第37話:第2ラウンドの開始
時雨悠人は今までの片手剣とは違い、アリアの両手剣に対抗するような自身の背丈以上の光り輝く大剣を生み出す。
アリアの瞳に映る魔眼を通すと、魔力の属性は変わっていないが魔力の密度と量は先ほどの数十倍以上となっている。
(この分だと彼の身体能力も数倍どころか数十倍になっている可能性もあるかな)
身体能力が跳ね上がっているのは注意するべきだろうが、戦い方自体は変わらないはず。動きを読めるならどうとでもなる。
(何よりも、彼は先ほどの攻撃で重傷を負ってい……る……?)
時雨悠人は生み出した大剣を両手で持ち、構えていた。
よく見ると、腕のケガも消失しているように見えた。
(まさか、一瞬で治した?)
アリアは、時雨悠人の腕が治っていることに気づくのと同時に、時雨悠人は口を開く。
「行くぞ」
一瞬だった。
その言葉とほぼ同時に、アリアの目の前に時雨悠人が現れ、光の大剣を横なぎに振り抜こうとしていた。
動きは読みやすく単純だ。
前回のように避けてしまえばいい。
そう思って足に力を入れようとするアリアだが、悪寒が背筋を襲う。反射的に可能な限りのバリアを張ると同時に、自身の大剣で時雨悠人の攻撃をガードできるように準備を整える。
準備を終えたと同時に、時雨悠人の大剣は振り抜かれる。
バリバリという音が大剣とバリアの間に発生する。
(さっきよりもはるかに攻撃力が上がっているけど、十分耐えられますね。属性は変わっていないようですし)
悪寒に従わず、避けてカウンターを狙えば良かった。
そう思いながら、大剣を魔術で時雨悠人の死角に移動させようと思った瞬間に、再度悪寒がアリアを襲う。
「む、これくらいは余裕で耐えられるのか」
大剣に込められていた魔力が一気に膨れ上がると同時にバリアが吹き飛ばされる。
アリアにとっての唯一の救いは、大剣を時雨悠人の死角に移動させる前だったことだろう。
バリアを破壊した時雨悠人の大剣に対して、アリアは自身の大剣でガードする。
膨大な魔力の質量を受け止めることに成功するが――
「この!?」
「なんという……」
時雨悠人の周囲に渦巻く魔力が急速な速度で彼の体内に流れ込むことを魔眼によって確認する。
脳内に危険信号が鳴り響く。
(出し惜しみしてはいられない!?)
アリアはセブンスの成長した肉体の本来の力を全く使用していない。使用する必要もなかったことと、ラプラスがいない状態で無理やり力を使った場合のリスクを避けたかったからだ。
だが、目の前のパワーアップした時雨悠人は、今のままだと手に余る。
どうするか?と一瞬迷う。
その油断を突くように、受け止めていた時雨悠人の大剣から、膨大な魔力の塊が放たれる。
※
ラプラスの意識がブラックアウトする瞬間に見た光景は、時雨悠人がアリアの鎖によって拘束されていた光景だった。
結局ダメだった。
時雨悠人は重傷を覚悟でアリアを捕まえることができたが、アリアの鎖に付与された魔力を押さえつける力は、ラプラスにアリアのアクセスを遮断させる術式を発動させないどころか、ラプラスにセブンスの肉体にアクセスをさせることさえ封じていた。
時雨悠人に恨みはない。むしろ、アリアに触れることは成功させている。そこから先はラプラスの役割であった。
恨むとすれば自身の力不足。
次目覚めた時は……目覚めない方が良い光景が待っているかもしれない。
そう思いながら、ラプラスは意識を失った――
「そう思っていたはずですが、一体?」
目覚めた光景は、アリアの拘束によって意識を失った場所と変わっていなかった。
(打ち捨てられたまま?)
