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第33話:元勇者vs魔女 ①

 スイッチが入った……とでも言えばいいのだろうか。慣れ親しんだ感覚だ。


 最近は、セブンスやラプラスと穏やかに過ごしていたせいで忘れていた。


 時雨悠人が人生で最も身を置いていた――命を賭けた戦いの感覚だ。


 アリアとの取引内容としては、命はかかっていない。だが、時雨悠人にとっては似たようなもの。否。セブンスという自分よりも大切なものを取り戻せるかどうかの戦いだ。


 だが、勇者として戦っていた時と違う点もある。


 (よくないな……少しだけ)


 楽しい


 そう思ってしまっている。


 誰かを、身近な人を、助けたい人の顔を明確に思い浮かべながら戦える――それだけで、勇者として戦っていた時よりも心が高揚する。


 (さてと……やりますか)


 余裕か、それとも別の意図かわからないが、アリアは時雨悠人の準備を待つかのように微笑みながら待つのみ。


 ならば、急ぐ必要はないだろう。


 ゆっくりと――


「周囲の魔力に干渉してる? 魔術、いや魔法の準備?

 それも違うか……自分の肉体に吸収してる?」


 アリアが、時雨悠人のしていることを観察しながら、推測しているようだ。


 正解だ。


 時雨悠人は、今世界に流れる魔力を吸い上げている。勇者の時は、一方的に大量の魔力が流れ込んでいたのだが、今は意識しないと分からないほど微量だ。


 だから、意識的に魔力を吸い上げる。


 (意識してもこの程度……か)


 肉体に流入する魔力は増えているが、それでも勇者の時と比べたらないに等しいレベルだ。


 贅沢は言えない。


 時雨悠人は勇者ではない。


 元勇者だ。


 勇者として世界を、人類を守るために戦うのではない。


 時雨悠人として一人の女の子を助けるために戦おうとしているのだから。


「……戦えると認識しても大丈夫ですか?」


 ラプラスの言葉に頷き、


「さっきも言ったけど、今の自分がどこまで戦えるか分からない……全力を尽くすよ。ラプラスは?」


「見たままでですが、接近戦は無理ですが、魔術には自信はあります。ありますが……」


 ラプラスが言い淀むのも仕方がないだろう。なにせ、相手は自分達の創造主なのだから。


「それでも……」


「ええ、やるしかありません」


 考えていても仕方がない。引けないのなら、やるしかないのだ。


「そろそろいいかな?なんなら、そちらからどうぞ?」


「余裕ですね」


「ラプラス、あなたには興味はないけれど時雨悠人様のことには興味津々なのですよ」


「何でそこまで……いや、ならこちらから」


 イメージをする。


 魔物を殺す時のように、単なる浄化の魔力の塊をぶつけても意味がない。


 殺し合いではないのだから。


 必要なのは、相手を捉える武器だ。


 そう心の中で呟き、空中に白い鎖を4本ほど生み出す。


「行け!」


 時雨悠人の言葉に反応するように、4本の鎖はアリアに向かって伸びて行く。


「白い鎖……威力はどれほどで?」


 アリアがパチンと指を弾くと、彼女の目の前に淡い黄色の壁が発生し、時雨悠人が生み出した鎖と衝突する。


 金属同士がぶつかり合ったかのような、キィンという音が発生する。


(拘束用とはいえ、あの程度の壁も破壊できないのか。なら迂回して)


 鎖が弾かれたとはいえ、消えたわけではない。アリアの盾の側面と後ろに鎖を回す。


(イメージ通りに問題なくコントロールできるな)


 正しく鎖が動いてくれることに内心ホッとする時雨悠人だが、それで鎖がアリアに届くかは別だ。


「無駄ですよ」


 アリアの前面にだけ出現していた盾が、彼女の周囲を覆うように円形に姿を変える。


 確かに、これならどこから攻撃しても鎖は弾かれるだろう。


 だが、鎖はそもそも直線的に攻撃するものでもない。


 (届かなくても行動不能にすることなら!)


