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追加課題 愛しい君を最高の姿に!

「いかがでしょうか?」


「…………」


「ロイ様?やはり似合いませんか?」



 無言のロイにキャロラインは不安そうな表情を浮かべている。ロイは慌てて首を振ると弁明を始めた。



「ごめん、キャロライン。君があまりに美しすぎて、言葉を失っていたんだ。僕の想像以上でとても似合っている。本当に美しいよ。」


「ありがとうございます。」



 ロイからの賛辞にキャロラインは頬を染める。大切な人に褒めてもらえるのは、何度経験しても嬉しいものだ。



 キャロラインは今ロイが密かに用意していたウェディングドレスを着ていた。ロイからのプロポーズ後、そのままロイの邸に宿泊したキャロラインは、翌日から彼女の侍女であるネモもこの邸に移り住み、結婚までの期間が短いからとそのままこの家に住むことになっていた。

 名目上はロイの家のことを大急ぎで学ばなくてはいけないためであるが、片時も離れたくないロイが匿ったのが正解だ。結婚するまでは寝室を別にしてくれるため、客室を使用することになっていたが、いつでも夫婦の寝室で寝ていいよと、ロイは幾度となく言ってくるため、本当は早く新婚生活を送りたいのが本音であった。


 そんなことでキャロラインはプロポーズの翌日、ロイがキャロラインのために用意していた仮縫いのドレスを早速試着することになっていた。



「キャロラインにはこういった形が似合うと思っていたんだ。キャロラインはどうかな?」



 ロイが選んだドレスは確かにとても可愛らしくキャロラインが見てもよく似合っていた。沢山のデザインの中から自分で選ぶのは苦労しそうであったため、こうやって似合うものを選んでくれるのは有難いがあまりの質の良さに、ドレスの値段ばかり気になってしまう。

 だがそんなことを言ってもロイには無駄であるし、何より公爵家としての面子を守るためにはこれぐらいの装いが相応しいかもしれない。伯爵家ではあるが衣装代にあまりお金をかけていなかったキャロラインは、物の価値観も改めるべきなのかもしれないと学ぶのであった。




「とても可愛らしくて……私には勿体無いくらいです。」


「そんなことはないよ?本当はね母上もキャロラインにドレスを作ると言い出していたんだよ。披露宴は母上の選んだドレスを着せると息巻いていたんだけど……キャロラインは2着も用意されたら恐縮しちゃうと思って断っておいたよ。」


「それはとても助かります……」



 一着でこんなにも勿体無いと感じるドレスを用意してもらっているのに、さらにそれが2着ともなれば総額が恐ろしくなってくる。ましてやロイと母親であるユリンが張り合いそうで、とんでもない値段を叩き出しそうなため、ロイの判断を有り難く受け取った。



「本音は僕が選んだドレスを着て欲しいだけだよ。一生に一度の日、キャロラインを1番美しく着飾れるこの日は、僕が全て選びたいんだ。」



 恥ずかしげもなく甘い言葉を囁くロイを尊敬したくもなる。キャロラインは決してここまで自分の気持ちを曝け出すことはできないが、言葉にしてくれる独占欲はどうしてか嬉しく、キャロラインはただ幸せを感じていた。




「私も……ロイ様が選んでいただけたドレスを身に纏えるのはとても嬉しいです。」


「それはよかった。」


「あの……」




 突然会話に入って来た声に状況を思い出す。これは仮縫いの試着であるため、仕立て屋が確認をしたがって待っていたのだ。それを忘れて2人の世界に入ってしまっていた。側から聞いたら砂糖を吐き出しそうなほど甘いやり取りを聞かせてしまい、恥ずかしくて穴があったら入りたいとはこのことだ。だがロイはいたって普通の反応をしていた。




「すまない。彼女の美しさに見惚れていた。」


「それは何よりです。ロイ様がこのような幸せな顔をなさいますとは……本当に感慨深いものです。お手伝いできて光栄でございます。」



 息をするように惚気るロイにたじろぐこともせず、嬉しそうに答える仕立て屋の女性は、ロイが幼少期から付き合いがあるらしく、幼かった子供が成長したことを嬉しそうに話す親のような接し方をしていた。それが許される関係ということは、ロイも信頼し良好な関係を築けている証拠だ。