アリアが自分に興味を持たなかったことから、一旦そのまま放置されたと思うラプラスだったが、その予想はすぐに裏切られる。
アリアや時雨悠人がどこにいるか知るために探知の魔術を実行すると同時に、今までに受けたことがないほどの莫大な魔力のぶつかり合いに、視界がブレるのだった。
「これ……は!?」
しかも、周囲を見渡せば視覚化できるほどに魔力の川のようなものがそこら中に発生しており、その川の流れは全て同じ場所に向いている。
現実とは思えない光景を目の当たりにしながら、フラフラと何も考えずに、ラプラスも魔力の川の流れの終着点へと向かっていく。
向かった先は、研究所の外であった。
そこで、見知った顔の二人がいた。
一人は、セブンスの肉体を奪ったアリア――ラプラスとセブンスの創造者。
もう一人は、このゼノ・グラウンドの目的地で眠っていた青年である時雨悠人。
意識を失う時に決着ついたと思っていた戦いは、いまだに継続されていた。だが、その戦闘規模はラプラスが意識を失う前と後では、全く違っていた。
かつての暴走したセブンスと、ファーストとの戦いが可愛く思えるほどに。
空中に浮いているアリアの周囲から氷、いやゼノ・グラウンドにあるクリスタルのような複数の属性の色が混じったクリスタルの槍が生み出され、雨のように時雨悠人に降りかかる。
その数は時雨悠人の頭上を埋め尽くすほどであり、降り注ぐ数の分だけ新たに槍は生成され続けている。
捕えるための攻撃ではなく、殺すための攻撃と言っていい。それでも実行したということは、この程度では死なないとアリアが判断したからだろう。
ラプラスの考えを肯定するかのように、時雨悠人の周囲から白く輝く鎖が生まれる――その数は数百にも及ぶだろうか。
鎖は、槍の雨のように降り注ぐ攻撃から時雨悠人を守るように払い除けながら、アリアに向かっていく。
一旦距離をとるかと思ったのだが、アリアは殺到してくる鎖に突貫していくと、踊るように鎖の隙間を縫い、時には杖を大剣に変化させて切り払っていく。
時雨悠人は、鎖でどうにかアリアを捕らえようとする――そう思うラプラスだが、彼は生み出している鎖に足を乗せて、迎え打つようにセブンスに向かっていく。
鎖と槍が嵐のように舞う中で、時雨悠人は鎖を足場にしながら、アリアは浮遊の魔術を駆使しながら、ぶつかり合う。
「五分五分といったところです……か? いや」
そこで変化が起こる。
クリスタルの槍が、今まで鎖によって砕かれていたり、薙ぎ払われていたが、ぶつかった瞬間に粘液性の液体のように飛び散るようになる。
その飛沫は意思を持つかのように時雨悠人に襲いかかる。
直接的にダメージを与えているように見えないが、意味のないことをアリアがする訳がない。実際に時雨悠人は顔を顰め、周囲にバリアを張りながら、鎖と鎖の間をジャンプしながら一旦距離をとる。
「セブンスの……擬似属性を使っていますね」
五分五分のような戦いに見えるが、アリアの方が若干押しているのかもしれない。
魔力の量で言えば時雨悠人が圧倒的に有利だろう。
莫大な魔力の流れは時雨悠人に向かっている。理由は分からない。分からないが……ゼノ・グラウンドで時雨悠人が眠っていた時のことを考えれば、起こり得る何かがあるのだろう。
問題としては、アリアが魔力を横取りできていることだろう。
流れ込む量はアリアの方が少ないが、それでも戦いが成立しているのは、アリアの方が圧倒的に戦い方が上手いこと。
そして一番の問題は、セブンスが『あの姿』の時にしか使えない擬似属性による魔術を使っている点だろう。
属性を組み合わせるだけではなく、属性と言っていいのかも分からない特殊な現象を起こすことができる。
普段のセブンスは、属性を混ぜることはできても、複数の属性を合成した球体や刃といったシンプルなものしか生み出せない。
だが、今の姿のセブンスなら、現象にも影響を与えられる。
ゼノ・グラウンドのクリスタルを模倣したような槍に対して、後付けで性質を変化させているのがよい証拠だ。
魔眼も強化されていることを考えると、時雨悠人が何をしたいのかは、ほぼ予測されているはずだ。
おまけに、魔術の効果も全て大幅に上がっている。
それでも、アリアと五分五分と言っても良いという状況なのだから、時雨悠人がそれだけ規格外になっているのだろう。
純粋な戦闘ならどちらが勝ってもおかしくはないのかもしれない。
問題としては、ラプラスがここにいることだ。
(私と時雨悠人の勝利条件は、私がアリアのアクセスを断ち切って、セブンスを取り戻すこと。私がここにいては意味がない……どうにかしないと)
念話を送りたいが、距離がある上に、魔力の嵐の中心にいる時雨悠人に繋げることはできない。
(どうにかして近づくしか……)
だが、雨のように降り注いでいるクリスタルの槍と鎖の合間を縫って近づくことができるのか。
もしバレて、今のアリアから攻撃を受けたら、一撃で破壊される可能性もあるだろう。
「どうすれば!?」
自分がどのように行動すれば正解なのかを考えるラプラスをよそに、元勇者と魔女との戦いは熾烈を極めていく。




