課題10 真実を明かせ①
「キャロライン!!おはよう!!!!」
朝の早い時間。キャロラインが起きるにはまだ早く寝ているのに、そんなのお構いなしというように、騒音ともいうべき大声のモーニングコールによってキャロラインは起こされた。
目覚めとしては最悪だ。ただでさえ大声は驚くことなのに不意打ちのしかも就寝中にやられるため、キャロラインは寝ぼけながらも不機嫌になっていた。
「キャロライン!今日はいい天気だぞ!!ほら起きるんだ!!」
確かに窓の外を見れば、陽が登り始めた空は青空が広がっている。天気はいいことはわかったが、何故こんなに早く起こされなければいけないのか理解できず、キャロラインは大声で起こしに来た声の主であるアルフレッドを無言で睨みつけた。
「キャロライン?!ほら怒ってないで支度をしよう!!」
「……どこにですか?お約束などしていませんよ?」
キャロラインが睨みつけても珍しく引かないアルフレッドに、キャロラインは不機嫌そうに話しかければ、アルフレッドは今にも泣きそうな顔をしていた。この兄は本当にキャロラインには弱い。キャロラインはアルフレッドの顔を見ると申し訳なく感じてきたため、機嫌を少し直すことにした。
「ほら……こんな天気がいいんだ!少し外に出ないか?!」
「どこにですか?」
「ほら……お前が以前サブローと対峙したあの公園だ。確か綺麗な泉にロイ殿と行くの予定だったのにサブローに邪魔されたんだろう?」
「お兄様……何故そのことをご存知なのですか?私はネモと出掛けたと伝えたはずですが?」
「そっそれはだな……ロイ殿が教えてくれたんだよ!!!」
キャロラインの指摘にアルフレッドは目を泳がせている。たどたどしく応えるため、何か隠し事がありそうなのだが、どうせ聞き出した方法が半ば強引にしたんだろうぐらいに考えていたキャロラインは、それ以上聞かないことにした。
「そうですか……。でも何故そこに?」
「綺麗な景色は心が洗われる。熊の統治はできているから心配無用だし、レットには行くことを伝えてある。熊も怖がることはないよ。」
「わかりました。準備しますのでお待ちください。」
今まで誰が誘ってくれても出掛けたいとは思わなかった。だけど、アルフレッドからの誘いに何故かキャロラインは出掛けたいと思い、急いでネモに声をかけて準備をしてもらって出かけることにした。
久しぶりの外出だからか、ネモはいつもより気合が入っていた。泉へ出かけるだけなのにスカートの裾がふんわりと軽やかに揺れる可愛らしい服を選び、髪も可愛らしくまとめてくれる。出掛ける相手は兄であるアルフレッドなのに、これではまるでロイと出掛けるような装いに戸惑い文句を言っても、ネモは「まあいいじゃないですか。」と楽しそうに答えるだけなので、キャロラインはネモの着せ替え人形のようになるしかなかった。
そうして準備が整ったキャロラインはアルフレッドと共に馬車で泉へ向かった。馬車の道中、1週間ほど不在だったアルフレッドにどこへ行ったか問いかけたが、仕事だよと返ってくるだけだったので、キャロラインは仕事が溜まって城で寝泊まりしていたのかと納得し、それ以上何も会話をするのではなく、ただ窓の外を見ていた。
馬車が停まり降り、泉へ向かって歩き出した2人だったが、途中でアルフレッドが忘れ物をしたといって戻ってしまった。泉はあと少しだから先に行くようにと言われてしまったため、キャロラインは1人ゆっくりと泉へ向かって歩き出した。
朝早く起こされたこともあり、国立公園には人がほとんどおらずら泉へ向かう道には誰もいなかった。人の噂話も何もない、ただ風が木を揺らす音を聞きながら歩くのは心地よく、キャロラインの心を癒してくれていた。
「お兄様まだかしら?」
進んでいく先が明るく、開けた場所が近づいてくることを感じる。泉はすぐそこなのだろう。キャロラインはアルフレッドが来ないかと振り返るが、アルフレッドが近づいてくる気配も音もしない。その代わり微かに遠くで聞こえるせせらぎの音がまた心地よく、早く泉を見たいと感じたキャロラインはアルフレッドを待たずに再び歩みを進めた。
木漏れ日で薄暗い場所から明るい開けた場所へ抜ければ、目的の泉が見えて来た。早く泉が見たいはずのキャロラインであったが、彼女は足を止めてしまった。泉には先客がいた。顔は見えなかったが後ろ姿は見覚えがあった。
