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課題10 真実を明かせ④

「それでメリスラ王女はあんなに顔色が悪かったと言うことですか?」



 話を聞いていたキャロラインがパーティーの日のメリスラ王女の異変を尋ねれば、ロイはそれに対して頷いてくれた。



「そうだよ。キャロラインも気付くなんてそんなに顔色が悪かったんだね。」



 ロイは気付くなんて凄いと褒めているが、あの会場にいる全員が間違いなく気付くほどメリスラ王女の顔色は悪かった。



「それにしてもその書類には何が書いてあったのですか?」


「まだ公になってないから内緒だよ。だけど君には話す。話さなければいけないと思うんだ。」



 ロイのその言葉にキャロラインはただ黙って頷くとロイの話を聞くためにロイの目をしっかり見つめた。




「少し長くなるけど聞いてね。君はソルダ国を知っているかな?」


「ソルダ国ですか?確か……イシュカン王国の唯一と言っていい友好国ですよね?50年と長い時間友好関係を築いていたと……。とても小さな国なのに友好的ではない大国であるイシュカンと友好関係を築くなど凄い国なのでしょうか?」



 キャロラインはロイから告げられた国のことはあまり知らなかった。他国を見下す傾向にあるイシュカン王国が唯一友好関係を築いている国。だがそれ以上は何も知らないほど小国で特産など何もない国であった。



「あのイシュカン王国が友好関係を小国と築くのは不思議だとキャロラインも思うよね?」



 ロイの問いかけにキャロラインは静かに頷いた。



「そう、不思議なんだよ。何もないと言われている国と友好関係などメリットは何もないからね。でもイシュカン王国は長年友好関係を築いていた。皆不思議がっていたが、長い年月が経っているため誰もそのことに触れなかった。」


「触れなかった?」


「調べるとイシュカン王国が塩の特産になったのは50年ほど前からなんだ。上質な塩が出来たと大々的に宣伝し今に至っている。」


「そうなのですね。」


「気付いてる?ソルダ国と友好関係を築いた時期と近いんだよ。」



 ロイに言われて確かにとキャロラインは思った。共に50年と同じ年月が経っていた。



「ジル殿下があるところからね、塩の秘密の噂話を入手したんだ。そこで調べると面白いことが分かってきた。」


「塩の秘密?」



 キャロラインはロイが言いたいことが分からず首を傾ける。何故ソルダ国の話から塩になったのか、ソルダ国の話はなんだったのか、キャロラインには理解できないことばかりであった。




「イシュカン王国は塩の産地ではない。塩はソルダ国の特産だということだよ。」



 ロイの言っている意味がさっぱりわからず、キャロラインは唖然として何も反応しなかった。



「そうなるよね……。僕も最初聞いた時はキャロラインと同じ反応だったよ。何故ソルダ国は大切な特産をみすみすイシュカンに渡しているのか、不思議だよね?」



 ロイはキャロラインの混乱している頭の中を一つずつ整理させるように言葉を続ける。キャロラインはその問いかけに頷いた。



「表向きは友好国だが実際は侵略だったんだ。イシュカンはソルダ国の塩に目をつけて侵略した。そうして大規模な塩の精製工房を作った。その工房には必ず一家に1人働くよう強制させたんだ。言わば人質だね。塩がイシュカンで作ってないと外部に漏らさぬよう人質として働かせていたんだ。実際調べてみると何人かは他国へ真実を告げようとしていた。だが全員始末されてしまっていた。」


「そんな!!」


 ロイから告げられるあまりに残酷な真実にキャロラインは言葉を失った。平和だと思っていた世界はミソニ国の中のことだけで、他国では苦しんでいる人が未だいるこの現実を受け止められずにいた。



「……信じられないよね。でもこれが現実なんだ。長年抑えつけられた生活が当たり前で、逃げることはできない。ソルダ国の国民は王族を始め皆が諦めていた。……だがそれでも諦めない人がいた。」


「その方から情報があったということですか?でもその方は……」



 ロイの話を聞いていれば予想はつく。きっと見せしめに始末されてしまっているのだろう。そんな言葉は分かっていても声に出すことも恐ろしくキャロラインは両手をロイの手に乗せ落ち着こうとする。重ねられたキャロラインの手は恐怖でなのかロイに縋り付くようで、ロイは一度手を離すとキャロラインの手の上から優しく包むように重ね、落ち着くように寄り添った。





「安心して。その人は無事だよ。」


「うまく逃げられたのですね。」



 無事という言葉を聞いてキャロラインは安堵したような顔を見せる。この人は本当に優しすぎる……だからこそ守りたい、守らなくてはいけない。ロイは強く感じるとキャロラインを強く抱きしめた。



