課題10 真実を明かせ③
ロイが熊の話に満足すると、ようやく本題に戻ることができた。そこで聞いたのはやはり今日この場所に来たのはアルフレッドの計らいで、アルフレッドの忘れ物はロイと2人っきりで会うための嘘であり、アルフレッドはもうすでに帰宅しているというものであった。
だが1番驚いたのはアルフレッドとロイが帰宅したのが今朝方ということだ。すぐにハンスリン家に向かおうとしたアルフレッドを宥めて、とりあえず身なりを整えてから会いたいと要望を伝えたことでこの時間に会う事になったということだ。
アルフレッドのあの元気さは、早くから行動したことによるアドレナリンが異常に高まっていたことかと妙に納得してしまう。
キャロラインに会うため大急ぎで入浴を済ませ、身なりを整える時間を設けてくれたことで、キャロラインはとんでもなく早い時間に起こされずに済んだことは感謝したいが、ロイが無理をしていないか心配だった。
だがロイはキャロラインに会えるためなら苦ではないと言ってくれるため、キャロラインはそれ以上心配することをやめ、話の続きを聞く事にした。
「何から話せばいいかな……」
ロイが帰国の話を終えたところでポツリと溢した。確かに聞きたいことは沢山あり、キャロラインも何から聞けばいいか分からなかった。
「……あの日、パーティーで何が起こったかから話そうか?」
ロイは暫く考えた後順を追って説明する事に決めた。キャロラインも頷いてくれたため、ロイはゆっくりあの日何が起きたのか話し出した。
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パーティーでメリスラ王女がロイとの結婚を宣言した後、ロイはメリスラ王女と話があると言って別室へ移動した。そこは事前に用意された部屋で、メリスラ王女が部屋のソファに腰を下ろすと暫くしてジルとフランが部屋に入り扉を内側から鍵を掛けてしまった。
「どういうことです?!2人での話ではなかったので?これはあまりにも無礼よ!!」
メリスラ王女の抗議は当然かもしれない。彼女はロイと2人で話せると思い側近達を側に置かなかったからだ。
「先に陛下へ婚姻の話を持ち出したそちらが無礼では?先にやったあなたに言われたくはありません!」
すかさずジルがきつい口調で嗜めるため、メリスラ王女は悔しそうにソファにもたれかかりロイを睨みつけた。
「どういうつもりよ?」
味方がいないこの状況でもメリスラ王女は一切怯まなかった。だが多くの場数を踏んだロイには彼女の睨みなど何とも思わなかった。
ロイは涼しい顔をしながらあらかじめ用意してあった書類を広げてメリスラ王女に見せた。
「これが何よ?」
不機嫌そうに書類を手に取ったメリスラは、今までの態度が嘘のようにあからさまに動揺し始めた。だがそんな彼女を助ける人物はここにはいない。3人はそんな彼女の反応をお見通しのように薄ら笑いすら浮かべていた。
「どうかなさいましたか?」
「どういうつもりよ?」
しれっと心にもないことを言えば、メリスラは再びロイを睨みつけるが、彼女の声は動揺しているのかあからさまに震えていた。
「何がですか?」
分かっているのに何も言ってこないロイに痺れを切らせたのか、メリスラ王女は苛ついているようであった。
「この書類の意味よ。こんなことがお父様に知れたらこの国は終わりよ?!」
手に持っていた書類を机に投げ出すと、メリスラ王女は立ち上がって出口の方へ向かう。当然扉の前にフランがすかさず立ちその退路を塞ぐと、ジルが今度はメリスラ王女に冷たく席に戻るように促す。退路を絶たれたメリスラ王女は大人しく従うしかなかった。
メリスラ王女が席につくとジルがロイに変わって話す事になった。王族の権力を振りかざすなら同じ王族が相手にするまでだ。
「どうもこうもそちらがこの国に何かしようとするのなら、困るのはおたくの国では?」
「どういうことよ?」
ジルの淡々とした言葉にメリスラは理解できないのか、未だ威勢だけはよかった。
「そのままの意味です。」
「こんなら書類でたらめよ。こんなことでイシュカンを蔑めることができるとでも?」
「我が国の諜報をなめてもらっては困る!」
