第10話:記憶が戻ったら
「なんで生きてるんだ? ここは一体?」
時雨悠人は、死んだはずだ。
魔王との戦いの後に、弱ったところを人類側の勢力からミサイルを雨霰のように撃たれ続けたのを覚えている。
意識がゆっくりと落ちていくのも。
生きているはずがないのだ。
なのに生きているのは……
「なぜ生きているのかですか。それなら、私からも質問させてください。もしかしたら、結果的にあなたの疑問の解消につながるかもしれません」
「どういう――」
「まずは、私の質問の前に、時雨悠人様が抱かれている疑問からお答えさせていただきます。この場所は、ゼノ・グラウンドと呼んでいる場所の研究施設になります」
「ゼノ・グラウンド? え〜っと、そのゼノ・グラウンドが分からないのですが」
そんな国の名前を聞いたことはない。どこかの地域の名前だろうか? どちらにしても、日本ではないのは確かだ。
(まあ、日本で戦ったわけじゃないけど……正直どこで死んだか分からないしな。確か、魔王がいた領域の残骸と共に海に……)
そうだ、海に落ちたのだ。
ただし、空中にあった魔王の領域だった要塞と一緒だったので(あるいは、領域そのものが要塞だったのかもしれない)、そのまま海に沈んだはずだ。
(まあ、あれだけミサイルを撃ち込まれ続けたのだから、肉片が残っていても、要塞もろとも海に沈んだだろうけど。いや、そうなるのが普通なんだけど)
どちらにしても、ゼノ・グラウンドとかいう場所ではないことだけは確かだ。
「おそらく、最後は海に沈んだはず。ゼノ・グラウンドってのがどこか分からないんですが、そこで死んだわけではないはず――死んだと思ったんだが」
「…………嘘ではないようですね。まず、このゼノ・グラウンドと呼ばれる場所は、地球上に存在する空間の隙間に発生した場所です。エアポケットのようなものです」
「なんですと?」
ラプラスと呼ばれる物体が何を言っているのか分からなかった。
空間の隙間? エアポケット? 何それ?
「ふむ………………理解が追いつかないといった反応と認識しても?」
「言っている意味が何も分からないというか」
「質疑と認識の擦り合わせを言葉でしていくよりも、あなたの目でこの場所――ゼノ・グラウンドを、そしてあなたが眠っていた場所を見てもらった方が早そうですね」
「眠っていた? いや、でも――」
分からないことだらけで、言われていることについても理解が及ばない。正直、このまま言葉のやり取りを続けても「?」を浮かべることしかできないだろう。
ラプラスの提案は非常に嬉しい。
嬉しいのだが…………………………
(あ、歩けないんだよな〜)
ベッドから再度転げ落ちる未来しか見えない。
「安心してください。映像を見てもらうだけです。その上で現場に行きたいなら、抱えて行かせましょう」
「あ、映像あるんですね」
「ではでは、セブンスそろそろ入ってきて、準備してくれませんか?」
「セブンス?」
ラプラスが宙に浮かびながら、扉の方にレンズのある面を向ける。
時雨悠人も、つられるように部屋の扉に目を向けるが扉は閉まったまま。
ウィィーン
小さな機械音と共に扉がスライドする。
目に飛び込んできたのは、絵本の中から飛び出してきたような、美少女であった。
彼女は、白を基調とした服装をしており、所々に金色の刺繍が入っていることから、一見するとフォーマルな雰囲気を感じさせるが、スカートの丈が膝上と少し短く、動きやすくも見える。
そして何よりも、昔見た漫画やアニメでしか見たことがないような二次元から飛び出てきたような整った愛嬌のある顔立ち、そして天使のようなふんわりとした金色の長い髪。
そんな美少女が、ひどく不機嫌そうな表情をしながら入ってくるのだった。
(え、なんでこの子怒っているの?)
綺麗だし可愛いのだが、それ以上に初対面から隠すつもりのない機嫌の悪さを醸し出す目の前の少女に内心戸惑う時雨悠人だった。
「まるで私が入るのを躊躇っていたみたいに言わないでよ! 先に自分一人で話したいからって言って、私を中に入れなかったのはラプラスじゃん!」
「セブンスと一緒では、落ち着いて会話ができないので」
「あっそ! それで、落ち着いて会話できたラプラスと……」
「し、時雨悠人です」
目を向けられて咄嗟に答える。人とまともに話すのは、久しぶりなので若干声が上ずってしまい、内心少し恥ずかしい思いになってしまう時雨悠人だが、そんな彼の気も知らずにセブンスと呼ばれている女の子は近づいてくる。
「時雨悠人……時雨ね。私は、セブンス。よろしく」
ベッドの側まで来たセブンスは、時雨悠人を見下ろしながら、手を差し出してくる。
「えっと、よろしくお願いします。え〜と……セブンスさん」
「セブンスでいいよ」
それって名前なのかという疑問もあるが、堂々と自己紹介してきたということはそうなのだろう。そんなことを思いながら、差し出された手を掴むのだが。
「?」
不思議そうな顔をするセブンスと名乗る女の子。あれ、もしかして握手しない方が良かったと思ってしまう時雨悠人なのだが。
「セブンス、彼は今起きることができないです。だから、仰向けになりながらの握手になっています。間違っても、その掴んだ手を引っ張り、無理やり起き上がらせないでくださいね。おそらく…………彼は致命的なダメージを受けます」
自分が寝たままの状態だからか。なんでベッドに寝たまま握手しているんだよと疑問に思ったのか。そして、無理やり起き上がらされたら致命的なダメージって何?
「起き上がれないってどういうこと?」
「そのままです。ずっと結晶の中で閉じ込められていた影響で体をうまく動かせなくなっているようです」
「みたいなんです」
ラプラスの説明にとりあえず追従する。会話している最中も、体に力を入れたりしているのだが、その箇所がプルプルするだけだ。
「みたいなんですって言われても……」
「それで、彼にはセブンスに抱っこしてもらいながら、施設を見て回ってもらおうかと思うので」
「「なんで!?」」
思わず二人の驚愕の声が重なる。
なんで抱っこ?