 アリアの張った円形のバリアの周囲を四本の鎖を旋回させる――鎖でバリアを締め上げるように。


 グルグルと旋回する4本の鎖はアリアの視界を奪うほどに鎖が巻きつき、締め上げていく。


「び、びくともしないのか!」


 まるで壊れる気配がない。どこまで巻き続ければいいのか不明なほどにグルグル巻きにしているのだが、アリアの張ったバリアは壊れることはなく、抵抗力が落ちているようにも感じない。


 我慢比べになるのかと時雨悠人が思ったところで、


「『アースブラスト』」


 ラプラスがそう発したと同時に、巻かれていた鎖が内側からの衝撃で吹き飛ばされる。


「……え? 何してんの?」


「何って、地面にはバリアが貼られていなかったようなので、彼女の地面に干渉して爆発させただけです」


「いや、死ぬかもしれないだろ!」


「死ぬわけないでしょう! それよりも、早く鎖で追尾してください」


「それは……分かった!」


 唐突な爆発にラプラスに突っ込みを入れるが、ラプラスの切羽詰まった言葉に、すぐに戦いに意識を向ける。


 爆発によって土煙が発生していたが、この距離ならアリアの魔力くらいなら時雨悠人でも感知することができる。爆発によって四方に散っていた鎖を再度アリアに向かわせる。


「せっかく時雨悠人様と力勝負をしていたのに……無粋な。」


 ゴォという音と共に、アリアを中心に風が巻き起こり、周囲の土煙を全て吹き飛ばしてしまう。


 アリアの服は、少し汚れていたり、破れていたりするが、本人に目立った傷はついていないように見える。結界の内側からの不意打ちでもダメージはほとんどなかったということだ。


 (逆に言えば、この程度ならいくら攻撃しても大丈夫ってことか)


 ラプラスは、マスターであるアリアの実力を知っているからこそ、先ほどのような無茶な攻撃しても大丈夫だろうと思ったのだろう。ならば自分も拘束を前提にせず攻撃して、まずは弱らせたり、隙を作ることを考えるべきだろうか。


