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第31話:魔女の取引

「ラプラス!」


「遅くなってすみません。それにしても、まさかマスターだった者の記憶がセブンスにこびりついていたとは」


「それは……?」


 記憶が……こびりついている?


 あまりピンとこないラプラスの発言を受け、改めてアリアと名乗る彼女に目を向けた。


「言葉のままです。セブンスの中にマスターの魂なんてあるはずがありません。おそらく、マスターがセブンスの肉体を奪おうとした時に、セブンスの記憶にマスターの記憶が混ざってしまったのでしょう。それが……表面化したといったところです」


「それじゃあ今のセブンスは?」


「理由はわからないですが、目の前の彼女はセブンスです。マスターの記憶が入り混じって、マスターだと思い込んでいるセブンス……いえ、マスターの記憶に乗っ取られていると言った方が正しいかもしれません。そういう意味では、今のセブンスはマスターのようなものと言えるかもしれませんが……本人ではないです」


 マジか。


 だが、ラプラスの言葉はそれなりに信憑性があると言っていいだろう。


 1000年前の実験から魂がセブンスの肉体に宿っていたというよりも、その時の記憶の入り混じりの影響の方が可能性が高いというのは十分頷ける。


 何よりも――そちらの方がセブンスを助けられる。


「フフフフフフフ」


 そんなラプラスと時雨悠人のやり取りに女性の笑い声が介入する。


「どうしましたか、セブンス? 何があってマスターの記憶に飲み込まれてしまったのか分かりませんが……後で恥ずかしくなるのはあなた自身ですよ?」


「まさか、そこまでセブンスのことを大切に思っていたとは思わなくてね。あなたは、セブンスの監視のために作ったのに、まさか本当のマスターである私に歯向かうとは。それとも、本当に私だと分からないのかしら?」


「まともに話をするだけ無駄といった感じですね。事前にすみませんと謝っておきます。無理矢理にでも拘束させて頂きます。その姿をしている理由は分かりませんが、長くは持ちませんよ?」


「ラプラスは、あの姿を知っているのか?」


「ええ。前にお話ししたかもしれませんが、目の前の姿は本来、私がセブンスに力を貸すことで、一時的に変化できる姿です。あらゆる能力が一時的に向上している状態だと思ってください。ユウトは――」


「今の自分がどこまでできるか分からないけど……協力させてくれ。本当はセブンスに戦闘訓練をつけて貰ってから実践を試したかったが。それで、拘束すればどうにかできるのか?」


「やってみなければ、分からないといったところですが……嫌ですか?」


「いや、可能性があるなら、一旦はそれで十分だ」


 セブンスを助ける。何があって、今のような状態になってしまったのかは分からない。だが、元のセブンスに戻せる方法がわずかでも見込みがあるのなら、全力を尽くすだけだ。


 そう覚悟する時雨悠人とラプラスのやり取りを見ていた彼女は、


「話は終わりました?」


 アリアは、首をコテンと可愛らしくかしげながら、面白そうなものを見ているかのように笑みを浮かべる。


「もし、大人しくセブンスに戻せるかどうか試させて欲しいと言ったら、了承してくれたりしますか? アリアさん。」


「アリア?」


 ラプラスがアリアという言葉に反応するが、その反応を気にする風もなくアリアは時雨悠人のお願いに対して疑問を述べる。


「う〜ん、それって私にメリットあるかな?」


「無駄な戦いを避けることができると思いますよ……それに、本当にセブンスがアリアさんのことを受け入れたかどうかもラプラスなら分かるだろうし」


「…………」


「ラプラス?」


「アリアさんとは……一体誰ですか?」


「誰ってそんなの、目の前の……」


 何を当たり前のことをと思いながら答えようとする時雨悠人だが、あることに思い当たる。背中に嫌な汗が流れるのを自覚する。


 それは、自分というよりも、ラプラスやセブンス、いや他の姉妹達にとっても残酷な真実を知ることになるかもしれないからだ。


「私も他の姉妹も、マスターの、いえマスターだった人の名前は知りません……そうですか」


「ラプラス」


「大丈夫ですよ。それで、アリアという人。ユウトの提案を受けてくれますか」


「マスターから呼び捨てか。随分嫌われたものですね。この肉体だから、強制させることもできないし……面倒な」


「それで、回答は?」


 時雨悠人が会話に割り込む。その瞬間に、アリアの雰囲気は変わる。


 ラプラスと話していた時のような冷たい雰囲気ではなく、緊張をほぐそうとするような柔らかい雰囲気に。


 うーんと言いながら、わざとらしく悩むアリアは、時雨悠人が想定していた回答をする。


「まあ、OKするメリットがないですよね〜」


「なら――」


「だから、取引をしようか」


「取引?」


「そう! 時雨悠人、あなたが、私のものになってくれるのなら、この体をセブンスに返してもいいわ」


「それってどういう意味?」


「もちろん、結婚です!夫婦です!愛し合うのです!」


「……」


 一人で突然盛り上がるアリアを見ながら、時雨悠人は、彼女の言っている意味を考える。


 結婚や夫婦という単語に、ぼんやりとドラマやアニメなどで見た結婚式の映像や、夫婦として一緒に過ごすワンシーン――そこに自分とアリアを当て嵌めることになるのだが。


 (全く実感が湧かん)


 だが、それでセブンスが戻ってくるなら――いや!


