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第5話:セブンスのお仕事

 ゼノ・グラウンド――その名前こそが、セブンスとラプラスが住んでいる場所であり、マスターの指示で姉妹達と調査をしている場所でもある。


 ゼノ・グラウンドにあるのは、マスターが建造した研究施設と、その研究施設を囲うように存在する壁、そしてどこから流れているのか不明な幾つかの滝と、その滝が消えていく果ての見えない虚空。


 それだけだ。


 地球のどこからか辿り着くことができる場所。


 マスター曰く、地球という星の体内――ではないかと推測していた。


 比喩的な表現なんだろうが、セブンスはマスターの言葉を意味をあまり理解することはできなかった。


 不思議な空間ではあるが、研究施設を建造してまで旨みのあるような空間には到底思えない。


 この空間に、なぜ研究施設など作ったのか。


「このゼノ・グラウンドには、何かがある。この空間に満ちる強大な魔力は、ある一点に向かっている。私は、その正体を掴みたい」


 それが、魔導人形のマスターが、セブンスたち魔導人形に語った目的であった。


 大きな魔力の結晶でも存在するのか、もしくは想像を絶するような怪物でもいるのか、あるいは魔力が集約しているだけで何もなかったりするのか――答えは未だに分からない。


 壁を掘り進めたくても、壁は物質のみで構成されているのではなく、魔力が硬質化した物質の層もあれば、恐ろしく硬度の高い物体によって形成されていることもあるのだ。

 

 しかも、掘り進めていくと、何故か自身のいる座標がズレ、観測された魔力の集約点に掘り進めなくなるのだ。


 一人では無理。だが、信頼できる人間の伝手はない。そう判断した、マスターはセブンスたち魔導人形を産み出した。


 このゼノ・グラウンドの謎を解き明かすために。


 結局セブンスは、なぜ正体不明の「何か」にマスターが固執しているかは分からなかったのだが――



 ※


 「おはようございます、セブンス」


 「おはよう、ラプラス」


 いつものように白い部屋から目覚めたセブンスは、いつものようにベッド横で浮かんているラプラスに挨拶をする。


 そして、いつものようにシャワーを浴び、着替えながら今日の予定をラプラスから聞き、庭園に足を運び、食事をするため大広間に向かう。


 軽く息を吸った後に、大広間の扉を思いっきり開け放す。


「おっはよ〜う! 今日も頑張ろう!」


 笑顔を作り、明るく、元気に、朝の挨拶をセブンスはする。


 そんな彼女をファーストをはじめとした魔導人形達、そして何よりも大切なマスターが――迎えることはない。


 それでも、誰もいない大広間で朝の挨拶をするのは、習慣のせいか、それともわずかな希望を持っていたからか。


 『ねえ、マスター。あなたは、どうして私を置いていったのですか?』


 そんな言葉を最後に漏らしたのはいつだっただろうか?


 マスターがいなくなって、100年くらいの間は、毎日のようにこぼし続けた記憶があった。


 最後の姉妹が此処を去ったのは、マスターが去って100年を少し過ぎた後だったろうか。


 残されたのは、自分とラプラスと、意思のない研究施設を管理する使い魔たちだけ。


 キャラ付けとか言っていたファーストも、真面目だけど実はこっそりとエロ本を読んだりしていたムッツリなセカンドも……


 姉妹たちは一斉にいなくなったわけではない。理由は、もう覚えていないが――なんだっけ?


(ファーストが最後だったのは覚えているけどね)


 マスターのことを友達のように馴れ馴れしく接していたが、マスターに対する忠誠心はみんな同じだ。同じはずだった。そして、ファーストが一番姉妹に対し固執していた気がする。


 最後に去ったのも、ファーストのことを心配してのことだった気がする。


 (どうでもいいや。あいつらのことなんて)


 自分達は魔導人形。マスターからの命令に従うことが当たり前だ。例え、マスターがいなくなっても……命令に従うだけだ。


 それが、魔導人形にとっての全てなはずなのだから。


 だが――


 だとしたら、なんで心なんてものをマスターは自分達魔導人形に組み込んだのだろうか。


 なければ、こんな風に――


「いつまでも突っ立てないで、さっさと食事をとりましょう」


「……そうだね、ラプラス。あと、私が主人であることを忘れないでね」


「セブンス……実は、あなたのことを一度も主人なんて思ったことないんです。ぶっちゃけ、手のかかる怠け者とかしか思っていなくて」


「数百年単位で主人と使い魔設定貫いておいて、それはないんじゃないかな!?」


 ラプラスと軽口を言い合いながら、食事が用意されている席に座る。


 1人が食事するには、大き過ぎる長机。もう、寂しさを感じることも、違和感を感じることも無くなっていた。


 いつまで、こんな空っぽの会話をしながら、生きるためだけの栄養をとりながら稼働し続ける必要があるのだろうか。


(もうすぐ終わりそうなんだけどね)


 マスターが消え、姉妹も去っていき、自分だけになっても続けた使命も、ようやく終わりを迎えようとしていた。

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