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課題8 過去を伝えよ③

 話はロイが7歳の頃まで遡った。


 ロイの父親であるクリスはその当時から国の予算に関わる仕事に携わっていたが、まだ若く役職はついていない立場であった。だが若いながらに仕事が丁寧で期日までに仕事をきちんとこなすため、上司からの信頼も厚く、まだ若いが財務大臣補佐に昇格するのではないかと言われる存在であった。


 クリスが財務大臣補佐に昇格する前から財務大臣補佐は1人いた。その人物はレントリー公爵といい歳は40代前半、仕事は早いがその分部下に仕事を押し付ける節があり、部下が作成した書類などをまとめて自分の手柄として報告していた。


 ただ国の予算で行う工事の受注などの交渉は長けているのか彼が率先して行っており、長年交渉しているからか工事を請け負う者達からの信頼は厚く、難しく渋られる案件でもレントリーが交渉に赴けば話し合いに応じるため、その件に関しては仕事で評価を受けていた。


 当時の財務大臣もレントリーの仕事に対する姿勢は理解しており、彼が今の状態でさらに昇格すれば、仕事の皺寄せは若手にさらに押し寄せると予想はついていた。


 このまま昇格してしまえばレントリーは仕事を疎かにする、そう判断した当時の財務大臣は、かつてのレントリーのように仕事に打ち込んでほしいとの考え、そのために彼の競争相手として若手で有望なクリスに目をつけたのであった。



 クリスは人当たりも良いため同僚からも頼りにされている。そして実に誠実な男で仕事熱心なため、レントリーに対して同じ立場となれば意見を言える存在になると確信されていた。



 だがこのまま昇格してしまえば確実に妬まれると判断した当時の財務大臣は、クリスに難しく多くの予算が動く仕事を任せることにした。

 それは王都全域の水路の工事であった。多額の予算が動くその工事は実に多くの人が関わることになる。与えられた予算で決められた工事期間で完成するためには、まずは信頼できる業者の選別が必要であった。

 そこでクリスがとった行動が一般公募だ。今まではレントリーが声をかけて業者と話し合い決めることが多かった。しかしそれでは偏りが生じると判断したクリスは今まで国と仕事をしたことがない業者でも参加できるようにしたのだ。


 その結果実に多くの業者が立候補し、それぞれがどのように工事を行い、いくらでできるのか案を出してきた。クリスはその書類を慎重に吟味し、工期は長いが今までレントリーが声をかけていた業者とは違い工程を多く設け、丁寧な仕事を行ってくれそうな4つの業者に頼むことにした。何故4つも選んだかというと、丁寧な工程で時間がかかるため4つに場所を分担することでギリギリ工期に間に合うことができるからであった。一つ一つは小さな会社であったが、その仕事はとても丁寧で信頼できると王都では有名で、4つの業者それぞれが協力を惜しまず連携や連絡がきちんと取れる関係性であったため、仕上がりに差が出ないと判断した結果であった。



 こうして始まった国家の一大プロジェクトは順調に進んでいき、幼いロイはクリスに連れられて度々工事の見学に訪れていた。触れ合う職人誰もがロイを可愛がってくれ、クリスも請け負った職人達も皆この仕事に必死で取り組み、やりがいを持って仕事に打ち込む姿に幼いロイはただ格好いいと感じ、いつしか父親のような国のために仕事がしたいと強く願うようになっていた。



 国民も老朽化した水路から新しく綺麗になることに対して楽しみにしており、多くの国民達がその工事の様子を見守っており、クリスを見つけては彼らもまた声をかけていろいろな質問や希望を述べ、それをクリスは嫌な顔一つせず話に耳を傾けていたのもまた、ロイにとってクリスを強く尊敬する要因となっていた。



 工期は予定通り進みついに立派な水路が完成した。丁寧に作られた水路はとても美しく、100年はこれで安泰だと国民は大喜びだった。



 大きな仕事を終えたクリスは、最後の会計の仕事に追われていた。クリスは収支報告書の記載でミスをしたことは決してない。何度も確認を行い、計算に間違いがないか見直してから自身の印鑑を押すが、一度計算の途中で席を立つことがあった。すぐに席に戻って計算をやり直し、問題がないことを確認したので判を押すために印鑑が入っている引き出しに手をかけた時、違和感を感じた。印鑑はとても大切な物のため鍵をかけて閉まっている。当然クリスも引き出しに鍵をかけているのだが、先程引き出しに手をかけた際鍵が開いていたのだ。人に呼ばれたため慌てて席を立った際、鍵を開けたのを忘れて動いてしまったのか、そんなことを考えながらクリスは自分の印鑑を確認し、判を押して書類を提出した。



 財務大臣はクリスから受け取った書類を確認し、問題が見当たらないためそのまま受理をし、ようやくクリスの大仕事は終わりを迎えたのだった。




 それから一月ほどたったある日、クリスの下に突然会計監察官がやって来た。彼らはお金の計算が間違っていないか管理するが、クリスに横領の疑いがあるとしてやって来たのだ。もちろんクリスにそんな心当たりはない。クリスを心配した財務大臣が彼の身の潔白を証明しようとしたが、会計監察官達も一歩も引かない。埒が開かないためクリスは会計監察官達の話を聞くために席を離れることにした。


