白い走者
一斉掃射の合図で打ち出された弾丸よろしく、僕らは同時にスタートを切った。
かなりの数の走者だ。
皆が一番にならんと、力の限りの力走を開始した。長い道のりなのに皆が最初から全力疾走。このレースに賭ける意気込みが伝わってくる――
という訳でもない。
それは昔の話だ。今は皆何だかだらだら走っている。
多くのことに本気になれない。そんな今時の気質を表しているかのような僕らの走りだ。
ただエントリー側におくり込まれたから、とりあえず目的地を目指しているように見える。
僕もその中の一人だ。だが僕はこのチャンスを逃す気はない。
このレースに参加できるだけでも幸運なのだ。
多くの者は希望しても、レースに参加することすらできなかった。その無念を背負って僕は走る。
ただ真っ直ぐ目的地を目指すだけ。それだけのレース。参加者にもあまりやる気を感じられない。
それなのにこの参加者数のせいで、レースをすること自体がまるで障害物競走のようになっている。
これでも参加者は年々減っているらしい。レース自体もなかなか開催されないらしい。
エントリー側は気後れからかなかなか走者を送り込まず、主催者は面倒くさがってレースを開催しない。
どっちもどっちの状況が、次世代の参加者を減らしているとも聞く。
その上走者そのものに最近は元気がないのだから尚更だ。
だが今の僕には気にしても仕方がない話だ。今はレースに集中する他ない。
まさにこれは生存をかけた競争だからだ。まさに人生を賭けた一度きりのレースだからだ。
僕はやはり障害物競争のようなこのコースを、押し合いへし合いしながらゴールを目指した。
ゴールが見えた。僕は自分の何倍もあるそのゴールに頭から突っ込んだ。
「男の子が欲しいな」
その時、レースの主催の声が聞こえた。
「女の子でもいいけど」
少なくともどちらかの願いは僕が叶えてあげる。
そしていつか次世代のレースを開催するか、もしくはそこに走者を送り込むのだ。