表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/46

第1話:勇者が元勇者になった日


 勇者と魔王の戦い。


 この言葉を聞くと、ありがちなファンタジーな創作物の一つの何かだと思うだろう。


 だが、この戦いはの地球で実際に起こってしまった。


 そして、残念なことに、よくあるどこかの国のお姫様が魔王に攫われて、勇者が救いに行く……といった小さな規模のものでは無かった。


 どこからやってきたか分からない、魔王と、その魔王が率いていたであろう魔物と呼ばれる存在が、突然空飛ぶ要塞と共に、太平洋の上空に出現した……とされている。


 勇者は、魔王を倒して世界は平和になりました。めでたしめでたし。


 とはならかった。


 何故なら――




 ※



 「なんで俺、攻撃されてるんだ」


 魔王を倒した勇者、現在進行形で雨霰のようにミサイル攻撃を喰らい続けていた。


 あまりの物量攻撃で、視界ゼロである。絶え間なくピカピカ光り続けて目が痛い。ついでに言えば、体力も魔力も消耗し切った今の状態が続けば遠からず死ぬだろう。


『検索…………………………どうやら、時雨悠人しぐれ ゆうとを殺し、連合軍が魔王を倒したことにすると決定』


 脳内に響くルカの声。異世界からやってきた魔王と魔物から地球を守ることを条件に力の提供という取引をしてきた――世界そのものだ。ルカというのは、呼び名があった方が話しやすいからという理由で時雨悠人が決めた名前で、本人も了承すみ。

 

 子供の頃の無邪気だった時の自分の行為だが、世界という存在に名付けるってなんだよと今さながら思うが。


 それよりも問題なのは、連合軍側の攻撃である。何故自分を殺すなどということになったのかだ。


『人類側は時雨悠人を魔王に次ぐ危険生物と判断』


「危険生物……俺が?」


『人類を滅ぼせる魔王を倒せる勇者が人類を滅ぼせないわけではないということです。時雨悠人にその意志があるかなど関係なく、滅ぼす力を個人が持っているということが恐ろしいのでしょう』


「納得の理由でムカつくな」


 確かに滅ぼせるけどな! やらないけど!


 心の中で悪態をつく。


 どうするか、どうすればいいのか?


 そんなことを考えている最中でも変わらずにミサイルは降り続ける。身に纏っている魔力で威力は軽減しているが少しずつ衝撃が強くなっているのが自覚できる。


「ひとつ聞くけど、なんで魔力量減っているのですかね?」


『魔王という世界を壊す存在が消えたからです』


「え〜と、それと地球から供給される魔力が減る理由は?」


『私の脅威を排除するのがあなたの役割であり、脅威が存在する間だけ私の力を時雨悠人は自由に使える……というのが、私と時雨悠人との契約。魔王がいなくなった今、この世界に私を壊す脅威はいない。したがって、私はあなたに力を貸すことはできない』


 冷たい!?


 まさか、土壇場で最後まで一緒に戦ったルカにまで裏切られるとは。まさに、フィクション作品で見聞きする、世界の全て裏切られたという事態ではないだろうか!?


『どうでもいいですが、随分と余裕がありますよね。普通もっと、怒りの感情を抱いたり、復讐してやると思うところでは? あと、私は裏切っていません。契約通りです』


「口にしていないことに対して突っ込まないで欲しいけどね。まあ、怒るのも何も……死んだとこで誰かが悲しむことも、怒りを感じる相手の顔も思い浮かばないしな。何よりも――」


 全てどうでもいい。


 これで、魔王のように生物兵器を生み出す母体にされたり、エネルギーの電池にされたりしたら、第二の魔王になってやろうと思うが、自分よりも遥かに不幸な相手と戦った後だと、どうもやる気が起きないのだ。


 人類のために戦ったと言われても、助けた人の顔を思い出すことはできない。そもそも、最後に人と話したのは何年前だろう。自分の指示などは、全てモニタ越しであり、誰かと会っても、頭の先から爪先まで完全に防具した兵士のみ。人間か、ロボットかも分からないというのが本音だ。


 だったら、人類全てに憎しみを、いや、契約ということで力を貸さないルカに対しても憎悪を抱くべきか?


「よく分からないな」


『分からないのですか?』


 「魔王を倒せば全てが終わると思っていたのは確かだけど……いつ死んでもいいかなとも思っていたし。」


 友達を作りたい。


 世界を巡ってみたい。


 小説や漫画のような恋をしてみたい。


 色々と思うことなかったといえば嘘である。だが――そんな自分を想像することはできなくなっていた。


「ま、これで終われるなら、それでいいよ。 それに」


 魔王を倒したと勘違いしている奴らを思うと、ちょっと笑ってしまう。


『私が求めたのは、人類の脅威ではなく、世界の脅威です。そして、世界の脅威は排除されました。生死にこだわりはないです。あなたが決めたことです』


「助かるよ。それじゃあ――さようなら」


 魔力のガードがほぼないのか、体に襲う衝撃が強くなっていく。すでに視界は真っ暗であり、痛みも感じない。意識が少しずつ薄れていく。


『はい、お休みなさい。次に目覚める時はきっと――』


 そこで、時雨悠人の意識は完全に失うのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