表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

課題11 その先の未来を見つめよ②

「どちらまで行かれるのですか?」


 ロイに連れられながら城の中を歩くが、初めて訪れる場所ばかりでキャロラインは周りをキョロキョロ見渡していた。てっきりどこかの部屋にでも通されると思っていたが、ロイが進んだ先は何故か庭先で、キャロラインはどこに連れて行かれるのか見当もつかなかった。



「もうすぐだからね。」



 ロイはただ微笑むだけで行き先は何故か教えてくれない。気がつけばいつの間にか繋がれた手が恥ずかしくて離そうとすると、ロイがわざと力を込めて離さない。



「迷子になりませんよ?」


「迷子……それは心配してないよ。ただ悪い虫がつかないように、予防だね。」


「虫ですか?」



 確かに庭には虫もいるだろう。だがロイと繋いだところで虫を防ぐことはできないはず……不思議そうにロイを見つめていたのだろう。ロイはキャロラインの顔を見ると面白そうに笑い、「いろんな虫がいるんだよ。」と言って誤魔化してしまった。


 キャロラインは納得していなかったし気付いていなかったが、キャロラインは登城してから男性の視線を至るところで集めていた。ロイが見繕ったドレスがとても美しく、それでいていつものキャロラインの雰囲気とは別の趣向のドレスであったため、キャロラインの知らなかった魅力に気が付いてしまった男達がついついキャロラインを見つめていたのだ。当然一人一人にロイが恐ろしいほど張り付いた笑顔で牽制するため、男達はそそくさと逃げたことは言うまでもない。


「僕だけが知っていればいいことなのに……。」


 ポツリと悔しそうにロイは呟く。キャロラインの魅力は一緒に過ごす時間の中で充分知ることができた。出会ってから知ることも多く、いつしか自分しか知らない彼女のことが知りたいと思うようになっていた。


 そのためわざと恥ずかしがることをしたりとちょっかいを出してはいたが、キャロラインが普段着ない系統の服装を着た姿を見たいと感じるようになっていた。



 だからこそ今日ジルと会うために選んだドレスは普段の柔らかい色合いを着るキャロラインとは真逆の落ち着いた色を選んでみた。

 ただ着る色が違うだけでこうも雰囲気が変わってしまうのかと驚かされるほど、普段のキャロラインとは別人のような雰囲気を纏っていた。


 化粧もドレスに合わせて大人っぽくしているのだろう。可愛らしいキャロラインが大人っぽい雰囲気を醸し出すため、様々な男が引っ掛かる結果となってしまっていた。


 かく言うロイもその1人で、キャロラインの知らなかった魅力をまた知ってしまったため、彼女をこのままどこかの部屋に閉じ込めて誰の目にも触れないようにしたいと思ったほどだ。

 さすがに予定があるためできないが、それぐらい誰の目にも触れさせたくないと感じるほど今日のキャロラインは今までと違う魅力に溢れていた。




「どうかなさいましたか?」



 ポツリと溢した言葉はどうやらキャロラインに聞かれていたらしく不安そうにロイを見つめている。そんなキャロラインを安心させるようにロイは甘く微笑むと



「君が可愛すぎるのが悪いんだ。」



 と呟くため、キャロラインは真っ赤な顔をして首を横に振り、全力で否定するのであった。




 ――――――――――――――――――――



 ロイに連れられてずいぶん庭の奥までやって来ていた。美しい薔薇が咲き誇るその庭には立派なガゼボが佇んでおり、そこには先客がいた。




「お待たせしてしまい申し訳ありません。」



 ロイが先客がいるガゼボに遠慮なく進むため、手を繋がれたキャロラインは黙ってついていくことしかできない。


「いや、ロイと待ち合わせなら少しぐらい待つのも苦ではないよ。それに……」



 ガゼボに座りロイと親しげに話していた人物が、ロイの後ろにいるキャロラインに目をやるため、キャロラインは自然と姿勢を正す。きちんと話したことはもちろんないが、その面影は見覚えがあった。あのメリスラ王女の歓迎パーティーで会を仕切り、ロイの近くにいた人物、ジルであったのだ。



「紹介します。キャロライン・ハンスリン伯爵令嬢です。」


「キャロラインです。お会いできて光栄です。」


「よろしくね、キャロライン伯爵令嬢。」



 ジルは優しい笑顔でキャロラインを見た後、ロイを何故かニヤニヤした顔で見出した。流石にその視線に気がついたロイは苦虫を噛み潰したような嫌な顔をしていた。




「何ですか?」


「いや……これは君の好み?」



 キャロラインは何のことを言っているか分からないが、ロイは分かっているらしく、あからさまに嫌そうにため息を吐いていた。




「好み……かどうかはわかりませんが、たまには違うものをと思っただけです。」


「なるほどね。それでどうだった?」


「…………新たな発見をしてしまいました。だが……まだそのままにしておきます。変な虫が湧きましたので。」



 ロイのその言葉にジルは目を丸くして声を出して笑い出した。



「君……こんな人だっけ?あーー、人って変わるんだな。その独占欲嫌われないようにね。」


「言われなくても。……座ってもいいですか?それにあなたも紹介してくださいよ。」



 ロイの紹介を受け挨拶をすれば、ジルは席に座るよう促し、キャロライン達が椅子に腰掛ければ、そこで初めてジルの横に女性が腰を下ろしていることに気がついた。





「紹介するよ。彼女はリーシャ。私の妃になる予定の人だ。」



 リーシャと紹介されたその女性はロイとキャロラインを見つめるととても優しく微笑み挨拶をしてくれる。雪のように白い肌に美しい金髪、大きな目をした大人っぽい雰囲気のリーシャは誰が見ても美しいという言葉が相応しい人であった。




