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第53話:お留守番のセブンス

 時雨悠人にとって戦闘技術面で圧倒的に苦手なことがある。

 

 それは、勇者として活動していた時からのことであり、勇者を辞めた今も変わっていない。


 「探しに行くとは言ったけど、アテがないにも程があるな」


 感知能力である。


 一言で感知能力と言っても、魔力をメインに感知したり、センサーのように物体の形から把握する方法など多岐に渡るが、時雨悠人は全て苦手だったりする。


 (苦手……というか、必要もなかったしな。勇者として魔物と戦っていた時は、向こうからガンガン向かってくるし、不意打ちで攻撃くらっても治せば良かったし)


 そもそも感知など不要であった。


 魔物がいる場所は軍が調べていたし、魔物が逃げることもなく、周囲を魔物に包囲されて死角から攻撃されても、即座に治せば良し。


 それが時雨悠人の勇者として戦いであり、それで問題はなかった。


 だが、勇者としてではなく時雨悠人として一人の人間を助けに行く上で、その問題は大きな足枷となってもいた。


 仮に時雨悠人しかいなかったらだが。


 「そのために私がいるのでご安心を」


 「うん、よろしくな」


 頼りになる相棒……というとセブンスに怒られるかもしれないが、時雨悠人の横にはラプラスが飛んでいた。


 そして、ここにはセブンスはいない。


 ※


 再び眠りに落ちた女の子――正確に言えばセブンスが無理やり眠らせたのだが、最後の最後に面倒な発言をして眠りに落ちてしまった。


 こんなことならもっと強引に眠りに落としておけば良かった。


 「ハァー」


 先ほど目を覚まして、再び眠りに落ちた少女――正確には眠るに落とした少女を見下ろしながら、セブンスは思わずため息を吐く。


 それなりに神経を使った魔術で子供達を治癒していたことから、無事に解毒の効果があることが分かったなら、さっさと眠らせて静かにしてしまった。


 問題なのは――


「シル先生を助けて欲しいって……最後に言わなくても」


 詳細を聞くために起こしても良かったのだが、少女の体調を考慮すれば、まだ眠っていた方がいいのも事実だ。


 解毒は上手くいっているようだが、異界病により苦しみ続けたことによって奪われた体力が戻ったわけではない。


 十分に睡眠をとるべきだろう。


 それにご丁寧に、消え入りそうな声で、シル先生とやらが向かった場所が近くの森であることまで伝えくれている。


 「無事だとは思わないけどね」


 子供達と同じ症状が出ているのなら、森の中で行動不能になって、倒れてしまっている可能性が一番高いだろう。


 シル先生という人間が、どれくらいの期間、この家から離れているかは分からない。


 数時間程度なら間に合う可能性もあるだろう。


 だが、目の前の少女が倒れて、目を覚ますまでに、既に1日近く時間は経過してしまっている。最短でも1日、そして恐らく2〜3日は経過してしまっているはずだ。


 セブンスは、この辺りに詳しいわけではないが、野生動物どころか、魔物まで当たり前のようにいる環境で人間が行動不能になっているなら、異界病で死ぬ前に、彼らに殺されている可能性の方が圧倒的に高いだろう。


 仮に生きいていたとしても、人間を一人見つけることは困難。


 高確率で無駄骨となる。


 何よりも――


「マスターと別行動になるなんて」


 セブンスの本音としては、子供達も、シル先生とやらも、どうなったとしても特別気にはならない。


 いや、死んで欲しいとも思わないし、死んでしまっても良いとも思わない。


 マスターである時雨悠人が命令をしなくても、セブンスは目の前で苦しんでいるなら人がいるなら率先して助けるだろう。


 だが、最優先はマスターであり、マスターと一緒にいることで、マスターの役に立つことだ。


 マスターと別行動してまで助けたいかと言われたら話は別だ。


 マスターは優しい。


 そのことはセブンスが一番理解しているし、マスターなら倒れている子供達を見たら絶対に助けると思ったし、助けることに反論する気もない。


 だからこそ、シル先生を助けて欲しいなんて言われたら、例え助けられる可能性が低い……どころか、探すのさえ困難でも助けに行ってしまうだろうとセブンスはすぐに思った。


 それも仕方がない。


 問題なのは、自分が残ることになってしまったことだ。


 セブンスは、常にマスターの側にいたい。


 1日中顔を見ていたいし、マスターが困っていることがあれば自分がすぐに助けたいし、マスターを傷つけるような存在がいれば1秒でも早く自分が敵を消し去りたい。


 1000年以上もゼノ・グラウンドに囚われ、一人ぼっちのまま壊れるだけであっただろうセブンスを救ってくれたマスターのためなら、セブンスは何でもしてあげたいと思っているし、何でもするつもりだ。


 「ラプラスを置いて……は、無理だし」


 セブンスとマスターが一緒に救助に行くことはできない。


 ラプラスを置いていくことも考えたが、ラプラスの力では、子供達の異界病を治癒することはできない。技術的な部分は問題ないのだが、セブンスなしでは魔力が足りないだろう。

 

 マスターは、セブンスの治療を見たことで、回復魔法に何か影響を与えたのか、セブンスの魔術と似た効果を子供達に与えることができていた。

 

 だが、そもそもセブンスの異界病を回復させる魔術が完璧かどうかは、まだ分からない。


 治療をした子どもたちが急変する可能性も考慮すると、セブンスが居残りをするのが一番安全だろう。何よりも、仮にマスターが残ると、セブンスがシル先生とやらを助けに行くことになるので、結局別行動となる。


 つまりは、シル先生という人間を助ける時点で一緒に行動できないのだ。


 「ハァー」


 セブンスは、何回目になるか分からないため息をつきながら、マスターである時雨悠人と、ついでにラプラスが少しでも早く帰ってこないかと思うのであった。

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