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the loop world  作者: 灰雲
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毒牙

……不思議な浮遊感。鼓動は自然に早くなる。額には嫌な汗をたっぷりかいていた。

日差しが痛い。手をかざして、陽の光を遮るように家へと向かった。

……途中ですれ違う人々の顔を見たくない。さりげなく視線をずらし、逃げ出した。だが、そのたびに背中へと痛い視線が突き刺さる。…………痛い。イライラする。

自転車をこぎ、とにかく家へと向かう。




そうだ。家へ向かう前に、途中でコンビニに寄るか……。少し腹が減ったし、何か買っていこう。

それに、ここの店員なら俺の顔を知らないから大丈夫なはずだ。

そう思いながら、店内へと入る。足早に食料品コーナーに向かう。あまりお金が無いから、たくさん買うことは出来ないな。まぁいい。

ふと時間が気になって、腕時計を見る。……午後5時丁度。今日の部活は珍しく夜練が無い。もう下校し始める生徒も居るだろう。今の俺にとっては関係のないことだが。

時間をもう少し潰そうと思い、雑誌コーナーに向かう。そこで適当な週刊誌を読んだ。


「……今頃あいつら、頑張ってんだろうな……」


雑誌を読んでいても、頭の中で繰り返されるのは同じことばかり。部活の事だ。

澄香さんの言うとおりにしてるだけなら楽だろうと思っていた。そうすりゃすぐにでも俺達は助け出されると思っていた。

だが、実際は何だ!?俺は辛い思いをし、仲間からは軽蔑され、暗い底からの声に悩まされる。

本当ならば、俺がいるべき世界はここではない。こんな最低な世界じゃない。そう、本当は前に居たような、明るい世界で過ごすべきなのだ。

皆で毎日を明るく過ごす。必要最低限の幸せでいい。そんな世界を頭の中に思い描く。……だが、その世界も結局は「あいつ」に壊される。そう、あの満月の夜の現れて、俺達の幸せを打ち砕く「あいつ」だ。

もし、「あいつ」が俺達を殺さなかったらどんな世界が待っているだろう?

決まっている。必要最低限の幸せに満たされた、俺の望んだ世界が待っている。

「あいつ」をどうすれば止められるんだろう?俺達はどうすれば望んだ先の世界へ辿り着けるんだろう?


「ったく、いい加減にしろよな!あのマッチョ体育教師!」

「ホントによ〜!何だって俺達が説教されなきゃならないんだか!」


やかましい声が店内に響く。

バイトのような店員が迷惑そうな顔を上げて、その声の主へ顔を上げた。

俺も少々気になり、顔を向けた。


「どれもこれも、キャプテンの伊藤が休みすぎだからだよ!」

「言えてる!あのクソが真面目に部活に来てりゃ良い話なのにな!あいつのせいで俺達の平和がぶち壊しだぜ」


……村上と……灰谷だ。

普段からこいつらの、誰かに対する陰口はしょっちゅう聞いてる。嫌な先生だとか、クラスメートを対象にしていつも影でコソコソしている。だが、自分がそのターゲットになるなんて、思いもしなかった……。

また嫌な汗が吹き出てくる。息苦しい……。目が痛い……。

手元にあった週刊誌を棚に戻し、二人に見つからないようにコッソリと店の出口へと向かう。音を立てないように歩き、自動ドアの前までやってきた。

しかし、カバンが商品に引っ掛かり、落としてしまった。心臓がビクン!と跳ね上がる。拾おうとして、腰を屈めた。

と、その時、後ろから二人が俺を見ていた……。

体中に電流が流れる。

俺は落とした商品を拾わずに、店の外へとはじき出されるように、飛び出した。



駐車場の近くに置いておいた自転車を見つけると、一目散に駆け寄る。サドルにまたがり、ペダルを踏みつけた。

だが、数瞬もしないうちに自転車は止まる。何度ペダルを踏みつけても、「ゴギッ」と金属音を出して止まるだけだ。

(やばいやばい……!逃げなきゃ、逃げなきゃ!ああぁあぁぁ!!動けよ、クソ!)

どんどん焦りが出てくる。何で動かないんだよ!?早く逃げないと、何があるか……。

自転車のあらゆるところを蹴り付けたり、揺すったり、殴ったりする。石でも引っ掛かっているのか?

もう一度ペダルを踏みつけたとき、俺は、何がこの自転車を動かさないようにしているのか気付いた。






……自転車にロックがかかっているだけだった。それだけの事。






「…ば……馬鹿じゃねぇの!?俺!?」

あまりの自分の馬鹿らしさに、ほとほと呆れる……。やっと原因を見つけたが、その理由が自分の間抜けさにあったとは……。

だが、おかげで少し冷静になれた。やはりこういう緊急のときにこそ、冷静になって物を考えるべきなのだろう。


コンビニのほうを振り向くと、村上と灰谷がレジで会計をしているところだった。もう時間が無い!早くこの場から立ち去らねば!

ロックを外そうとして、鍵をカバンの中から探し出す。手当たり次第手で叩いて、感触で探すが、無い。ポケットの中を荒く探し出す。無い。胸ポケットも探す。無い。自転車のかごの中も探す。……見つからない!

「……畜生!こんな時にまで俺の間抜けっぷりは出ているのかよ!自転車のロックを外すための鍵が無いなんて!」













なぁ待てよ。今更気付くなんて俺もどんだけ馬鹿なんだ?何で最初に気付かなかったんだ?

一体俺はどうしてこんなにも馬鹿なんだ?何故だ?何故今更気付く?


俺は昔、自転車にロックをかけて、鍵を無くすという馬鹿をしでかした。それ以来、ロックをつけていない。今までに一度も自転車を盗まれた事もなかったし。特に大きな面倒ごとも無かったし。むしろ、ロックをつけると、鍵を失ってしまいそうで、つけない方がよかった。

だからロックをつけていない。



俺の自転車には元々<ロックなんて無かった>はずだろ?

どうして今、俺の自転車には<ロックがかかっている>?

俺はやっていない。ロックなんてあの小さい頃から一度も持っていないから。だからロックをつける事は出来ない。


じゃあ誰が自転車に「ロック」をかけた?どうして?




ドウシテ俺ハ逃ゲラレナインダ?

誰ガ俺ノ行動ヲ邪魔シヨウトシテイルンダ?

誰ガコンナ事ヲヤッタンダ?





恐怖が頭を貫く。もうまともに物を考えられない……!

手を額に当て、冷静さを取り戻そうとする。

同時に、コンビニから村上と灰谷が出てきた。それに気付いてか、俺の体は考えるよりも早く動き出した。向かう先は、自分の家。

もちろん、悪意に満ちた自転車を残して。


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