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the loop world  作者: 灰雲
15/18

殺意

(怖い怖い怖い怖い怖い……!!!)

足元がふらついている。走っているつもりだが、全然速度が出ていない。歩いているのと、大差がないんじゃないだろうか。

「う……げぇっ…………!」

走っている最中、まともに呼吸をしていなかった。もう頭の中がめちゃくちゃで、無理やり体を動かしていただけだった。おかげで、今頃体中の調子が悪くなってきやがった……!!

呼吸を整えようと、木に寄りかかり深呼吸を繰り返す。……頭に酸素が回らない……。気持ちが悪い。


丁度目の前に公園があった。その公園の端に、ぽつんと立っていた薄汚れたトイレを見つけると、俺はまたふらふらと駆け出す。男子トイレの中に入り、便器に体中に溜まっていた内容物を吐き出した。


「うぇ……っ……あぁっ……ぐぁ……」

びちゃびちゃ。べとべと。ぐちゃぐちゃ。


聞いているだけで不快感を催すこの音。それが更に俺の気分を……。

どれだけ吐き出しても、止まらない。頭をかき回されるような頭痛も、止まらない。

その内、はっきりとした固形物は出なくなった。吐き出されるものは胃液と、咳きだけ。でも吐き気はおさまらない……。



どれくらいの時間が経っただろうか。

何時間もここに居たような気もするが……。

腕時計に目をやる。コンビニから逃げ出してきて、まだ30分程度しか経っていなかった。

陽も大して傾いてはいない。……当然か、今は夏だから。

さっきのコンビニに村上たちが居たから、もうバスケ部の連中は帰宅している頃だろう。バスケ以外の部でも、もう帰る準備をしている奴らは結構居るはずだ。学校の連中に誰にも会わずに帰宅するのは、少々難しいか……。


「……クソ……。一体誰が……」


あの自転車。俺への悪意がはっきりと具現化された。<ロックがかかってない自転車>に<ロックがかかっている>……。誰かがわざとやったとしか思えない。、鍵をかける時間は少しの間しかなかった。……村上と灰谷だろうか。それとも、他に誰かが居て、鍵をかけたのか?


誰がやったかはわからないが、とにかくコレは言える筈だろう。……俺は皆の間から排除されようとしている……。皆の頭の中から、俺の存在を。

そう、皆は……いや、皆なんて言い方じゃない。「あいつら」だ。

あいつらは俺を消そうとしているんだろう。殺すとか命を奪う、とかいう意味じゃない方で消そうとしている。ある意味、最も酷い仕打ちかもしれない。

俺はそんな中でどう生活すればいいんだろう?おとなしく家で引きこもっているか……?駄目だ。そんなんじゃ何も出来ない……。俺のいた「世界」を救うには、何か行動を起こさないと。

俺のいた「世界」を救うにはこの「世界」がどうなっても大した問題ではない。あいつらに何かを気にかける必要は何も無い。あいつらが俺を排除するのならば、俺もあいつらを避けてやる。

もっと動き回らねば。探らねば。何をどうすれば世界を救えるのかを。そしていつも夢見た平和をもう一度。そのためならば……………。


「…………帰るか。ここで黙っていてもどうしようもないしな……」

薄暗い男子トイレから外へ出る。そして家への帰路を辿りだす。その一歩一歩が重くて辛かった。


公園を出て、広い道路を抜けようとする。横断歩道を渡ろうとして、走り抜けようとしたが、信号が青にならない。いつまでも赤のままだ。

こういう日に限って、車の交通量がやけに多い。早く青になれ……早く……。こうしている間にも、「あいつら」が何をしでかすかわからないのに!

体中が汗ばんでくる。暑いから、というのもあるが何より焦る気持ちが一番の理由だろう。

しばらくして目の前を大型トラックが数台通過したときには、いつの間にか信号は青に変わっていた。それを確認するなり、急いで駆け出す。


道路を越えた後、人があまり居ない小道を選ぶ。もうすぐで俺の家だ。

黙々と歩き続けると、緑色の葉を振りかざして光を浴びている桜の木々が見えてきた。ここは地元では有名な花見の場所だ。とはいっても、花見の時期などとうに過ぎているので、誰も居ないのだが。

ひっそりとした桜並木の一本道を歩き出す。とても静かだった。木々の葉がざわめく音が心地良い。

ここまでくれば、後はまっすぐ家にかえるのみ。公園からここまで来る間、何人か学校の生徒に出会った気がするが……気のせいだろう。

とぼとぼと、まっすぐな道をずっと歩く。太陽が大分沈みかけてきた。空がどんどん朱色に染まっていく。今は何時だろうか。

腕時計を覗き込むと、既に午後7時前。夏真っ盛りの今だから、こんな時間でも日が照っている。

そろそろ青い屋根の家が見えるだろう。それが俺の家。そう、この曲がり角を曲がればもう目の前だ。


曲がり角を曲がろうとする。その時、「あいつら」はそこに居た。

「……魅喜と大樹……!何でここに……!」

二人とも俺の家をずっと見上げている。その目線の先は……俺の部屋だ。二人とも動かない。車が近づいても、そしてその車がクラクションを鳴らしても動じない。ただひたすら俺の部屋を見つめている。

「何しにきたんだよ……」

得体の知れない行動をする二人を見て、思わず隣の家の生垣に隠れた。

と、同時に二人がやっと動き出す。こっそりと二人の表情を伺うが……いまいちよく見えない。ザッザッと砂利の上を歩く音が近づいてくる。

俺の隠れている生垣へとどんどん近づいてくる。

二人は何かブツブツと話しているようだが、小声なので聞き取りにくい。それとも、俺の心臓がバクバクとなっているから聞こえないのか?

