第46話:無人都市
ゼノグラウンドから脱出した時雨悠人は、セブンスとラプラスと一緒に世界を見て回ることになった。
あてもなく世界を巡り、今の世界の状況を知りながら、気に入った町があれば定住も考える。
そんなフワフワした方針で気楽に旅を始める3人であったのだが。
「何というか……アレだな」
「アレとは?」
そのうち港でも見つかるのではという理由で、海を眺めながら海岸沿いを歩いていた時雨悠人一向だが、期待通り港町を見つけることはできた。
港町というよりも、規模としては都市といった方がよいかもしれない。
高層のビルだったようなものがずらりと並び、小型の建物もひしめき合っていた跡がある。
多くの人が住んでいたのだろう。
何故全て過去の推測のような言い方だって?
そんなのは、決まっている。
「廃墟……だよな?」
ゼノ・グラウンドから脱出して最初にたどり着いた都市は、既に人の気配が消え、ほとんどの建物が倒壊していた。
※
信号機だったものは倒れて役割を失い、コンクリートの道路を下から突き破るように草木が生えている。これだけで、ここで車が走っていたのは大分昔であることが分かる。
辺りを見回せは、ツルによって覆われた建物や、建物を貫通するように伸びた巨木などを確認することができる。
「なんというか数年単位というよりも、数十年、下手したらそれ以上の間放置されているって感じだよな?」
セブンス、ラプラスと一緒に辺りを見て回ったが、建物の劣化具合と植物の成長具合から、ここ最近に人がいなくなったような場所のようには見えない。
「一応周囲を索敵してみたけど……動物も多いから仮に人が居ても分からないかな。だけど――」
「外のことについて私もセブンスも知識が不足していますが……それでも、ここが既に人が住む場所では無くなったことは理解できます」
「まあ、そうだよな……こんな場所を見て回っても仕方がないか」
廃墟を見て回るような趣味は時雨悠人にはないし、セブンスやラプラスも興味を持っているようには見えない。
それよりも、人が住んでいる場所を見つけて、一息つきながら、情報収集でもしたいというのが本音だ。
わざわざ廃墟になった都市の探索をして、何があったかなどを調べる気にならないし、それほど興味を持つことでもない。
(まあ、こんな大きな都市が廃墟になった上に、放置されているのは異常ではある気がするけどね)
「それじゃあ、ここはスルーして人がいる場所を探します? マスター」
「……そうだな、居座っても仕方がないし、次に行くか」
「了解!」
何度呼ばれてもマスターと呼ばれることにむず痒い感覚を受けるが、それでセブンスが喜ぶならいいだろう。悪い気がしないのも事実だし。
(ことあるごとにマスター、マスターと連呼されていた時と比べると、それなりに落ち着いてくれたし)
砂浜を歩いている中で、謳うように「マスター、マスター」と言われ続けていた時は、恥ずかしくて身悶えしたが、人は成長するものだ。少しずつ慣れてきているのが自覚できる。
本音を言えば、前のようにシグレと呼んでくれた方が嬉しかったりするのだが。
「闇雲に歩くのも効率が悪いですし、ビルの上から周囲を見渡してみません? 人が住んでいそうな場所が見つかるかもしれませんよ?」
「どうするマスター?」
「どうするって、反対する必要もないかな」
「それでは……あの辺りのビルを登ってみますか。あとセブンス、マスターと呼びたいがために、自分の意見を言わずに、ユウトに意見を求めるのは良くないですよ。少しイラッとします」
「うな!?」
二人の言い合いに巻き込まれないように、ラプラスが示した、この辺りで一番高いビルを見上げると、一部の壁は壊れて中身が剥き出しになっているが、自分たちが登った程度で倒壊はしない程度には無事……なように見える。
「二人とも、じゃれ合うのは後にして、上に行くぞ〜」
足に力を込めて、ビルの側面にある足場になりそうな場所に向けてジャンプをする。
(ん、大丈夫そうだな。体も軽いし、サクサクと駆け上がれそう)
10メートルほどジャンプできたことに、ホッとしながら、片足が足場に着地したら、その足で更に跳躍をする。
ゼノ・グラウンドでルカと新たな契約――世界の脅威となる火種のようなものがあったら脅威になる前に潰すことを条件に、時雨悠人は、世界から一定の魔力をコストなく供給される。
そのため、常に最低限の身体強化をしながら、必要に応じて強めたり、弱めたりしている。
今の時雨悠人は、150メートル近いビルも簡単に登ることができる――側面から。
「到着っと」
10秒弱程度で時雨悠人は、汗をかくこともなく余裕の表情で目標のビルの屋上に到達する。
「勇者の頃なら一息だったし、そもそも飛べば良かったけど……駄目だな勇者なんて2度と御面だし、力をいらないと思ったりしたけど」
失うとやっぱり欲しくはなる。自分の力ではなく与えられた力なのだから贅沢を言うなと分かっていてもだ。
(自分だけならいいけど、他に守りたいものがあるとやっぱりな……そうなると)
勇者だった頃の力だけではなく、時雨悠人として強くなる手段を考える必要も出てくるだろう。
「お待たせ、マスター」
「どうですか、周囲に人が居そうな場所はありました?」
追いついた二人の呼びかけで、このビルに登った本来の目的を思い出し、反射的に周囲を見回す。
「ん? ああ、どうだろう…………な…………」
ひたすらに続いていた。
既に建物としての役割を失って倒壊、もしくはいつ倒壊してもおかしくない建物、ちらほら見える小型、中型の動物、そして人の文明を時間をかけてゆっくりと侵略していいっただろう自然という存在。
「大きな構造物も他にもいくつありますが、ここと同じような感じですね」
「う〜ん、内地の方を見ても、近くに他の都市があるようには見えないね。ひたすらに平原が広がっていて、チラホラ瓦礫が点在している感じかな〜」
ラプラスとセブンスも各々周囲を見てくれているが、人がいそうな場所は見つからない。
この光景だけを見れば、まるで人類が滅亡してしまったのかのような光景と言ってもいいだろう。
(いや、セブンスとラプラスの元マスターであるアリアがいるはずだから、それはないか……)
最悪の予想をしてしまったが、すぐに否定する。
ゼノ・グラウンドの外側から干渉してきたアリアが存在するのならば、人類が滅亡したとかはないだろう。
「とりあえず、手がかかりは……なし……か」
「うん」
「そうなると、あてもなく彷徨うことになりますが、どうします?」
二人が時雨悠人を答えを待つように見つめてくる。どのような方針を取っても、否定せず肯定してくれるだろう。そもそも、今の状況で正しい答えもないし、何か追い詰められているわけでもないのだ。
(セブンスとラプラスとのんびりと旅ができるだけでもいいしな)
「海岸を歩き続けるのも飽きたし、内地の方を適当に歩いてみる?」
セブンスは笑みを浮かびながら頷く。
ラプラスも表情はないが、頷くように空中で上下に体を動かす。
仮に人類が滅亡していても、二人と一緒なら、時雨悠人としては、あまり問題ではない。
今が一番幸せな日々なのだから。




