逋セ闊碁ウ・蛹←文字化けしてたら呪われてる
よくお越しくださいました。
このお話のタイトルが文字化けして見えたのですよね?
だとしたらあなたは呪われていますが、大丈夫、わたしの助言を聞いていただければ呪いは解けます。
〝文字化け〟の語源に纏わる噂話です。ご存知ですか?
え?
文字化けは文字化けだって?
いえいえ、実は語源があってですね、それが人伝に渡る際に文字化けと誤解されたのです。
じゃあ元々は何だったのかというと、〝百舌鳥化〟といいました。
きっと本当の名前が伝えられる過程で誤変換が起きたのでしょうな。百舌鳥化、モヅバケ、モジバケ、文字化け、という具合に。
ああ、〝百舌鳥化〟がそもそも何かもお話ししなければなりませんね。
妖怪ですよ。
動物の姿をした妖怪って珍しくないでしょう。
猫又だの鎌鼬だの。
そんな風に、百舌鳥化は巨大な百舌鳥の姿をした妖怪でした。
百舌鳥はご存知でしょうか。
鳥なんですがね。
他の鳥の鳴き声を真似したりしていろいろな囀りをすることから百枚の舌があるような鳥ということで、百舌鳥、と書くそうです。
百舌鳥は他にも〝早贄〟という奇妙な習性を持つことでも知られていましてね。
捕らえた餌となる虫などを、こう、木の枝などに突き刺して放置しておくことがあるのですよ。中には、まだ生きているものがいたりもします。その様が生け贄のようなので、そう呼ばれるようになったのだとか。
何でそんなことをするのかは、まだよくわかっていないそうですが。
……実はあれ、百舌鳥化への生け贄なのですよ。
自分たちと同じ姿をしながら強大な力を持つ百舌鳥化への畏怖が、百舌鳥をそういう行動に駆り立てているのだとか。
そもそもの発端は飛鳥時代に遡ります。当時、鳥を捕捉する職業であったという捕鳥部なる品部がありましてね。
その一族の万なる武人が、あるとき、人々を襲う狂暴で巨大な百舌鳥を退治してみなを救ったのだそうです。
後に、用明天皇二年の〝丁未の乱〟で、物部方に属して敗れた捕鳥部万が自害し、死後朝廷によって串刺しにされてさらされそうになった際、彼を恨むその百舌鳥が遺体を啄んで妖怪化したものが百舌鳥化の起源だとか。
百舌鳥化は、万の飼っていた忠犬と朝廷によって封印されたのですが、長い年月と百舌鳥たちが捧げ続けた生け贄によってよみがえろうとしているそうですよ。
……生け贄といえば、『かごめかごめ』はご存じですかね。
子供の遊びで、鬼が目を隠して中央に座り、周りを他の子らが輪になって歌を歌いながらまわる。歌が終わった時に鬼は自分の後ろに誰がいるのかを当てる、というあれです。
この歌詞は地方によっていくらか違いがあるのですが、ここでは、
「かごめかごめ籠の中の鳥はいついつ出やる夜明けの晩に鶴と亀が滑った後ろの正面だあれ?」
というものです。
この遊びがいつできたのかとか、何を意味しているのかとかも諸説ありますが、中には生け贄の儀式を真似ているのではないかという分析もありましてね。
実は、それが真実なのですよ。
なにせ〝籠の中の鳥〟っていうのは、百舌鳥なのですからね。
籠目っていうのは、竹で編まれた籠の編み目を表していましてね。それが六角形の形をしているもので、洋の東西を問わず魔除けのシンボルとされる六芒星を意味してもいるのです。
籠の中の鳥、六芒星の中の百舌鳥。まあ、そんなところにいるのは普通の百舌鳥ではない。ええ、封印された百舌鳥化です。
それがいつ出るか。いつ封印が解けるのかということですね。
夜明けの晩というのは、夜明けであり晩でもあるような時。昼と夜の間たる夕方、これもまた東西両方で魔と逢いやすい時刻。逢魔時などといわれる時間です。
そして、縁起のいいとされる鶴と亀が滑る。不吉なことが起きるというわけですな。
そこで、後ろの正面だあれ、と終わるわけです。
通して言い直すとこうなります。
「六芒星によって封印されている百舌鳥化は、逢魔時に出て来て不吉なことを起こす。後ろの正面にいる者に」
じゃあ後ろの正面にいた者はどうなるのか。
百舌鳥の習性を見ればわかりますかね、これは本来生け贄の儀式だとも言った。
ええ、百舌鳥化によって早贄にされるのです。
生きたまま、人知れずどこかで樹木などへ串刺しにされるわけですな。捕鳥部万が串刺しでさらされそうになったように。
そんな事件は聞いたことがない?