「初めまして。ふふっお話を聞いていた通りとても可愛らしい人ね。」



 リーシャはキャロラインを可愛いと言うと、ロイに向かって笑いかけた。



「あのロイを夢中にさせた女性だからね。」


「やめてください……。」




 珍しくロイが2人の言葉にたじろいでいる。それがなんだか新鮮でロイを見つめれば、ロイは少し困った顔をしてキャロラインを見つめた。




「君がそんな顔をする日が来るなんてね……。全く骨抜きとはこのことだね。」


「あなたには言われたくありません!」


「そうかな?まぁリーシャは美しいから骨抜きになるのは当然でしょ?君もそうだろう??」


「…………そういうことです。」


「ちょっと2人で盛り上がらないでね。今日呼び出した理由を言わないと彼女は緊張したままよ?」





 ロイとジルがお互いの相手に対して惚気だしたのをリーシャは制止し話を戻してくれる。キャロラインにとってみれば雲の上のような人達に呼び出され、理由も告げられず自身の惚気話を聞かされるのだ。たまったものではなかった。



「それはすまないね。キャロライン伯爵令嬢。今日呼び出したのは君に頼みがあるのと、詫びを入れるためだよ。」



 キャロラインはその言葉にロイを見つめた。まず勝手に発言をしていいかの確認と、詫びの意味がわからなかったのだ。

 キャロラインが言いたいことが見ただけで理解できたのだろう。ロイは机の下で隠れているキャロラインの手をそっと繋ぐと、安心させるようにその問いかけに応えてくれた。




「気負わなくていいよ。今日は好きに発言して構わない。そうでしょ、ジル?」


「ああ、配慮が足りなかったね。ロイも友人として接しているんだ。君も気にしなくていい。」


「ありがとうございます。あの……お詫びとは?」


「キャロライン伯爵令嬢……いやキャロライン嬢と呼んでもいいかな?」


「もちろんです。殿下ですのでキャロラインでも構いません。」


「…………んー、それは辞めておくよ。君の騎士(ナイト)はそれを許さないみたいだからね。」



 キャロラインの願いにジルは考える素振りをしながらロイに目をやれば、ジルをあからさまに不機嫌そうな目で睨みつけるロイと目が合ってしまい、ジルは苦笑いをうかべるしかなかった。ジルの言葉にキャロラインはロイを見るが、キャロラインが振り返った瞬間にキャロラインにだけ見せる甘い表情に瞬時に変更するため、ジルは信じられないものを見るような目をしながら咳払いをして話を続けることにした。




「君に謝らなければいけないことは、説明もなくロイに仕事を任せたことだ。いくらロイがメリスラ王女に対して何も感じてないとはいえ、君に説明しなかったために不安にさせた。それは本当にすまなかった。正直、熊が送り込まれるとは思わなかったよ。」


「兄の件は申し訳ありませんでした。それにロイ様を信じられなかった私の責任でもあります。大切な仕事と分かっていたのに、自分の気持ちを優先してしまいました。」



 アルフレッドが熊を連れてきたことに関してジルも笑いながら話すため、どうやら彼らの中では笑い話として片付けられているらしい。




「普通はそうさ。そんな物分かりがいい人なんていない。今回の仕事はどうしてもロイに頼みたかった……だから時間的余裕がなく君を後回しにしてしまった。本当に申し訳なかった。」


「殿下ともあろうお方が謝らないでください。」


「キャロライン嬢は優しい人だ。何故ロイに頼んだのかなど聞きたいことはあるだろう?」


「……仕事ですので。関係がない私が聞くわけにはいきません。」


「流石だね。だが今回の相手はロイと過去婚約しようとしていた女だ……。君は聞いていいんだよ。」




 そう言うジルの目はとても優しかった。ロイとは恋人ではあるが家族ではない。だからこそどこかで線引きをして仕事には踏み込まないようにしていた。ましてや国に関わる仕事なのだ。赤の他人が聞くわけにはいかない。

 だがジルはそれを聞くことをキャロラインに許可してくれた。何も遠慮はいらないというその表情にキャロラインは決意を決めると、ジルの顔を真っ直ぐ見つめて「聞かせてください。」とはっきり意思表示をするのであった。

お読みいただきありがとうございます

更新が遅くなり申し訳ありませんでした



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