第三章 諸邦記 零 革命本町
日本が不破関で分割統治している仮想世界をモチーフにしてます。脱西した男の物語。
国紹介
西 扶桑連邦(社会主義)首都大阪
東 日本国(資本主義)首都東京
桜は散り、空はどんよりとした梅雨空になっている。前回の彼の帰りの顔はそんな顔と形容出来る。しかし、今目の前にいるのはそんなことを笑い飛ばす勢いの笑顔のおじいさんだった。愛想のない店員にアイスコーヒーを頂き、話し始める。
「おはよう。では早速お話を…」
『待って。メモ帳とペン、…あった。どうぞ』
「前回はどこまで話したかな?」
「えぇ~と、米原での戦いの辺りです。」
『そうだった。申し訳ないのぅ~。その時随分と心にダメージがきてしもうてた。』机に頭をつく
「そんな、そんなこちらこそ申し訳ない。悲しいことを蒸し返してしまったのですから。」彼を宥める。
『ありがとう。』彼が姿勢を整え話し始める。
『では続きじゃな。米原での功績のお陰で鉄道省での管理部出張員、出張してその地の鉄道官吏や町を視察する役職、下っ端の職に抜擢された。そのときは心もぐちゃぐちゃやった。荒廃しきった米原から大阪への引っ越しで忙しかったり、親の死に目が見れんかったから毎晩枕を濡らしたり、色々物事がありすぎて気持ちを慮れんかった。だから嬉しいのか嬉しくないのか分からんかった。』頬杖を付き遠い昔を見るような姿勢で語る。
『そのときの直属の上司が…あぁ、そのメモ帳とペンを貸してくれ。』
「いいですよ。」メモ帳とペンを手渡しする。
彼は名家の坊っちゃんにありがちな達筆で、名前を書いた。
『説明がめんどくさそうだから、書かせてもらった。
太田垣 狩矢 兵庫の生まれで、鉄道省に抜擢された秀才の37才だ。彼には随分お世話になった。心の相談やったり、仕事やったり、色々聞いてもらった。故郷で取れたカニを部下に食わせてくれたこともあった。』アイスコーヒーを一口飲む。
『で、とても久しぶりだが本題。地方官吏で、連邦を回りどんな状況か、把握する仕事の経験を語れるわけだ。』にこにこと私を見つめそう言う、
『初仕事は、革命本町。普通は全員大阪に決まっているらしいが大阪に住んでるやつはすべからず、革命本町に行かされるらしい。一週間の出張を命じられた儂は早速行くことなったんだ。
若い子は知らんかも知れないが革命本町は昔【京都】と呼ばれておってそれはそれは風光明媚な町であった。しかし扶桑連邦ができてそれは変わってしまった。新政府の無宗教での支配に反発した寺社仏閣が見せしめのために燃やされ、僧たちも磔にされたり色々な方法で殺された…。何もなくなったのだ。
そして名前もお飾りのようなお名前、【革命本町】と変えられた…。君は博識だから分かるかい?』
そう,ため息混じりに教えられたがそれらのことは義務教育でもやる当たり前のお話である。
「は、はい。無論知ってます。』
『そうか、そうか。君もマメな人だな。大阪を出た日の昼過ぎ降り立った時感じたのは、繁雑感。古び朽ちかけたバラック小屋、確かに何かがあったであろう残骸、町の全ての人が誇りというものを失いただ動く機械人形と化した姿。全てが元の【京都】らしくなかった。最初はそれにショックを受けた。幼少期に京都に行ったときとはあまりにも違いすぎたんじゃ。あの素晴らしい町は消えてしまったのだ、とな。私は駅から少し離れた安旅館に泊まった。薄布団に体を擦らせ眠りに就いた。二日目、三日目はとにかく歩きまくった何処かしら京都らしいところはないのかと、しかし何もなかった。金閣寺も銀閣寺もただの空き地と化け、人々が足で踏みつける跡地と化した。あの町はすでに只のバラック小屋のたち並ぶ闇市が人を賑わす下衆びた町と変貌していた。それはどんだけ歩いても変わらなかった。四日目になると、京都と違う町をみてる。という価値観で視察する事ができた。本町の役人たちは闇市の店員を脅し金品を奪い、女を買っとった。注意しても彼らは『君もやれよ!』と軽々しく言うばかりじゃった、儂は心底苛立った。
「お前は腐っても古都京都の高潔な人だろう。軽率な行動はしないべきだ。」
『ここは古都じゃない。新しい町。革命本町!!俺たちの町だ!!俺らがルールを作るんだよ!!革新的な町に古都なんて矜持は要らないんだよ!!』
ここは京都ではないと自らを言い聞かせ出張を終わらせた。儂は報告書にこう書いた。
[もはや、革命本町は過去の精神も建物も何もない。未来への希望がある非常に【革新的】な町だ。]
あの仕事に厳しい太田垣からの評価は最高点A。その字は取り消し線が二度も引かれた跡が見えた。相当葛藤したのじゃろう。【革新的】という三文字を書けば良いという簡単な試験で、儂は出張員となったのじゃ。』
自嘲するように呟くと彼は
『これから予定がある。失礼する。』
といい、立ち上がり去ってった。
彼の気持ちは暗すぎて私には見れなかった。看破しようと真剣に後ろ姿を見つめたが、彼の足音は澱み、彼の影が墨のように暗くなっていくのみだった。
お久しぶりです。八戸の鯨です。
春も深まり花粉に苦しむ季節にあります。
皆さんも頑張ってね。