 人嫌いと言われていたロイでも心を許せる人はいた。それだけでなんだかキャロラインは心が温かくなる気持ちになっていた。




「とても似合っているんだが……」


「何かございますか?」


「…………このようなデザインが今王都で流行なのは知っている。そしてキャロラインも当然似合っている。だが……参列者にキャロラインの肌をあまり見せたくない。」


「まあまあ。左様でございますか。ですから少し困ったお顔をされていたのですね。」



 キャロラインが今着ているドレスは肩が出るビスチェタイプのウェディングドレスだ。ここ最近王都ではこのデザインが流行っており、皆こぞってこのスタイルのドレスを身に纏って結婚式を挙げていた。


 だがロイは露出が多いことを気にしていた。誰が見てもウェディングドレスなんだから問題ないのでは?とキャロラインは言いたくなったが、独占欲が強いロイにしてみれば、どんな状況でも許せないなら許せないのだ。



 仕立て屋の女性もロイのそんな様子を微笑みながら受け止めていた。




「でしたら長袖とかにしますか?」


「いや……それはリーシャ様がされるはずだ。王族は長袖だから。」


「王族しか着てはいけないという決まりはありませんよ?最近は長袖のドレスを着られる方も増えております。」


「それはわかっている。だがリーシャ様が長袖のドレスを着用されるなら避けるべきだ。」


「妃殿下にご遠慮されているのですね。」


「違う。キャロラインの美しいドレス姿を輝かせるためには、近く式を上げるリーシャ様と同じでは霞んでしまう。せっかくの美しい姿なのに、リーシャ様のドレスを真似したなど言われたくないのだ。それだけは避けたいのだ!」


「まあまあ。ロイ様は本当にキャロライン様のことが大切なのですね。誰とも同じではないデザインの方がよろしそうですね。」



 てっきりリーシャへの遠慮だと思ったらまさかの理由に、キャロラインは言葉を失い、仕立て屋は楽しそうに笑っていた。




「すまない。間に合うか?」


「おまかせください。でしたら……少しお待ちいただけますか?」




 仕立て屋の女性はその場で紙を手に取りスラスラと一つのデザインを書き上げた。



「こちらなどいかがですか?これでしたら大幅なドレスの変更はありません。ひと昔前に流行したデザインです。そうですね、お2人のご両親がご結婚なされた時はこのようなデザインが流行っておりました。それを今風にアレンジさせていただきました。可憐さと可愛らしさ、清楚さを兼ね備えたデザインではないでしょうか?」


「これは素晴らしい。これなら多少抑えられるし、何よりキャロラインに間違いなく似合うだろう。」


「透け感がある方が可愛らしいと思います。レースの見本をお持ちいたしますね。」


「ああ頼む。」




 あれよあれよと話は進み、あっという間にデザインが固まってしまった。キャロラインはただ着せ替え人形のように当てられる布やレースを受け入れ、ロイはキャロラインに何が1番似合うか選んでいく。


 キャロラインをとにかく美しく、誰よりも素敵に仕上げるために必死だった。




「お疲れ様、キャロライン。疲れたよね?」


「いいえ。とても楽しかったです。」



 ようやくウェディングドレスから着替えることができたキャロラインは、着心地が軽いドレスに着替えると一息ついた。確かに疲れたが何よりロイがとても楽しそうで、それを見るだけで幸せな気持ちになっていた。




「これから僕の衣装合わせだけど、先に戻る?」


「いいえ!次は私の番です!!ロイ様を誰よりも格好よくするのが私の特権です!」


「ありがとうキャロライン。じゃあ着替えてくるね。」



 ロイが着替えて戻ってきた姿はまさに王子様であった。キャロラインはあまりの格好良さに言葉を失ってしまう。ただ着ただけなのにこれほど格好いいとは……。本番ではどうなってしまうのか恐ろしくなってきた。




「キャロライン?」


「どうしましょう。格好よすぎて、女性達がロイ様を好きになってしまいそうです。」


「安心して。僕はキャロラインしか見ていないし、心が動くのはキャロラインだけだよ?そんなこと言ったらキャロラインが可愛すぎて僕も困っているんだ。参列者から男を排除したいぐらいなんだよ。」


「……私は女性を排除したくなってしまいます。」


「そしたら式は2人だけだね。それもいいかもしれないけど。」


「本当に仲がよろしいのですね。」




 またも仕立て屋の女性の存在を忘れて惚気てしまった。今回はキャロラインから仕掛けてしまったこともあり、キャロラインは顔を真っ赤にさせて手で顔を覆って隠している。



 初々しい未来の若奥様を2人は可愛らしいと思い、温かい眼差しを送る。優しい時間が流れる空間でロイは衣装合わせを行い、落ち着きを取り戻したキャロラインは指摘する箇所が何もないため、ただ見守っているのであった。




