けている……。





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