第16話:リハビリ生活
時雨悠人のリハビリ生活は、地獄でもあり、楽しいものであった。
地獄なのは、セブンスに移動、食事、着替え、入浴、排泄までサポートしてもらうことだろう。
魔道人形という人の手で生み出された人形らしいのだが、見た目は美少女だ。そんな美少女にジト目をされながら、お世話をされて喜べるような性癖を時雨悠人は持ち合わせていなかった。
一方で、なんだかんだでセブンスとラプラスと共に過ごす生活は楽しいものでもあった。勇者として活動していた時は、会話は通信越しが基本。直接会話する時も、相手は全身スーツに顔はマスク付き。会話の内容も作戦内容のみだ。
時雨悠人にとって、普通に会話するだけでも楽しく、幸せなのだ。
そして肝心のリハビリはというと――
「はい、ゆっくりと歩いてね。転ばないから」
「まあ……でしょうね。っていうかこれ、マリオネットになっている気分になるな」
歩きのリハビリについては、セブンスが魔力を組み込んで作成した糸が四肢と胴体を吊り上げることで、転ばないようにした状態で行われていた。
転びそうになれば、空中から生み出されている魔力の縄が時雨悠人を支えてくれる。魔力の糸だからか、セブンスが調整しているからわからないが、転んで縄に吊り上げられても痛くはない。
だが、見た目は完全にマリオネットだ。
「魔道人形が操る側とは斬新ですね」
「私が直接支えるより楽だしね〜」
「楽しそうなのが若干腹立つな」
「む! そんなこと言っていいのかな〜」
「ちょっと待て! 勝手に動かさないで! どうなってんのこれ!?」
そんなことを言ったら、本当に体が勝手に動き出す。
「時間は無駄にあったので、魔術オタクのセブンスは大抵のことはできます。気をつけた方がいいですよ」
「何それ! 怖いわ!」
「ほらほら、頑張って〜」
「これリハビリになっているの!?」
「体が動かし方を忘れているだけなら……意味があるのでは?」
「試せばわかるでしょ」
「二人とも面白がっているだけでは?」
初日はセブンスとラプラスがいがみ合っていたが、なぜか二人して時雨悠人をイジることを楽しむようになっていた。
※
「それじゃあ、次は魔力の経絡のリハビリをしよっか」
「りょ、了解」
セブンスによるマリオネット式のリハビリの後は、時雨悠人の体を流れる魔力の経路のリハビリをすることとなった。
時雨悠人は自室のベッドに座らせてもらい、その対面にセブンスが椅子に座っている。
「現状のシグレの体を巡る魔力は、止まってはいないけど本当にゆっくりだね」
セブンスは、魔力の流れを視認できる力を眼に宿しているらしい。その力で、時雨悠人の今の魔力の巡りを把握することができるということだ。
大体のことは魔術で実現可能で、魔力の流れまで見れるとか、ズルすぎないかと思ってしまう。何よりも、そんなセブンスと同じような魔道人形を合計で7体も生み出したマスターとは何者なんだろうか。
「シグレ自身は、魔術を使えるということでいいんだよね?」
ジロジロと自分の体を見ながら、セブンスは質問をしてくる。おそらく、自分の魔力の流れを見ているのだろう。
「使えてはいた。今は、魔力が全く自由に動かせないけど」
「試してみて」
「……了解」
勇者としての時雨悠人ならルカの力を借りて、炎だろうが、雷だろうが、水だろうが生み出すことはできたし、その気になれば地震や津波とかも起こせるのだが。
(今の俺ってなにができるんだ?)
ルカのサポートなしで魔法を使ったことがないので、正直何ができるのか分からない。
(魔力は感じるから、魔法自体は使えると思えるんだけど……何を使えば)
「シグレ?」
何もしないシグレを不思議に思ったのか、セブンスが声をかけてくる。
「ごめん、今試してみる」
考えても仕方がないということで、とりあえず自分が一番使っていた身体強化を試してみることにする。
自身に流れる魔力を意識しながら、自分の体を強化するイメージをする。それだけで、今までは魔法が発動し、自分を飛躍的に強化してくれていたのだが。
(だめだ。魔力の反応が鈍すぎる)
全く反応しないわけではない。だが、魔法が発動しているとも思えない。実際に、自分の肉体が強化されている気が全くしないのだ。
「今、試している?」
「一応は。全く発動しないけど」
「無詠唱じゃなくて、詠唱で発動してみたら?」
「詠……唱?」
「うん。言葉に出して魔術を発動させたら? 見ている限り、若干の魔力の流れに揺らぎがあるから、何か発動をしようとしているのは分かるけど、不発で終わっているみたい。魔力の経路の方も君の肉体と同様、使わない時間が長すぎたため、かなり鈍くなっているんじゃないかな」
「無詠唱よりも、詠唱した方が発動の強制力も高いですしね」
セブンスの説明をラプラスが補足してくれるが、そもそも詠唱って何をしろと?魔法を使うのに詠唱なんてしたことはないのだが。
(いや、イメージを固定化しやすくするために、魔法に名前とかつけたけど……肉体強化に特別な名前は付けてないし!)
「シグレ?」
黙り込んでしまった自分に不思議に思ったのか、セブンスが声をかけてくる。
(と、とりあえず試してみるか)
「に、肉体強化」
なんだかすごく恥ずかしい。そして、やっぱり発動しないし!
「ダメっぽいです」
「……それが詠唱なの?」
「そもそも、詠唱とは?」
「「…………」」
セブンスが、何も返答してくれないのだが。何か変なことを言ってしまったのだろうか?
そんな不安を抱えていると、ラプラスが質問をしてくる。
「シグレは、身体強化をどのように発動しようとしていたのですか?」
「どうって…………自分の肉体が強化されるイメージかな。こう……魔力を意識しながら、気合を入れると、肉体が強化される感じ。武器とか作る時とかも、イメージすれば自然とできるというか」
「あ〜シグレは、固有魔術を使うのか……イメージ?」
自分の説明に納得してれたような反応を示そうとするセブンスだが、途中で疑問を口にする。
「セブンスのように独自の理論で魔術を発動させる……ではなく、イメージなら固有魔術ではなく、魔法といった方がいいですね」
「…………」
「…………」
「えっと、どういうこと?」
セブンスとラプラスが自分の身体強化について話し合っているのは分かるのだが、最終的に沈黙するとは何事だろうか。
そもそも、話に出ている魔術、固有魔術、魔法の違いがイマイチ分からない。
時雨悠人としては全部言い方が違うだけで、同じことを指していると思っていたのだが、セブンスとラプラスの言い方からすると微妙に違うような感じなのだが。
「もう一度確認するけど、シグレは、イメージだけで身体強化できるんだよね? どうやって魔力で身体を強化しようといった理論とかは?」
「理論? あ〜、そういうのはないかな。こう、なんというか、さっき言ったみたいに気合を入れる感じ?」
「理論の『り』の字もない解答ですね。そもそも、シグレが使えている思い込んでいるだけというのは?」
「本当だって! そんな頭がおかしな奴みたいな……」
いや、本当に使えるのだろうか?
勇者としてなら使えたが、ルカから供給される魔力がない状態で、今まで通り魔法を使えるのだろうか?
そんな不安を覚える時雨悠人だが、セブンスが難しい顔をしながら、ラプラスの疑問に答える。
「何か発動をしようとはしている兆候は……ある。とりあえずは、シグレの魔力経路のリハビリを始めようか」
そう言いながら、セブンスは時雨悠人の両手を握るのだった。