汗がまだ出てくる。唇が乾いてくる。緊張しているのかよっ……!違う、恐怖だ……。

今度は呼吸が乱れてくる。落ち着こうとして、大きく息を吸い込んだ。


「………………」

空気の塊を肺の中に取り込んだその時、二人は、丁度俺が隠れている生垣の前で立ち止まった。

「………………」

ジッと、俺が隠れているほうを見つめている。


……吸い込んだ空気を吐き出せない……。苦しい……!

大きく吸い込みすぎた所為で、咽そうになる。思わず咳をしてしまいそうになったが、無理やりそれを殺した。


「勇輝は………いなかったな」

「そうね……。また今度、見つけ出して聞き出しましょう」


抑揚の無い、低い声が響く。なんだか、生気が無いような……。

生垣の間から、目と鼻の先に居る二人の顔を覗く。

……目はドロンと濁って、深さが測れない。

声は聞こえるのに、口を開いているようには見えない。

こんなの、いつもの二人じゃない……。


「……あいつはどうなるだろうな……」

「さぁ……?」

「まだ……なのか。ただでは済ませない」

「いい加減にしないと、私達だって怒る事を教えてあげないとね」

「いつまでも甘っちょろい友人じゃない事を、勇輝に叩きつけてやる」

「ふふふ……」

「ははは……」

「ふふふふふ………!!」

「はははははは……!」


「「あはははははははははははははは!!」」


何が可笑しいんだよ……。なんで人の家の前で、そんな大声で笑えるんだよ……。

いつまでも大声で笑い続ける二人。でも、表情はちっとも笑っていないように見える。

ずっと無機質な声を出しているだけ……。

異様な行動に、俺はいよいよ怖くなってくる。

逃げ出したいが、今のこの二人に見つけられたら何が起こってもおかしくない……。……つかまりたくない!


「……………」

「……………」

突然の静寂。

二人の笑い声が止まり、今度は不気味な無音の世界がやってきた。その上、今度はさっきまでここを通っていた車がまったく通らない……。

もうここは俺と、大樹と、魅喜しか居ない世界になっていた。


「勇輝……驚くかね。あんなプレゼントがしてあるなんて」

「そうね。むしろ、親切にしすぎて怖くなっちゃうんじゃない?」

「怖くなるか……。面白い事を言うな」

「私が合流する前にやったって事は……ほんの僅かな時間でアレをプレゼントしたの?」

「ああ。勇輝や、周りに人が居ないことを確認してからやった。ホント、あの時は運が良かったな」


もしかして……自転車のロックの事か………?こいつらが……やったのかよ……?

こいつらのせいで、俺は……!

頭がおかしくなって来る。ここ数日で、俺の頭は幾度と無く錯乱しそうになったが……。もう、もう……。

友人だったはずだ。仲間だったはずだ。いつまでも騒ぎ合えるはず……。

大体、こいつらの行動がおかしいって言ったって、ずっと続いているわけじゃないだろう?学校でも、普通に話しているし!

怖いけど、こいつらはおかしいけど、それでも……!信じていたい……!!

だが、次の瞬間には俺の決意は固まった。その言葉に感謝するべきか。おかげで俺は葛藤の地獄から引き離された。







「ホント、勇輝は馬鹿だな。だからいつまでたっても、一人でずっと悩んで、うじうじと」

やかましい。

「そうよねぇ。駄目な奴っていうのは何をしても」

黙れ。







『いつまでも騙されるなよ。いい加減にしろよ。世界を救うんだろう?』








こいつらは違う。敵だ。裏切り者だ。排除する。




突然、体中が驚くほど冷え切った。

目に見えるもの全てが鮮明に見える。

そして、当然のようにそこに置いてある物が見えた。始めから、使うように仕組まれていたように。

コンクリートの塊。手のひらで握って殴れるぐらいの、丁度良い大きさだ。

そしてもう一つ、鉄パイプ。握ってもいないのに、何故か重さがはっきりわかる。これで人を殴れば、簡単に事は終わるだろう。

どちらを使うべきか。そう考えたとき、自分でも信じられないくらいすばやい計算が始まった。


シミュレート開始。


鉄パイプ使用時。簡単に殺傷可能。事後処理、証拠隠滅等に不利な可能性あり。

コンクリート使用時。決定打を与えるには難易度が上がる。事後処理、証拠隠滅等は至って簡単。


周辺状況。一般住民の姿をサーチ。確認されず。その他の人間の姿、現在時刻との照らし合わせによるサーチ。……帰宅時刻が近いため、少々難しいと思われる。

地形情報。音の反射、悲鳴の大きさ、攻撃時の音による現場の発見。……問題無し。悲鳴をあげられる前に確実に消す。


攻撃箇所。及び攻撃方法の選択。鉄パイプ使用時、頭部、腹部、下腹部を攻撃するのが理想。コンクリート使用時も同様。また、懐に飛び込めるため、理想的な攻撃箇所がスムーズに狙える。

遺体の処理方法。……現在我が家に誰もいないことを確認。一旦自分の部屋に収納後、処理方法を検索する。


詳細情報。自分にとって、脅威となる物体、及び物質……なし。目標二人、危険物質所持確認……なし。


再検索。………………自分にとって、脅威となる存在を一件確認。




以上の点を踏まえた上での最終結論。



排除開始。目標は二人。確実な排除を最優先とする。使用武器は鉄パイプ。危険事項の再確認をもって、最終確認とする。




危険事項再確認。




『それは自分自身の心』






排除開始。




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