 ――――――――――――――――――――――




「いかがでしょうか?ロイ様。」


「最高に美しいよ。僕の妻は美しいと皆に自慢できる素晴らしさだ。」


「ありがとうございます。そのロイ様もとても素敵です。」


「それだけ?」


「う……素敵な旦那様です。」


「正解。」



 今日は衣装の最終確認だ。前回の仮縫いから今日までの間に2人は一足先に入籍し、今や正真正銘の夫婦となっている。ロイは愛しい妻に「旦那様」と呼ばれるのが嬉しくて、ついつい名前を呼ばせてしまう。

 キャロラインは恥じらいながらもまだ慣れない呼び名を頑張って伝えてくれる。





「相変わらず仲がよろしいことですね。サイズ感など問題なさそうですね。」


「ああ、完璧な仕事だよ。本当にありがとう。」


「素敵なご夫婦のお手伝いができて幸せでございました。暫くお二人でお過ごしください。あっご衣装は大切にしてくださいね。さすがにここからでは作り直しは難しいので。」


「……そうだな。気をつけておくよ。」


「では30分後に戻って参ります。」




 また2人の世界に入ってしまっていた。仕立て屋の女性は気配を消す天才かもしれない。仕立て屋の女性が部屋を出ると残されたのは婚礼衣装に身を包んだロイとキャロラインだ。



 2人はお互いをただ黙って見つめていた。




「キャロライン、本当に綺麗だ。」


「ロイ様も。」


「はぁ――、本番前に見ておいてよかった。」


「どういう意味ですか?」


「だってこんな美しいキャロラインを目にしてこれなんだ。本番はさらに髪も化粧もしっかりするだろう?さらに磨きがかかった君を初めて見たら息が止まるかもしれない。」


「それは困ります。」


「だから一足早く見ておいてよかった。心構えができるからね。それにね……」



 そこまで言うとロイはキャロラインの手を引いて強く抱きしめた。




「今だってこうしたくなるんだ。本番は絶対できないから……今こうやって触れ合えるのが嬉しい。」


「あの……シワになります。」


「少しぐらい大丈夫。流石にそれ以上は怒られちゃうけどね。」


「もう!!!」



 先程仕立て屋の女性の言葉を思い出す。まるでこうなることを予想されているかのような会話に、キャロラインは恥ずかしくてロイの胸を叩いた。




「ねぇキャロライン、練習しようか?」


「何を?」


「これだよ」



 ロイはそう言うと見上げるキャロラインの唇に口付けを落とした。あまりの一瞬の出来事にキャロラインは目を丸くして閉じることも忘れていた。




「誓いの口付け」


「なっなな……」


「ふふっ……顔が真っ赤だよ。」


「急すぎです!!」


「ごめんごめん。じゃあやり直そうか。」


「あの、誓いの口付けは抱き合ってしないですよ?」


「…………それもいいんじゃない??」


「ダメです!!」




 人嫌いで女性を寄せ付けず、他国からもクレマチスと恐れられているロイが、こんなに1人の女性にベタ惚れの男だと知られたら、参列者から卒倒する者が現れるかもしれない。

 それはほどほにしてもらい、第二王子のジルの秘書官になったロイの威厳は守らなければならない。

 キャロラインにとっては今1番大切な仕事であった。




「そんなにダメ?」


「だめです!……そのロイ様のその顔は、誰にも見せたくありません。ですから……2人っきりの時に……ね?」


「キャロライン……可愛すぎる!」



 殺し文句とはこのことかもしれない。キャロラインにしてみれば人前で甘くされるのは恥ずかしいためについたお願いであるが、ロイにしてみればキャロラインからのまるで独占欲のようでたまらない。胸が鷲掴みされたような息苦しいような感覚は不快ではなく、いつまでも味わっていたいほとだ。


 ロイは気持ちを表すかのように強く抱きしめる。それに流石に抵抗したのはキャロラインだ。



「ロイ様、ロイ様!!シワになってしまいます!!」



 それでもロイは手を緩めてくれない。




「旦那様!!緩めてください!」


「はい!」



 キャロラインが呼び名を変えれば嬉しそうな声が返って来て手が緩まる。




「じゃあ練習の続きしようか?」


「えっ?!」


「だって、おでこやほっぺにしてもいいんでしょ?どこが1番いいか考えないと!」


「ええ?!」


「ほら練習!」




 どんなに練習をしたって絶対場所は一つに決まっている。なのにがっちり掴まれた肩のせいで逃げることもできず、キャロラインは暫くロイからのキスの雨を浴びることになった。




