第49話:子供達の家
死ぬことが定められて生み出され子供達。
人間は、誰でも生まれたら死に向かって行くから、当たり前かと思うかもしれない。
けど、生き方も、死に方も含めて全て他者に決められるのは当たり前なのだろうか?
とある実験体として選ばれた子ども達は、散々人体実験をさせられて、最後は大人になる前に死ぬことが定められている。
大勢の人間を救うために、少数の人間を犠牲にする。
子供達の役割は、犠牲となって大勢の人間を救う側の立場――そこに本人達の意思は関係ない。
(仕方がないことだというのは私も理解している。理解しているつもりだった)
誰かを犠牲にして成り立つような社会なんて間違っている。
何も罪のない子供達を犠牲にしてまで生きたいか?
綺麗事を言えるのは、この世界の差し迫った状況を知らない人間か、心の底から綺麗事が言うことができ行動ができる少数の人間か、もしくは犠牲の上に敷く安全や平和なんて必要ない一部の強者といった人たちだけだろう。
(私はどうだったんだろう?)
弱いとは思わない。
どちらかといえば、強者側だと思っていた。
シティから子供達を助け出せるくらいには――
結局のところは、人よりも恵まれた立場にいたことに胡座をかいて、研究者の一人として子供達を犠牲にして生きる側にいることが正しかったのだろうか。
(それは……違うかな……)
子供達と一緒に過ごした日々は、シル=クラインにとって、人生の中で一番充実していて、楽しくて、愛おしい日々であった。
後悔があるとすれば、子供達を助けたことではなく、最後まで助けることができなかったことだ。
*
シルが食料調達のために森に向かってから丸1日が経過した。
彼女の帰りを待ち続ける子供達の1人である、クロエという女の子は、シルの無事を祈って帰りを待ち続けていた。
(シル先生が森に向かって、もうすぐ丸1日が経つ……)
日が落ちる前には、戻ってくると言って出ていったシルは、日が落ちた後も、夜中になった後も、そして夜が明けても帰っては来なかった。
何かがあったのは確実だろう。
魔物に襲われて怪我をしたのか、道に迷ったのが、もしくは、肉体の限界か――
(シル先生は、まだ自分は大丈夫だと笑っていたけど……)
「先生は…………まだ戻ってこない?」
窓から外を見ていたクロエは、後ろからの声に反応し、声の主の元に駆け寄る。
「起きたんだね、ノルン。体は、大丈夫? 今、水を持ってくるから」
クロエがノルンと呼んだ女の子は、シルがクロエをシティから逃す時に一緒に逃げた子供達の一人だ。
年齢は8歳でクロエよりも2つ下で、ここに来てからはいつもニコニコ笑ってくれて、クロエお姉ちゃんと懐いてくれている子だ。ピンクの髪をしていて、普段はフワフワとした感触があるのだが、今は汗とホコリによりベトついている。
呼吸も荒く、表情も痛みを堪えているような表情だ。
そしてノルンだけではなく、同じくように自分と同じくらいの年齢の子供が他にも3人いるが、ノルン同様に起き上がることが難しいほどに衰弱してしまっている。
「先生……は?」
「先生は……まだ戻っできていない。だけど、きっともうすぐ――」
戻ってくる。そう、言いたい。嘘でも言うべきだろう。だけど、ノルンも、他の子達も既に分かってしまっている。
他ならないクロエ自身も。
シル先生は、もう戻ってこれないと。
きっと森のどこかで――
「うう」
「大丈夫だから。きっと、先生は戻ってくるから」
それでも、言うしかない。なんの慰めにもならないかもしれないけど。
ノルンの不安が少しでも減ることを祈るように、彼女を抱きしめる。
自分の胸で泣くノルンが、再び眠りに落ちるのを感じると、ゆっくりと彼女を再び布団に寝かせる。
「皆……もう限界」
ノルンだけでなく、自分よりも3つ年上のミア、同い年のテオ、そしてシア先生が出るまでは、まだ立っていられた1つ下のナオト。
そして、何とか立っていられるクロエは――
(私もいつまで立っていられるか分からないかな。それにしても……私も含めて多少のズレはあったけど、一気にきたな。こんなことなら、シル先生を引き留めておけば良かった)
もし、シル先生が食料を調達してきても、すでに意味はないだろう。餓死するよりも、魔力毒で死ぬがのが先だ。
だから、どうせなら最後の時を一緒にいたかった。
(ごめんね、シル先生)
シル先生も自分達も普通の人間よりも肉体は丈夫だ。
魔力もあり、シル先生は浄化の魔術を使えるし、クロエもシル先生ほどではないが多少は使える。だが、外で生きるには体に魔力毒が蓄積されていく方が多い。そのため、周囲を浄化する装置をも用意していたが、結局数ヶ月程度で性能は当初の半分程度になってしまった。
その頃から、肉体に不調を起こし、魔術の精度も落ち、魔力毒の解毒効果も落ちることで、更に肉体が……最悪のループとなった。
結局目的地である自由都市と呼ばれる場所に辿り着く前に、ここを拠点にして肉体を休めることになった時点で、全ては終わっていたのかもしれない。
それでも、シティで実験動物のように過ごしていた日々よりも満たされた日々であった。それは、ほかの皆も同じ気持ちのはずだ。
シティにいた方が長生きできただろうが、それだけだ。生涯誰かと手を繋いで歩くことも、遊ぶことも、一緒に笑うこともなかっただろう。
唯一の心の残りとしては、自分達のために犠牲にしてしまったシル先生に対する申し訳なさだ。
自分達を助けれなければ、シル先生はシティで穏やかに暮らすことができたはずだからだ。
正確なシル先生の立場は分からないが、ただの研究員だけはなく、色々と特別待遇がされていた。
自分達の存在ががシル先生の幸せを壊してしまったことが今は何よりも辛い。
(最後に直接謝りたかったな……)
クロエも少しずつ立っているのが辛くなってくる。頑張れば1日くらいは大丈夫かもしれないが、頑張る意味を持つことができない。問題なのは、自分まで倒れてしまったら、他の4人の面倒を……見送る人がいないことだ。
(どうせなら全員で……)
「?」
声が耳に届く。
部屋の中からではない、家の外からだ。
(魔物?)
今の自分では魔物を倒す気力は当然ない。殺されてお仕舞いだろう。だが、再度耳に届く声は――
「……の……が……」
人の声だった。
「シル先生!?」
クロエは、倒れそうな足を動かして、衝動的に扉を開く。
そこには――
「子供?」
「魔物ではなかったですね」
「えっと、こんにちは?」
シル先生ではなく、2人の人間と空中に浮かぶ謎の球体生命体がいた。