「その人はね、ソルダ国の誇り高き姫君なんだ。国民のことを第一に考え、なんとかしようと自分から動かれた。そして今も……国に残り続けている。」


「大丈夫なのですか?」


「……ジル殿下が手を回している。うちの諜報員を何人かイシュカンの者に紛れ込ませ、姫の護衛に当たっているよ。だから安心して。」


「城の中もイシュカン王国に支配されているのですね……。」


「そうだね。でも彼らは強い。素晴らしい情報を得ることもできたから、こうして動くことができているんだよ。」


「そうだったのですね。……私は何も知りませんでした。」



 キャロラインの知らない所で命を賭して任務に当たっている人がいる。兄であるアルフレッドなど表立って活躍する人物は様々な意味で注目されるが、それ以外にも名前を知られず活躍している人はいた。騎士の家系であるのに何も知らなかったことが恥ずかしくなってきていた。



「知らなくて当然。幸せに暮らせるようにする……それが僕達城に務める者の仕事なんだ。」


「ロイ様にも危険が伴う仕事はあるのですか?」


「僕は……外交官だから。頭で戦うだけで危険は少ないよ。それはこれからもずっとね。」



 キャロラインを安心させるように優しくずっとと言葉を伝えれば、キャロラインは安堵したような表情を浮かべていた。



「こんなこと聞いていいのか分かりませんが……、どうやってその方とジル殿下は繋がることができたのですか?」


「気になるよね。実はねジル殿下は見聞を広めるためにお忍びで諸外国を度々訪れていたんだ。ソルダ国はいくらイシュカン王国に侵略されているからと言っても、観光客は受け入れていた。ジル殿下やウィリアム殿下はイシュカン王国を毛嫌いしていた。だからこそそんな国と友好関係を築いているソルダ国のことが気になっていたんだ。初めは何かイシュカン王国のネタが掴めればいい……そんな考えだったんだけど、そこでお忍びで街に繰り出していたソルダ国の王女、リーシャ王女と出会ったんだ。」


「リーシャ王女……」


「彼女はイシュカンの監視の目を掻い潜り、信頼できる外部の人間を探していたらしい。身を守る術で変装がとても上手で、彼女が王女であると国民だって誰も気が付かないほどだよ。」



 ロイが思い出したように笑うため、キャロラインは気になることが出てきた。



「ロイ様……もしかしてそのご旅行にご同行されています?」



 ジルから聞いたにしてはあまりに詳しすぎるのだ。まるで目で見たような内容がつい気になってしまっていた。



「……ジルはね、親友なんだ。彼も立場上心を許せる人が少ない。ましてお忍びだからね……僕が相手をするしかないんだ。」



 ロイは困ったように笑っていたが、キャロラインはそんなロイをじっと睨みつけた。まるで嘘つきというようなその瞳は、間違いなく先程ロイが言った危険がないという言葉を信じていない目であった。




「安心して。ジルも強いんだ。それに君も知っているだろう?僕も強いんだよ。」


「知っています。ですが嘘つきは嫌いです。」



 臍を曲げたように口を尖らせるキャロラインが可愛すぎる。ロイはキャロラインの背中で悶えながら、愛おしそうに抱きしめた。



「安心して。もうジルもお忍びで出掛けたりしないから。」


「本当ですか?」


「本当だよ。」



 疑い深い目で見つめてくるキャロラインの頬に口付けを落とせば、キャロラインは見る見る顔を真っ赤にさせて震えていた。卑怯かもしれないが、こうでもしないと話題を変えれそうになかった。

 ロイの思惑通りキャロラインはそれ以上追求することはせず、ロイは話を戻すことにした。




「リーシャ王女は博識だった。いつか役立つようにと諸外国のことまで勉強されていた。だからこそジル殿下に気がついた。彼女の話を聞いてから、ジル殿下は独自に動いた。内通者を何人も送り込み、リーシャ王女から様々な情報を得ることができたんだ。そのお陰で塩を精製している工房やその仕組みを突き止め、証拠を得ることができた。そして今回、あのバカ……っん、メリスラ王女が視察に来た機会を利用して全て白日の元に晒すことができたんだ。」



 今一国の王女のことをバカと呼ばなかったか?とキャロラインは気にしつつ、それには触れずに話を聞き続けた。



「メリスラ王女が署名した書類にはね、婚姻のことも書いてあったけど、何より塩のことが書いてあったんだ。今までソルダ国が精製した塩は取り上げない。だがソルダ国産として記載すること、長年のソルダ国へ行ったことをミソニ国から他国へ公に知らされたくなければ、ソルダ国を解放すること。そして、今後はソルダ国から盗んだであろう知識を利用し、自国で塩を精製すること。ソルダ国をミソニ国の友好国とすることが事細かく書かれていたんだ。」


「そんな書類に署名をしたのですか?」


「普通はありえないでしょ。でもね、あの王女は名ばかり王女で仕事をしないことは調べ済みなんだ。彼女にお飾り王女だと挑発すれば、プライドだけは高い彼女のことだ。ムキになって対抗することはわかっていた。だからこそそれを利用したんだ。仕事ができない威勢だけがいい王女……そんな彼女には読む気も失せる膨大な量の書類を見せれば、彼女は内容を確認しないで署名をするはず。そう踏んだんだ。」