 通された部屋はまさしく取り調べ室であった。聞けばクリスが業者に提示した金額と国へ報告した金額に差があるため、その分を横領したという言い分だった。

 当然クリスには心当たりがなかった。国へあげる報告書と業者へ渡した領収書は同じ数字を書いたからだ。だがその話をしても監察官達は聞く耳を持たず、代わりに証拠だと言って業者に提示した領収書を見せられた。確かにそこには本来の金額より少ない額が記載されており、クリスが国へあげた報告書とは違っていたのだ。クリスはそんなはずはないと伝えても、クリスの署名と判があることから間違いないと言われてしまい何も言えなくなってしまった。


 横領の罪は重い。しかも金額が多く国の予算に手をつけたのだ。沙汰が出るまでは自宅謹慎と言われたが、このままいけばお家取り潰しになるのは確実だった。




 その日からシュバルツ家に対する風当たりは強くなった。あれだけ喜んでいた国民は、金に汚い水路だと言って馬鹿にし、公爵家として身分もあったシュバルツ家に取り入ろうと表面上仲良くしていた貴族達も、手のひらを返したようにシュバルツ家に来なくなった。


 ロイも学校で横領家族と言われて馬鹿にされた。今まで仲が良く友人だと思っていた子達も、誰もロイに声をかけなくなっており、幼かったロイの心は酷く傷ついた。




 クリスは何度も城に呼び出され、尋問を繰り返し行われたが、やってもいない罪をクリスは認めることはなかった。痺れを切らした会計監察官達は、尋問のプロでもある師団に声をかけた。そこでやって来たのがキャロラインの父ロバートであった。師団の尋問など厳しいだろうと覚悟したクリスであったが、ロバートはいたって低姿勢でいてくれた。高圧的な会計監察官と違い、ロバートはクリスの話を聞こうとしてくれたのだ。


 クリスはそこで初めて引き出しの件を伝えてみた。気のせいと言われればそればかりだが、気のせいで片付けたくなかったのだ。ロバートはその話を静かに聞くと、尋問を終わらせ黙って部屋を出て行ってしまった。



 ようやく話を聞いてくれる人物に会えたがそれまでだった……クリスは途方に暮れて帰宅したが、事態は急展開を迎える。



 クリスがロバートに話してから1週間後、クリスの謹慎は突然解かれたのだ。驚きつつ登城するとそのままなぜか謁見の間に通されたクリスは、そこで国王自らの口で真実を告げられた。



 クリスが業者に渡したとされた領収書は偽物で、印鑑はクリスの予想通り第三者がクリスが不在の隙に偽物の書類に押していたこと、クリスを陥れようとした人物の犯行であってクリスに何も落ち度はないことが告げられた。



 犯人はレントリーであった。彼は偽物の書類を本物だと業者に証言させるために、彼らに仕事を回さないと脅しをかけていたのだ。仕事がなくては生計が成り立たない。彼らは協力するしか選択肢はなかったのだ。


 レントリーは若くして頭角を表したクリスを目ざとく感じていた。まだ部下だからなんとかなっていたが、大きな仕事を任され、うまくいけば自分と同じポストに昇格すると財務大臣から聞いた時、クリスは排除すべき存在となってしまった。実はレントリーは自分の息がかかった業者と結託して、クリスがやったとされた横領を何年も行っていたのだ。

 クリスが同じ立場になれば今までのような横領もできなくなり、最悪、悪事がばれるかもしれない……ならばクリスを引き摺り下ろせばいいという考えであったのだ。



 書類を偽物と見破ったのは今のロイの上司であるフランだった。クリスの同僚達はクリスの不正を信じていなかったが、レントリーがやたらクリスは最低な人物だと決めつけるため、我が身可愛さに動くことはしなかった。

 フランは親友のクリスが苦しんでいる時に家を訪れて励ますことしかできない自身が悔しく、なんとか動こうとしていた。そんな矢先たまたまクリスの取り調べを終え、会計監査官にクリスが感じた鍵の違和感を話すロバートの会話を聞いてしまったフランは、ロバートに協力を求めた。ロバートから証拠となる書類を見たフランは、そこでクリスのサインが偽物であると見破り、犯人は別にいると突き止めることができたのだ。


 確かにサインは似ていた。だがそのサインにはサインの後に点をつけるという癖があり、その癖がある人物レントリーに疑いの目が向くきっかけを作ることができたのだ。



 ロバートから報告を受けた会計監査官達は直ちにレントリーを調べ上げ、巧妙に細工された裏金を見破ることに成功したのであった。



 会計監査官、財務大臣、国王自らが謝罪をし、クリスの罪はようやく嘘であることが証明されたのであった。



 このことは国を揺るがす大問題と騒がれ、レントリーと共謀していた業者は捕えられた。クリスの無罪は証明され、彼は財務補佐官に昇格したことにより国民や貴族達はまた手のひらを返したように、水路やクリスを讃えるようになったのであった。

お読みいただきありがとうございます



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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