 ――――――――――――――――――



 結婚式当日は抱きつかれることは回避できたが、ほとんどキャロラインの腰に片手を回しエスコートしたロイは、キャロラインにだけ向ける甘い微笑みは我慢することができず、そのキャロラインに向けられた微笑みで、参列者の令嬢を何人も恋に落としてしまった。


 既婚者なのだからと普通は淡い恋心を封印するはずなのだが、一部気が強いご令嬢はその場で親に頼み、節度がない親はなんと披露宴の場でこっそりとロイに娘を妾にどうかと相談してきたりもした。


 当然ロイは断るとともに、後日社会的に抹殺することも忘れない。数年後物の見事に妾を希望した貴族は没落したのであった。


 キャロラインもまた黙っておらず、こっそりその令嬢達にお礼参りの如くサブローを伴って挨拶するほどであった。




 こうして強くお互いを想い合っているロイとキャロライン夫婦の仲を取り壊そうとすると災いが起きると言われるようになり、誰もちょっかいは出さなくなった。



 2人の結婚式後、貴族の間ではウェディングドレスに新たな流行がきつつあった。



 肩から腕を透け感のあるレースで覆いビスチェタイプよりも肌の露出を抑えたそのドレスは、キャロラインが身につけていたドレスのデザインであった。



 王族のような袖があるドレスに憧れを抱いていたが、さすがに敷居が高いと諦めていた令嬢がこぞって好んだが、披露宴の最中ロイの母であるユリンが嬉しそうに「息子がデザインしたドレスが義娘をより可愛らしくしている!」と話すため、姑との仲がうまくいっていない令嬢からは「義母(おかあ)様も認めるドレス」として注目が集まっていた。



 そして何より、ウェディングドレスを花嫁ではなく、夫が妻のことを考えてデザインしたドレスとあって「寵愛のドレス」と呼ばれるようになり、いつまでも仲良くありたい新婚夫婦に人気となっていった。




 式から数年後、キャロラインのドレスを作成した仕立て屋は、その噂を聞きつけた貴族達から多くの注文を受けることになり大盛況となっていた。あまりの反響ぶりに今ではドレス部門だけ別の店舗を構えたほどだ。


 今日も店主の女性は幸せいっぱいの令嬢からドレスのイメージを聞き打ち合わせを終わらせたばかりだ。




「さて、私は出かけてきますね。」


「どちらに?」


「大切なお客様のところです。可愛らしいドレスを注文されたので打ち合わせに行って来ます。」


「いってらっしゃいませ。」



 店主の女性は嬉しそうに荷物を詰め込んだ鞄を手に取り、残った店の者に後を任せ店を後にした。


 向かった先はこの店を繁盛させてくれたロイの邸だ。数日前ロイからドレスの注文を受けたのだ。

 依頼されたのは小さな小さなドレス。もうじき3人家族になる、ロイとキャロラインの生まれてくる子供に着せるドレスだ。


 いつもは2人でデートの傍らわざわざ店に来て服を注文してくれる。それは忙しくなった店主への配慮なのだが、今日は身重になったキャロラインの安全のため来て欲しいと呼ばれていた。



「相変わらずのご寵愛ぶりですね。」



 きっと邸の中ではキャロラインが転ばないように手を繋ぎ、身体に触るからとなんでもロイがやっているはずだ。



 想像しただけで微笑ましい光景に店主は呟きながら微笑んでしまう。幼い頃より知っているロイが1人の女性と恋に落ち、父となろうとしている。その瞬間に立ち会える喜びを噛み締めつつ、彼女はまた一歩歩みを進めるのであった。

お読みいただきありがとうございました


これで「お兄様が強すぎる!」を完結とさせていただきます



最後までお付き合いいただきありがとうございました





いつかまた追加課題は執筆するかもしれませんが

こちらで一旦終わらせていただきます


キャロラインとロイ、2人の物語を

見守っていただきありがとうございました





次回作はまだ執筆が進んでおりませんので

2月19日(月曜日)から

更新していきたいと考えております



またお立ち寄りいただけると嬉しいです




最後までお読みいただきありがとうございました

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