第二章 生まれ
日本は二つに分断した。
東の日本国。
西の扶桑連邦。
扶桑連邦から脱西した男が、何を語るのか?
もうすっかり、暖かい風が吹くようになり木々は桃色に染まっている。私は結城と話をするため前と同じ喫茶店で待ち合わせをしている。少し苦いブラックコーヒーを飲みつつ心をワクワクさせながら待っていると、ついにといっては難だが彼が来た。少し若返ったかと思うぐらい、肌がきれいになっていた。
『おはようございます。本日もよろしくお願いします。』
「やぁ。そんな堅苦しくなくてもいいんだけどなぁ~。まぁ、よろしくね。」声も少し若返ったかもしれない。やはり50才ぐらいなのでは?と勘繰る
「冬はちょっと友達と遊びに行って…ちょっと南の琉球諸島まで行ってね…。(15分程)」前言撤回、話が長いのは老人の証だ。申し訳ないが話を切ってしまおう。
『ごめんなさい。本題聞いてもよろしいですか?』
「あぁ。申し訳ない。老いぼれの長話を聞かせてしまったね。じゃあ話していこう。」
私は愛用のボールペンとメモ帳を机の上に置き結城の目を見る。彼の目は真剣そのものだった。彼は私の頼んだ苦いブラックコーヒーなんとも甘ったるそうに飲みつつ、話していった。
「まず、儂の名前は結城信家、福井の方の生まれだったが引っ越して米原に住んでいた。かなりの名門の血を引いてたらしいが、その時は俺の家はすでに没落しきっていた。だから父は米原に引っ越して鉄道関連の仕事に就いたのだ。父は名門らしい厳格な人で俺に礼儀を教えてくれた。母はなんとも勉強熱心な人で、俺がわからないところもすらすらと教えてくれた。ふたりの存在で、俺が成り立ったといっても過言ではないな。」遠くのビル街を見つめ言葉を紡ぐのは、熟練の技といってもいいだろう。
「そのふたりもあの軍のせいで消えちまうだけどな。」
そう嘯く。
「俺の幼少期は米原1の秀才と呼ばれておって、学年一位を独走し続けた。友達もそれなりにいたが、あいつらが馬鹿過ぎて話しにならんかった。俺が数学の話をしても家康のことを話しているような奴らばかりだったな。」自慢気に語っているが、その後の言葉を聞き逃しはしなかった。
「アイツライマドウシテイルンダロウナ」その時だけ年相応の顔付きで彼は思案していた。その顔は苦しみに満ちていた。しかしすぐ笑顔になった。(私には張り付けているようにしか見えないが。)
「ゴホン。気を取り直して、そのまま順調に成長し、いつの間にか父と同じ国鉄に入っていた。最初は機関士で服を真っ黒にしながら仕事していた。その時の元気が今も残っとる訳じゃな。」力瘤を作りながら先程とは違う、屈託のなき笑顔をこちらに向ける。
「機関士で軍に取られんかった。学友らはほとんど南に行っちまったがな。」皮肉るような短いため息を吐く。
「終戦後も慌ただしく仕事に励んでいたが、そんなときにあの上陸だ。その時儂はたまたま四国の機関区で働いていたんだが、もう昼過ぎぐらいには赤に星四つの旗が翻っていた。戦車を目の前に対抗できるものは何もなかったしな。そして中華人民共和国軍に徴収されたあとは、儂は近江の方の土地勘があることを活かして地図役のような役割で近江を攻略する軍についていった。特に米原の辺りは激戦でスターリングラードを超すとも言われる被害、屍も山のようだった。その中に父母がいたのかはわからない。その時から永遠に会えなくなったのは事実じゃな。」彼の皺筋には少し涙が見える。苦いブラックコーヒーをなんと苦しそうに飲み干すと、胸がでかいメイドに甘いミルクコーヒーを頼んだ。
「すまない。少し悲しくなってしもうた、儂をよぅ愛してくれたからな。」涙が溢れ落ちたが何も言わない。
「申し訳ない、今日はこれで終わりでもよいか?」
ミルクコーヒーを、苦そうに喉に押し込みつつそう言った。
『はい、いいですよ。』そう私は乾いた声で、送り出す。
とぼとぼと夕暮れへと変わるビル街を歩く彼は、傷ついたまだ若き少年のようだった
前回のあとがき、裏切ります。
意外と書けたので出します。
これからも(不定期)だけどよろしくね!




