第6話:セブンスのお仕事2
研究所を囲むようにあるゼノ・グラウンドの壁を掘り進めて、観測された強大な魔力の集約地点の在処を見つけることがセブンスの、そして本来は姉妹たちも含めた魔導人形の使命だ。
問題としては、壁を単純に掘り進めても、空間が歪んでいるせいで、いつの間にか目的の方角からずれてしまうのだ。
何も考えずに掘ると、それこそスタート地点の反対の壁を突き破って、研究所に戻ってしまうこともある。
そこで、正解の道筋を見つけ出しながら掘り進める道を見極めるために、作成されたのがセブンスだ。
「この層は、火属性と風属性の混合に闇もちょいかな」
赤黒い岩盤に視線を向けながら、手に持っている杖に魔術を行使する。
杖は特殊な魔鉱石からの鋳造で作成されており、金色の装飾ともに装着されている蒼い宝玉は、セブンスの魔術の威力を上げるサポートをする。
「対属性のブレンドは……」
『水5、土3、光2を推奨』
「ん。了解」
ラプラスの指示に従い、セブンスは杖先に赤、茶色、そして白色が混合した魔力の球体を生み出す。
「それじゃあ……やりますか」
『西南方向に5メートルまで』
「進路を変える時になったら、教えてね〜」
うんざりした表情をしながらセブンスは、杖を振り上げるのと同時に、発生した球体は姿形を変えながら杖に付着する。
「オラァ!」
うんざりした表情から一転して、ヤケクソ混じりの怒声と共にセブンスは、杖……から、姿形を変えた巨大なハンマーを振り下ろすのであった。
身長150センチほどの小柄なセブンスの身長を超える巨大なハンマーを振り下ろす光景は、仮に何も知らない第三者が見ていたら、華奢なセブンスのどこに、そのような力があるのかと驚くだろう。
実際は、魔力でできているので重くはない。そのため、腕力は不要だったりする(仮に見たままの重量でも振り回せてしまうのだが)。
振り下ろされたハンマーが岩盤に衝突する。
本来は衝突音が鳴るのが自然だが、セブンスが破壊しようとしているのは、物理的な岩盤ではない。
魔力によって構成された魔力物質である。
ぶっちゃけ、岩盤と言っているが、岩でもなんでもない。
そのため、通常の岩が砕けるような音が発生しもしなければ、砕けた岩の欠片が飛び散ることもない。
振り下ろされたハンマーと魔力物質の接合面から波のような波紋が広がっていき――わずかながらの魔力物質が消失する。
掘り進められた距離としては、およそ30センチあるかといったところだろう。
「その掛け声はどうかと思いますよ、セブンス。一応、あなたは女性モデルであることを忘れないように」
「女性らしく見せる相手がいないなら意味ないでしょっと!!」
そう言いながらセブンスは、再度ハンマーを振り下ろす。
「元々は、空調の効いた部屋から、他の姉妹がスムーズに穴を進めるために、岩盤の層の解析をして伝える指揮官ポジションだったのに、今では坑夫人形……人生、いやドル生何があるかわかりませんね」
「ニャン生みたいに言うな! 肝心の姉妹どもがいなくなったんだから、私が全部するしかないでしょうっが!」
そう言いながら、ハンマーを振り回すセブンスは、Tシャツ、短パンに、ヘルメット着用という、魔術が得意そうな者には一眼では分からないスタイルとなっていた。
しかも、中学生くらいの身長に、ヘルメットがはみ出てる美しいブロンドのツインテールと、青白いハンマーの装備は、ただの坑夫というのも難しかったりする。
どう思うのか――残念ながら、この場所にまともな意見を言える第三者は誰もない。
※
「ストップです、セブンス。目的の5メートルに達しました」
「よし! それじゃあ、次は!」
セブンスは、ハンマーになった杖をクルクル回した後に、肩に担ぐ。
一仕事終えたといった感じだ。
ラプラスがセブンスを止めた理由は、丁度次の空間の歪むポイントまで辿り着いたからだ。これ以上、同じ方向の岩盤を破壊して掘り進めても、目的地と座標がずれていってしまうのだ。たとえ、方向が合っているように見えても、空間の歪みを考慮しないと、決して行きたい場所には辿り着けない。
「自分でも分かるだろうという言葉を飲み込みながら、お伝えします。 こちらをゴリラパワー全開で破壊してください」
ラプラスが今までセブンスが砕いていた向きの左側に球体状の体を向ける。
「この私の体のどこをみてゴリラと言うのかな!? っていうか、今日は随分とおしゃべりじゃないかな!」
セブンスはワナワナと震えながら、こちらに後ろを向けているラプラスに言い返す。ここ何十年かはあまり軽口など叩かずに、事務的な言葉しか交わすことはなかった。なのに、今日に限っては、マスターや姉妹達がいた頃のようだ。
「お喋りにもなりますよ。今日で終わりですから」
「…………ラプラスも、そういうのに感慨が湧くんだね」
震えが止まり、セブンスから表情が消える。
「一応は。セブンスのように、律儀にキャラを演じ続ける気にもならないので」
「言い出しっぺがよく言うよ。それで、後どれくらいって……もしかして」
「はい。セブンスの次の一撃で、目的地に到達です」
そっか。これで、ようやく終わりになるのか。
何があるのか分からない。気になるといった感情もなければ、ワクワクする感情もない。それを共有したい相手はいない。もういない。
そっとセブンスは目を閉じ、今までのことを思い出す。
一番最初の思い出は、マスターの顔。目を覚ました、自分を覗き込みながら、笑顔で迎えてくれて、セブンスと名付けてくれた。
七番目だかセブンスというのは安直だと思ったりもしたが嬉しかった記憶がある。
そして姉妹たちの――
『思い出に浸るのは後にして、さっさと最後の一撃をかましてもらっていいですか、セブンス?』
「……」
ラプラスの言葉に対して無言で返しながら、回想を中断し、今度は魔法属性によるハンマーではなく、土属性による物理的な硬度を極めた、総重量1トン越えのハンマー作成する。
「……」
その時、セブンスは狙いを間違えないように最新の注意を払って――ラプラスごと岩盤にハンマーを叩きつけるのだった。