シラを切りやり過ごそうとするメリスラ王女にジルは怒気を含む声で返せば、メリスラ王女はその王族としての威圧に初めて威圧されたのか身震いをした。
「この書類に嘘はない。いいですか?あなた方はこの国以外にも様々な国へ嘘をついているのです。それがどういう意味か分かりますか?」
「何が言いたいの?」
「簡単なことです。今後一切我が国へ縁談など持ちかけないでもらいたい。私達はあなたのお飾りではないのだから。」
「イシュカンと手を結ばないこと後悔しますよ?」
この後にも及んで強気な王女にジルは深いため息を吐くと、真っ直ぐ彼女を軽蔑したような目で睨みつけた。
「あなたのような教養も何もない女性など、こちらから願い下げです。そんな女性を娶ってこの国にプラスになることはない!」
「なんですって?!!今の言葉父に伝えますよ!!」
頭に血が上ったメリスラ王女が声を荒げれば、ジルは黙れと言うように机を思いっきり叩いた。そのあまりの音とジルから発せられている怒りにさすがのメリスラも黙るしかなかった。
「何でもかんでもすぐに親の名前を出す。あなた自身何もできないではないですか?」
「何ですって?私はイシュカンを代表してこの国へ来たのよ?仕事ぐらいできるわ!!!」
威勢よく言い返すメリスラ王女のその言葉を聞くと、ジルどころかロイもフランも不敵な笑みを一瞬浮かべた。だがそんな変化など頭に血が上っているメリスラ王女は気付くことはなかった。
「ならば話が早い!今後一切この国へ関わらないなどの署名を頂けますか?ああ、内容を確認していただいて構いませんよ?」
ジルの言葉を聞くとすかさずフランが用意してあった分厚い書類をメリスラの前に出す。確認するには膨大なその書類は、一枚目には婚姻の話が書いてある。メリスラ王女は面倒くさそうに早くこの話を切り上げるべく一枚目のみチラッと確認だけすると、すぐに書類に署名をしてしまった。
署名が終わるとすかさずロイとフランがペンと書類を取り上げてしまう。そのあまりの手際の良さにさすがのメリスラ王女も違和感を感じる。まるで書類の内容を見せないようにしているような行動であった。
メリスラ王女が署名を行った書類はすぐにフランとロイが彼女の署名にミスがないのか確認をする。そうして署名に問題がないことが分かりジルに伝えれば、今まで威圧を放っていたジルが今度は急に笑い出すため、メリスラはこの情緒不安定な王子から離れたいと考えるようになっていた。
「メリスラ王女、本当にありがとうございました。」
やたらご機嫌なジルがあまりに不気味で引いているメリスラ王女に、ロイは先程メリスラ王女が署名をした書類の一枚を見せて来た。そんな書類など見たくもないメリスラ王女にロイは見ろとばかりに目の前にかざすため嫌々眺める。細かい文字が紙いっぱいに書かれている書類など、メリスラ王女は読む気も失せる。彼女はこのような書類や書物を読むのが大の苦手だ。そんな読む時間があれば自分磨きに勤しむ人であったため、書類を眺めても書かれている内容など全く頭に入ってこなかった。
そんなことを理解したのだろう。ロイはある一文を見るように書類を指差した。従うように目を通したメリスラは、ようやく悪態をつくのではなく、真っ青な顔をしてロイが示した一文を眺めていた。
「ようやくお気付きのようだ、己の犯したミスを。」
ジルは散々嫌な思いをしてきたメリスラ王女が、真っ青な顔をしたのに満足したように笑って席を立った。
「この卑怯者!!」
メリスラは真っ青な顔をしたまま文句だけは言ってくる。そんなメリスラをジルは冷たく見下していた。
「卑怯者はどっちだ!さあ会場へ戻りましょう。お付きの人達にあなたの失態を伝えねばなりませんよ。ああ……あなたは到底教養が足りないため説明できないでしょうから、私から伝えることにしましょう。とりあえず帰りましょうか?」
この部屋に入る前のメリスラ王女は今はどこにもいない。まるで身ぐるみを剥がされたように怯える彼女は、ようやくことの重大さに気がついたようだが、すべて手遅れだった。
こうして上機嫌な3人と顔色の悪い王女はパーティー会場へ戻ると、すべての決着をつけるべく行動へ移すのであった。
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