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第3話:かつての魔導人形の1日②

 ――そりゃあ勿論、セブンスのキャラをどうするかだ!

 

 あまりにも意味不明なことを口にしたファーストの言葉に、思考がフリーズするセブンスを他所にファーストは、捲し立てるように言葉を続ける。


「10年も経ったというのに、セブンスは個性も味もない『です。ます。人形』って感じでしょ。そろそろ、自分というものを持たないと。私たちは、肉の体を持たない量産型の指示待ち人形じゃなくて、人と同じ体を持った魔導人形なのだから」


「作られたという意味では、肉の体の有無は関係ないと思いますが。それに、仕事をする上でキャラ付けなんて無意味です。私たち姉妹は、容姿も声も全て判別できるくらい異なっています」


「それ、つまらないでしょ」


「つま……らない?」


「まあ、セブンスはたかが10年程度しか生きていないから分からないか。でも、そのうち分かるよ。まあ、キャラ付けも付け焼き刃かもしれないけど、慣れると気が紛れるし、他とは違うことを意識することができるしね」


「先ほどから、今の私には理解できないだろうという発言が不愉快です。どちらにしても、キャラ付けなど不要です。むしろ、あなたこそ、そのだらしない話し方を止めるべきでは――」


「マスターは今の私の話し方の方が好きだと言ってくれたけどね」


「な!?」


 大広間に着くまでの我慢だと思い、適当にファーストの対応をしていたセブンスだが、マスターが望む話となれば別だ。別なのだが、価値ゼロどころか、マイナスだと思っていたファーストのキャラ付け談義がマスターにとって価値あるものだと!?


 その衝撃の事実に、セブンスは硬直する。思わず立ち止まってしまうほどに。


 そんなワナワナと震えているセブンスを見ながら、意地悪いニンマリとした笑顔をファーストに近づける。


「嘘だと思うなら、今日マスターに聞いてみようか?」


「な、何を!?」


「勿論、セブンスちゃんが今のまま量産型人形のデフォルト人格みたいなままがいいのか、私のような妹のことを大切に考えているお姉さん系キャラのように、何か――例えばツンデレ系? ダウナー系? とかの方がいいかどうか聞いてみないって話よ」


 ツンデレ系? ダウナー系? ファーストは何を言ってるの?


 ファーストが何を言っているのか理解できないセブンスだが、確実に分かるのは、碌でもないことだということだ。だが、もしマスターが望むなら。


(いやいや、ファーストが本当のことを言っているかもわからない。問題なのは、マスターにとってキャラ付けの価値だけど……キャラ付けの価値って何!?)


 理解できないからこそ、自分が正しいのか、間違っているのかも判断できない。


 言葉に詰まるセブンスの代わりのように、使い魔であるラプラスがフワリとファーストとセブンスの間に入る。


「ら、ラプラス。あなたは、どう思う? 本当にキャラ付けなんかでマスタ―が」


「勿論です。セブンス。安易なキャラ付けでマスターが喜ぶはずはありません」


 疑問の声を上げるセブンスの言葉を引き継ぐようにラプラスがセブンスが割り込む。


「そ、そうだよね! よかった! ほら、ラプラスも」


「セブンスなりにキャラというものがどういうものか、どうすればマスターを楽しませるキャラになれるのか模索するべきです。安易にツンデレとか提示すると、代表的な用語を覚えて、意味不明なタイミングで『あんたのためにじゃないんだから!?』とか棒読みで発言するだけで終わります。私の方でマスターとも相談して、色々と参考資料を後で用意して渡すようにします。」


 続くラプラスの言葉に表情がフリーズするセブンス。


 (コイツもなにを言っているんだ?)


 その感想以上のことを考えることもできないセブンスを他所にファーストはラプラスの言葉になぜか関心するような言葉を返す。


「む、確かにそうね。いや、それはそれで面白そうなんだけど」


「更に言えば、セブンスはポーカーフェイスと感情を口にしないだけで、意外とキャラがあります」


「「そうなの!?」」


 ファーストだけではなく、何故か当事者のセブンスも一緒に声を上げる。


「いや、セブンスも驚いているんだけど?」


「このように、予想外のことに対して意外と感情出します。むしろ、ファーストが先ほど言っていた、『量産型人形のデフォルト人格』を意識して演じていると言っても過言ではないです」


 ラプラスの発言に、マジマジと見つめてくるファースト。真面目な表情をしているのだが、先ほどのにやついた表情以上に腹が立つのは何故だろうか。いや、考えるまでもない。ファーストが、本気でセブンスは『量産型人形のデフォルト人格』を演じていると思っているからだ。


「そんな意味不明な…………これ以上、あなたたちに付き合っていたら頭が悪くなります。先に行かせてもらいます!」


 ファーストとラプラスの会話に付き合えば付き合うほどに、泥沼に嵌っていく気がしたセブンスは、荒くなった息を落ち着かせると、大広間に向かう足を早める。後ろから聞こえるファーストの「待ってよ〜」という声も聞こえるが無視だ。


 間もなく大広間に続く扉にたどり着き、思いっきり開け放つ。そこには、すでにセブンスの――姉妹たちのマスターがテーブルに着席していた。


「お待たせしましたマスター」


 その後の昼食を食べながらの会話の中で、マスターがファーストとラプラスのセブンスのキャラ付け問題を話題が上がった。

 

 結論から言えば、セブンスは自分のキャラ設定と課題に数日間に渡って悩ませることとなった。


 ラプラスとファースト、そしてどこからか話を聞きつけた他の姉妹たちから持ち寄られた漫画やアニメに埋もれながらの自分探しは地獄だったと後にセブンスは語っている。

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