はやる気持ちを抑えてゆっくり泉に近づけば、その人物の姿も大きくなっていく。泉へ近づくにつれキャロラインは目に涙を溜め、足を止めた時には彼女は大粒の涙を流していた。
「どうして……」
絞り出すように声を出すと、キャロラインはそのまま両手で顔を覆い、涙でぐちゃぐちゃになった顔を隠す。顔は未だ見えなかったが、その後ろ姿は間違いなくキャロラインが会いたくて会いたくてしかたなかった人物であった。
キャロラインが涙を抑えることができず泣き崩れそうになっていた時、キャロラインは優しい温かさに包まれた。
「ごめん……本当にごめん。」
キャロラインは泉にいた人物に抱きしめられていた。優しい温かさなのにキャロラインを包む手は震えており、謝罪の言葉が酷く悲しい声であった。
キャロラインは言いたいことが沢山あった。文句だって言いたかった。だがただ大好きな温もりに包まれるだけでキャロラインの文句はどこかへ行ってしまった。残された感情はただこの瞬間を迎えたことによる喜びだった。
「お帰りなさいなさいませ……ロイ様。」
ようやく出た言葉はそれだけ。だがその言葉だけで十分だった。キャロラインの元に帰って来たのだ。約束通り戻ってきたのだ。それが何よりも嬉しいキャロラインは、その言葉を言えただけで満ち足りていた。
「ただいま……キャロライン。」
キャロラインから名前を呼ばれたロイは先程の声とは打って変わって幸せそうに愛しそうにキャロラインの名を呼んでくれる。キャロラインは名前を呼ばれたことでロイが本当に帰って来たことを実感すると、再び大粒の涙を流した。今まで我慢していた気持ちが堰を切ったのか、今度は声を我慢せず大声で泣き、ロイに縋り付くように抱きついた。
ロイはそんなキャロラインを強く強く、少し苦しいぐらい抱きしめると、片手を彼女の頭に置き最初は安心させるようにぽんぽんと優しく叩いた。
キャロラインはロイの優しさが嬉しく、我慢せずに泣き続けた。どれだけ泣いたかはわからない。ただキャロラインが落ち着くまでロイは側にいてくれた。いつしか頭は優しく愛おしそうに撫でており、キャロラインを落ち着かせる。
ようやく落ち着いたキャロラインをロイが愛おしそうに名前を告げれば、キャロラインはただ返事をするだけで顔を上げてはくれない。
「キャロライン、顔を上げて。」
「だめです!!とても酷い顔をしています。見せれません。」
「だめ、見せて!」
こんなやり取りをしばらく行い、結果的にロイがこのままなら好き勝手キャロラインを触ると宣言したことで、キャロラインは慌てて顔をあげた。ロイはその一瞬を見逃さないようにキャロラインの顔を両手で掴むと、キャロラインが下を向かないように固定してしまった。
「そんなに見ないで!酷い顔をしているの……」
「可愛いよ。確かに沢山泣いて目は腫れている……」
「ほら……酷い顔です!もう見ないで」
「嫌だ。これは僕のことを考えて泣いたせいでこうなったんでしょう?つまり泣かせた理由は僕だ。僕のためにこんな可愛い顔をしてくれるなんて……見るに決まっている!」
「ですから……可愛くはないです!!」
「可愛いに決まってる!僕しか知らない顔……僕のことを考えてこうなったなんて愛おしいに決まっているじゃないか?!」
「もう!!!」
キャロラインの泣き腫らした顔をロイは不謹慎ながら自分のために泣いたと考えると嬉しくて仕方がなく、愛おしく感じていた。泣き顔でそう感じるとはかなりの変態なのかと自分を疑いたくなるが、自分のための顔だからいいのだと変に納得し、キャロラインの顔を嬉しそうに見つめ続けた。
キャロラインは己の情けなく酷い顔を見られる羞恥に耐えられなくひたすら抵抗をしたが、アルフレッドと対等に戦えるよう訓練されたロイの力には到底敵うこともできず、キャロラインは羞恥で真っ赤になりながらロイが満足するのを待つしかなかった。
ロイは真っ赤な顔をしたキャロラインがまた可愛いと言って一向に離すことをしないため、キャロラインは普段邪魔だから来ないでくれと願うアルフレッドのことを、珍しく来て欲しいと願うのであった……。
お読みいただきありがとうございます
本日より課題10の始まりです
続きは明日の11時に更新予定です
引き続きよろしくお願い致します