当然でしょう、百舌鳥化はこの世のものではない。
逢魔時にしか封印も解けない。
百舌鳥が獲物を捕り去って早贄にするように、百舌鳥化も人を自身の封じられている世界に連れ去って串刺しにするのですよ。
現世では、せいぜい行方不明程度にしか認識されないでしょうね。日本だけで年間数万人も行方不明者がいるので、うち何%がそうかはわかりませんが。
ああ、百舌鳥化は子供の肉を好むそうですから、ある程度的は絞れるかもしれません。
子供は生まれてまださほど時間が経っていないので、生まれる前の現世でない世界に近いそうで。中途半端に封印が解けた状態の百舌鳥化には捕獲しやすいらしいですよ。
せいぜい小学生から、高校生くらいまでが食べ頃だとか。
かごめかごめも、別名を〝子捕り子取り〟とか〝子をとろ子とろ〟ともいうほどですからね。
そして、百舌鳥化は夕刻に現れる。
つまり下校時刻の放課後、学校帰りの通学路なんて特に危険ですな。
鳥の鳴き声が聞こえたら用心した方がいい。
百舌鳥化は百舌鳥と同じように、どんな鳥の鳴き声も真似れますから、聞き慣れた囀りだからと気を抜いてはいけない。それは、百舌鳥化が真似をしているだけかもしれませんよ。
とかく、後ろに注意すべきでしょうな。
振り向いた瞬間に襲ってくる習性があるそうですから。
なぜかって?
先ほどの歌にも歌われていますよ。
「後ろの正面」っておかしな言い方だとは思いませんか?
これは斬首された者の頭部が転がって、体は正面を向いているのに頭だけが後ろを向いて、「自分を殺したのは誰だ?」と問うているからだそうです。
ええ、捕鳥部万です。
彼は戦に敗れての自害後、串刺し前に八つ裂きにされた。
このとき、まず首をはねられたのだとか。
それの胴体を食らって妖怪になった百舌鳥化は、少なからず影響を受けているのでしょう。
捕鳥部万はそのあと大衆にさらされるところでしたが、彼の頭を飼い犬が護り、肉を啄んだ百舌鳥化も倒し、そのときの傷を抱えながら主人の傍らで犬も亡くなったそうです。
これを哀れに思った朝廷は串刺しをやめ、万と忠犬を手厚く葬ることにして、彼らの死を汚した百舌鳥化を万の残る六つの身体の部位で六芒星の頂点を描くことで封印したのだとか。
……さて、百舌鳥はいろんな鳥の鳴き声を真似ることができると言いましたよね。
その妖怪たる百舌鳥化ともなれば、人の言葉を真似ることすらできるそうです。
しゃべるだけでなく、書くことだってできるのだとか。
話を元に戻しますと、〝文字化け〟はね、まあ大方は不具合とか文字コードの違いや文字フォントの違いなどが原因ではありますがね、うちいくつかは百舌鳥化が文字を習得すべく電子世界に干渉した結果起きているのですよ。
そんなことがあるのかって?
西洋での妖精という言葉は東洋での妖怪とほぼ同じ意味で使われますが、妖精にはグレムリンという機械に取り付くものがいるのはご存じないですかね。
あれなんか、機械が生まれるまではいなかったわけです。
まあ、日本のからかさ小僧とか提灯お化けとかも、もとは人工物たる傘や提灯であったわけですからね。
妖怪は進化するのですよ。百舌鳥化も、電子世界に干渉できるように進化したのでしょうな。
〝文字化け〟には文字通り、文字に化けた百舌鳥化が潜んでいることがあるのです。
だから文字化けを見た者は、逢魔時である夕方には後ろに気を付けた方がいい。
あなたが見たのは、文字化けに化けた百舌鳥化の、狙いを定めた眼差しなのかもしれないのですから。
……え?
それで、どうやったら呪いが解けるのかって?
これは失礼。呪いを解く方法は、
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です。
は?
文字化けして読めない?
でしょうな。
かごめかごめは、「囲め囲め」の訛ったものだという解釈もあります。
インターネットを通じて、封印を生け贄による復活の儀式でさらに広く囲むことで、百舌鳥化が完全によみがえるための試みということですな。
こうした情報を知ること自体が儀式で、あなたがそこに捧げられる生け贄というわけです。
ここに記されているお話なんて、聞いたことがなかったでしょう。
その全てを知るわたしが、初めて明かしましたからね。
では夕方、あなたが振り向いた瞬間にお会いいたしましょう。
百舌鳥化は、言葉を書いて真似ることすら可能にしたと言いましたよね。
わたしこそが百舌鳥化なのですから。