 先ほど、アリアが言っていた言葉を思い出す。


「その前に一つ質問していいか?」


「なんでしょう?」


 何を想像していたのか分からないが、頬を赤く染めて体をくねくねさせていた彼女は、時雨悠人の言葉に動きを止める。


「さっきセブンスの自我はもうないと言ったよな?」


「……そうでしたっけ? 確かに言ったかもしれませんね。正直に言えば、セブンスの自我があるかないか分からないというか……何よりもセブンスの自我がないと言えば諦めてくれるかと思いまして」


「そうか……悪いがあなたのいう取引を信じることはできないな。そもそも、取引が成立しても、あなたは肉体を失うことになる。あなたにメリットがない」


「その通りです。アリア、あなたはユウトを手に入れることができれば、その後のことはどうにでもなると思っているのでしょう」


 ラプラスが時雨悠人の言葉を肯定する。そして、時雨悠人もラプラスの言っている通りだと思うのだった。


 おそらく目の前の女性は、自分の願いを叶えることができれば、真実も嘘も当たり前のように口にするだろう。


「取引の内容は嘘ではないのですが……ラプラスが邪魔でしたね。だけど、このままではお互いにメリットはないと思いますよ。極論を言えば、私が嫌がらせでセブンスの体を破壊することもできるのですが」


「っツ! そんなことを許すわけないだろう!」


「記憶とは言え、せっかくの肉体をあなたが嫌がらせで失うわけが――」


 あまりの突拍子のないアリアの発言に、瞬間的に頭に血が昇る。


 そしてラプラスのいう通り、最悪の嫌がらせになるだけで、アリアにとってメリットはない。


「意味はありますよ。時雨悠人様……あなたはラプラスを信用し過ぎている」


 ラプラスを? どういう意味だ?


「何が言いたいのですか? まさか、私がユウトを騙していると?」


「いや、そうじゃない。私が単なる記憶かどうかってところです。単なる記憶がセブンスの肉体を奪っているだけで、セブンスが私のことを模倣していると……ラプラス、あなたは本当に思っているのですか? 私が肉体を失ってもいいような取引を真面目に提案すると思っていますか?」


 アリアの纏っていた雰囲気が変わり始める。


 先ほどまでの敵意も何もない無邪気な雰囲気が変わっていく。


「仮にも国のひとつやふたつを簡単に破壊できる魔導人形を生み出すことができるのが私だ。科学が生み出したAIの演算能力を超える魔導生命体ラプラスを生み出したのも私だ。そして、今もここを再び見つけ出すために、いくつもの国を支配し、そのリソースを使い研究をしている。そんな私が、この人形が記憶を思い出し、私の微かな魂の欠片を発露させる瞬間を見落とすと思っているのか」


「ここは……ゼノ・グラウンドは外部からの干渉を許すわけが! 何よりも、あなたがここを去ってすでに、1000年以上経っている。生きているわけが……」


 絞り出すようなラプラスの言葉をアリアは否定する。


「それができるからこそ、私は最悪にして最強の魔女と呼ばれているのだよ」


「あなたが生きて、この場所の外からセブンスの肉体を奪っているからこそ、肉体を返しても問題ない……という認識で合っているのか」


 このままラプラスだけに会話を任せるのはまずいと感じ、咄嗟に時雨悠人はアリアに取引の思惑について確認する。


「ええ、その通りですよ。今の私でも気後れしないとは流石ですね」


 正直に言えば、時雨悠人からしたら邪気の欠片もない先ほどまでの彼女の方が扱いが難しかった。


 肌をピリピリとするような敵対者と向き合ったような感覚こそが、時雨悠人にとって慣れ親しんだ感覚だからだ。


 アリアが纏う魔力のオーラは剣呑とした重苦しいものへと変わったことに、時雨悠人は、心の中で少し安心しながら会話を続ける。


「ラプラスの推測が正しいか、正しくないかは……正直どっちでもいい。どちらにしても、あなたが一番信用できないことには変わりない」


「それは残念です。だとしたらどうしますか? 私を無理やり捕らえますか? できるか否かは別として、危険だと思ったら先ほど言った通り……嫌がらせをするかもしれませんよ?」


 ラプラスにぶつけていた剣呑な雰囲気は引っ込めて、また穏やかな口調へと戻る。


 彼女が本当に実行するかは分からない。だが、彼女が本当に外部から干渉しているなら、十分可能性はあるだろう。


 だとしたら――


(失敗したら……いや、自分のことは二の次だ)


 今は、セブンスを取り戻すことが第一だ。


 信用できない相手だが、約束を守らせる方法も考えている。


 だが、その前に確認することがある。


「一つ確認をしたい。セブンスは……まだいるんだよな?」


「……ええ、いますよ。先ほどは嘘をつきましたが、まだセブンスの自我は残っています」


 「まだ」という単語が気になるし、本当か分からないが、嘘だったら結局どうしようもない。


 目をつむり、ゆっくりと深呼吸をし、自分を落ち着かせる。


「勝負をしましょう、アリアさん。いや、アリア。俺が勝ったらセブンスを返してくれ。俺が負けたら俺を好きにしていいよ。」


 欲しいものと、欲しいものを賭けた勝負の提案。


 それが時雨悠人の出せるカードであった。

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