「まさか……そこまで想定していたのですか?」


「もちろん。僕はね確率が低いことは動かないよ。そういう男なんだ。」


 耳元で「もちろん君のこともね。」と甘く囁くため、キャロラインはたまらず耳を抑えれば、ロイはまた楽しそうに笑っていた。



「でも何故そこまでジル殿下が動かれたのですか?確かにイシュカン王国のやり方は許せません。ですが諜報員など送らず、他国に協力を持ち掛ければもっと簡単にできたのでは?」



 キャロラインの問いかけは誰しも考えそうなものだ。だがロイはその答えには首を横に振って否定を示した。




「多くの人の手が入るほど、裏切る者が出てくる可能性がある。そのために人員を精査したりするとなると、それこそ単独で動くより時間がかかるんだ。それにね……これはジル殿下が動きべきなんだよ。」


「というと?」


「キャロライン、男ってのはね、格好つけたい者なんだよ。それが大切な人なら尚更ね。」


「えっ?!もしかして?」


「ジルとリーシャ王女はこの件をきっかけにかけがえのない存在になっているんだ。彼女を妃として迎えるには問題が大きすぎる。だから全て片付ける必要があったんだよ。」


「だからせっかく解放されたのにミソニ国とすぐに友好関係を築こうとしているのですね。」


「そういうこと。晴れて自由になった国で孤高に闘った姫と、その姫を助けるために画策した王子……反対する者などいないでしょう?」



 クレマチスは先の先まで見据えていた。敵わないなと思いつつ、ロイとジルが長年求めた相手と結ばれるため奮起したその行動力は純粋に凄いと感じていた。


 彼らの原動力のおかげで他国まで幸せになれた。その原動力として少しでも力になれたことが嬉しく、キャロラインはロイの背中にもたれ、ロイの体温を感じながら幸せを噛み締めていると、ロイは急に思い出したかのようにポケットから何かを取り出した。


「キャロライン、これお土産。受け取ってくれる?」



 目の前に差し出された小さな小包を受け取り中を確認すると、そこには口紅が入っていた。ほんのりピンク色の肌馴染みがとても良さそうな色合いだった。



「可愛い……」


「気に入ってくれた?ごめんね、本当はもっといろんなものを買いたかったんだけど、帰り道に買う余裕がなくて……。これは行きで途中立ち寄った場所で購入したんだ。僕はあまりこういうのは詳しくないけど、上質な保湿剤が入ってるんだって。君に似合うと思ってつい買ってしまったんだ。」


「ありがとうございます。大切にします!」



 キャロラインが嬉しそうに微笑めば、ロイはキャロラインから何故かその口紅を受け取ってしまう。不思議そうにロイを見つめるキャロラインにロイが甘い声で「つけてあげる」と言い出すためキャロラインは遠慮するが、すでにやる気十分のロイから逃げられるわけはなく、キャロラインは目を瞑って受け入れるしかなかった。



「そういえば、口紅を贈る理由は知っている?」


 塗りながらロイが尋ねてくるためキャロラインは目を瞑ったまま静かに首を横に振る。その途端ロイの短いため息と「無防備すぎる」という声が聞こえてきたため、キャロラインは尋ねようと思ったが、それは叶わなかった。

 キャロラインの口に何かが触れたからだ。時間にして一瞬。だけどキャロラインにとっては確かに感じた感触に驚いて目を開ければ、そこには愛おしそうにキャロラインを見つめるロイと目が合ってしまった。



「えっと……」


 恥ずかしそうに目を逸らそうとするキャロラインの顔を両手でしっかりと固定したロイは、キャロラインを見つめたまま顔を近づけてくる。



「男が口紅を贈る理由は……口付けをしたい……だよ。」


 酷く甘い言葉が恥ずかしくて逃げ出したいのに、しっかり固定され動くこともできず、真っ直ぐ見つめる目から逸らすこともできない。キャロラインはいろいろ限界で頭がおかしくなりそうであった。



「ロッ……ロイ様……」


「ちなみにドレスを贈るのにも意味があるんだよ?知りたい?」



 キャロラインはロイのなすがまま、ただ頷くことしかできない。ロイはクスッと楽しそうに笑うと、そのままキャロラインにだけ聞こえるようにそっと耳打ちでその意味を教えてくれる。

 意味を理解したキャロラインはさらに真っ赤な顔をして叫びそうになったが、その口は再びロイに塞がれて声を発することを許されなかった。



 その後しばらくロイが満足するまで付き合わされたキャロラインは、真っ赤な顔をしたままロイに送られてハンスリン家に帰ってきた。キャロラインを心配で迎え入れたアルフレッドはロイの唇に口紅がほんの少しついている事に気が付き、「可愛いキャロラインに手を出したのかー!!!」と叫びロイを追い回す。


 ネモはキャロラインを守るように立つと、助けを求めるロイの言葉を聞かず、「キャロライン様にこのようなことをしたこと反省してください!!」とロイに噛みついていた。



 ロイはしばらくアルフレッドから追い回される羽目になったが、その顔は非常に楽しそうであった。




 

お読みいただきありがとうございます

これで課題10は終わりです



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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