 そんなことを考えていると、アリアに向けていた鎖はアリアの肉体に届きそうなところまで接近する。


 バリアが間に合わなかったのかと思い、そのまま締め上げられるかもと一瞬期待する時雨悠人だが、


 ギャリギャリ


 そんな音によって時雨悠人の鎖は再度防がれる。今度はバリアではなく、アリアの周囲に発生した4本の鉛色の鎖によって。


「同じ、鎖で!?」


「バリアで止めても、旋回すると面倒ですので。これで鎖の先端を止めてしまえば自由に動かせないでしょう――えい」


 会話を遮るようにラプラスが放った青白いレーザーの光がアリアに向けられたが、小さな半透明なバリアによって弾かれる。


「これなら!」


 ラプラスの周囲に魔法陣のようなものが浮かび上がる。それも、一つ、二つ、三つ……


「多いな!」


 思わず言葉にするほどに増えていく。


 パッと見ただけでも、空中に50以上はあるだろう。魔法陣の色も赤、青、黄色、紫、緑、黒など多様で、複数の色が混じっているものもあり、模様も異なっている。


 それぞれが全く違う魔術を発生させるだろう。


「あら、怠惰な千年を送っていたと思ったのですが、見えないところで意外と頑張っていたのですかね?」


「時間は十分にありましたからね。そして、会話で準備させる気もありません」


 その言葉と同時に、空中に浮かぶ数多の魔法陣が光り輝く。


「準備なんてひどい。こんなもの……うん?」


 白い鎖がアリアの体に届く。


 時雨悠人の足元の地面を伝って床の下に伸ばしていた鎖だ。


 バレないように、こっそりとかなり床の下に伸ばしてから迂回させていたので、少し時間がかかったが、アリアが悠長にラプラスの魔法陣を観察してくれていたおかげだ。


 鎖は一瞬でアリアの体を縛り付ける。


「ラプラス!」


 時雨悠人がラプラスに呼びかけるのと、ほぼ同時に魔法陣から様々な魔術がアリアに殺到する。


 炎の渦、風の刃、雷、光線、重力の球体、氷の槍、といった直線的なものから、アリアの周囲の地面から突き刺すように生まれた槍の数々に、どのような効果があるか不明な紫色の煙の塊やアリア本人に干渉しているようなものまである。


「っつ!」


 魔術の数が多すぎることで、その中心にいるアリアの姿を視認することはできない。白い鎖もすでにラプラスの攻撃で吹き飛んでしまっている。


『ユウト、聞こえますか?』


『うお、ル……いや、ラプラスか!?』


 直接頭に語りかけてきたことで、一瞬ルカかと思ったが、すぐにラプラスが何かをしていることを察知する。魔力の線らしきもので繋がっているのを感じ取れる。


 世界そのものであるルカの場合は、手段不明の方法で、言葉通り自分の脳内に語りかけてくるからだ。


 『はい。作戦会議をしたかったので、念話をさせて頂きました。上手くいってよかったです。』


『作戦会議か……どれくらいアリアを弱らせることができていると思う?』


 念話をしている最中も絶えずラプラスの魔術が発動しており、アリアからの反撃はない。正直死んだりしないか一瞬不安だったのだが。


『全くですかね。正直言って、今の私の攻撃はユウトと秘密裏に作戦会議をするためです。反撃がないのは、今は分析中といったところでしょう。特にユウトについて気になって仕方がないのでしょう。そして、私もです。単刀直入に聞きますが、ユウトはアリアと一対一でも勝てる自信はありますか?』


『厳しいかも。もしかして、一対一でやって欲しい理由があるからこその質問だったりする』


『はい、正直に言えばアリアの勝利条件は、ユウトにキスするだけではありません』


『どういうことだ?』


『私を破壊してもアリアの勝利は決まります』


『いやいや、それをされたらセブンスの肉体を……そういうことか!』


 自分の浅はかさに今になって気づく。自分とラプラスは、セブンスの体を乗っ取っているアリアを殺すことはできない。そして、アリアも同様に時雨悠人を殺すことはできない。


 だからこそ、殺害以外の勝利条件をつけたのだが、この戦いに参加しているラプラスは、アリアにとって殺してはいけない存在ではないのだ。逆にアリアからセブンスを救うのにラプラスは必要不可欠な存在だ。


 つまりラプラスを殺された時点で、時雨悠人が勝利する手段を失うことになる。


『アリアは、それをすると?』


『しますね。正直に言えば、私が彼女の立場でもそうします。そこで、一つ提案があります。それは――』


 ラプラスの提案を脳内で聞いていると、ラプラスによって生み出された数多の魔術を突き破るように極大の光線が複数こちらに突き進んでくる。


(やば)


 ほぼ条件反射のように時雨悠人は、光り輝く壁を生み出す。


 壁の発生とほぼ同時に光線と壁がぶつかり合い、一瞬拮抗するが。


『ラプラス、俺の後ろに!』


 そう警告した瞬間に光線が壁を貫通し、突き進む――ラプラスがいたであろう場所に。


『私の予想通りでしょう?』


『そうでしたね! 心臓が止まるかと思ったわ!?』


『悩んでいる時間はありません。私の提案を――』


『やろう! どうにかする!』


『いいのですね?』


『その言葉をそっくりそのまま返すよ。本当にいいんだな?』


『ええ、シグレユウト、あなたに全てを賭けます』


 その言葉と同時に、ラプラスは時雨悠人の背中に近づくと、そのまま肉体の中に入り込むのであった。

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