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課題7 ミソニの大熊を懐柔せよ⑤

「あの2人のこと気になる?」



 先程の雰囲気が恥ずかしくなっていたキャロラインは、誤魔化すようにお茶を飲んでいた。急に目を合わせなくなってしまったキャロラインと会話がしたいロイは話題を切り替えることにした。



「はい。ロイ様と一緒の時に兄のことなど考えてしまい申し訳ありません。」


「気にしないで。あの2人のことが気になるのは当然のことだと思うよ。キャロラインはグレーシアのことをどう思ってる?」


 「グレーシア様ですか?可愛らしくて、行動力があって……とても魅力的な方だと思います。」


「僕はキャロラインの方が魅力的だよ?」


「もう!」


「ははっ……本当のことだからね。じゃあ質問を変えるね。キャロラインから見てグレーシアのアルフレッド殿に対する対応はどう見えている?」


「兄に対してですか?……気のせいかもしれないのですが……兄に憧れている……とか?」


「うん、間違ってはいないね。他には?」


「これは私の願望かもしれませんが……好意を抱いている……とか?」


「正解!」


「グレーシアに初めて会った日のことを覚えている?」


「ええ、お兄様がグレーシア様とのご関係を勘違いして、ロイ様を投げてしまった日ですよね?」


「そうそう。そうだったね。あれは流石に驚いた。まあグレーシアがいると事前に伝えなかった私の責任だけどね。」



 ロイは思い出したかのように笑い出した。投げ飛ばされたはずなのによほど面白かったのか笑い続けている。



「っと話が逸れてしまったね。グレーシアがあの日いたのは彼女が希望したからなんだよ。」


「希望とは?」


「グレーシアはね、アルフレッド殿に密かな憧れを抱いていたんだ。」


「憧れですか?!どこかでお会いしたことがあったのでしょうか?」


「会ったことはないね。グレーシアはね幼い頃から強くて逞しい男性が好みなんだよ。アルフレッド殿はまさにグレーシアの理想の塊なんだ。だからアルフレッド殿がミソニの大熊として有名になったことでグレーシアもその噂を聞いたみたいで、ずっと憧れていたんだよ。」


「お兄様に憧れる方がいらっしゃるんですね。」


「意外って顔だね。実の兄なのに。」


 くくくっとロイが笑う。今日のロイはとてもご機嫌だ。



「兄に浮いた話一つありませんし、あの風貌に熊の世話ですから……婚約話すらありませんから。」


「そうなんだね。城に務めるようになってから、グレーシアにはアルフレッド殿に会う機会があったら声をかけろと言われていてね。それで今回声をかけてやってきたってことなんだよ。」


「兄に会って幻滅しませんでしたか?ほら……思い込みが激しいところとか……。」


「キャロラインのことは事前に伝えていたし覚悟もしていたよ。むしろ幻滅よりさらに好意を抱いたみたいだよ。君達が帰った後、キャロラインのことを忘れるぐらい夢中にさせるって息巻いていたから。」


「グレーシア様はお強い方ですね。」


「そこは僕と似ているかもしれないね。一度好きになったら絶対諦めないところはね。そのお陰でキャロラインを振り向かせることができたけどね。」


「なんだかロイ様の手のひらの上で皆が動かされている気分です。」


「………………そうかな。」





 どこか間がある返答をするだけだったロイは言いかけた言葉をそのままお茶で流し込むように誤魔化した。




「でも何故公園にいたのですか?」


「あの公園は国民が運動できたり体が鍛えられたりできるようにと最近新しい遊具ができたんだ。アルフレッド殿は体が鍛えられるし、グレーシアはそんなアルフレッド殿をみることができる。2人にとっては最高のデートだね。」


「デートですか?!」


「アルフレッド殿の外出が増えていることに気が付かなかった?」


「気が付いていました……ですがまさかと思いまして……」


「グレーシアは必死だからね。手紙を沢山書いて外出しているんだよ。」


「ロイ様はご存知だったのですね?」


「……グレーシアが毎回報告してくるからね。うるさいくらいだよ。」


「お兄様についに春が来たのですね!!」


「そうだね。うまくいってくれるといいと思う。アルフレッド殿は家でそのような話をしないのかな?」


「全くですね。」


「キャロライン……グレーシアは本気なんだ。どうかアルフレッド殿の背中を押してくれないか?」


「もちろんです!!!」




 長年騎士の家系としているハンスリン家にとって後継は大切な問題だ。それにはまず、伯爵となるアルフレッドの妻が大切となってくる。ミソニの大熊と女性からも恐れられるアルフレッドと婚約してくれる女性はいないこの状況で、アルフレッドに好意を寄せてくれる女性が現れたのは奇跡なのだ。キャロラインは2人の恋愛を後押しする約束をして、デートの帰路に着くのであった。



 ――――――――――――――――――――――


「ロイ君、少しいいかしら?」



 ロイの帰りを待ち侘びていたように、シュバルツ家のリビングでグレーシアが待ち構えていた。



「今日は何?」


 めんどくさそうにため息を吐きながら、ロイは首元を緩めた。



「相変わらずキャロライン嬢以外には冷たいわね。あなたに言われた通り公園に行ったわ。」


「うん。知ってる。」


「そう。じゃあ見たということね?」


「ああ。彼女は嬉しそうに協力すると言っていたよ。あの家にとって君は願ってもない存在だから、アルフレッド殿に気に入ってもらえれば大丈夫さ。」




 今日公園でアルフレッド達の姿を見たのは偶然ではない。ロイとグレーシアによって事前に仕組まれたことであったのだ。キャロラインにアルフレッドとグレーシアの関係を知らせ、2人がうまくいくように手助けしてもらう……それが目的だった。


「キャロライン嬢も素敵な方みたいだし……仲良くできそうだわ。」


「進展はあったの?」


「……あまり。でも出かけてくれるし気遣ってくださるし、本当に優しい方なの。本当は優しい目をされる方だし、笑うと可愛らしいのよ。」


「キャロラインの方が可愛いがな。」


「…………あなた別人みたいね。私がアルフレッド様と結婚できたらキャロライン嬢は私の義妹になるのね。あっあなたは義弟か――、それはいいわね。キャロライン嬢は可愛らしい方だから、他に取られないように注意しなさいよ。」


「…………話はそれだけか?」

 




 惚気話だけなら聞きたくはない。せっかくデートをしてキャロラインを補充できたのに、あの強い義兄の恋愛話を聞いて想像するなど勘弁してほしかった。




「そうそう、アルフレッド様と出会えてから急に懐かしくなって絵本を読んだの。」


「絵本?」


「ええ、あなたがよくプレゼントしてくれた絵本よ。絵本を読み返して気付いたけど、どのお話の主人公もアルフレッド様みたいに強くて逞しいのよ。普通女の子にはお姫様の本とか送るはずなのに、あなた何故そんな本をプレゼントしてくれたの?」


「……君が理想の男性が強くて逞しい男って言うから、その理想のような主人公の話を見つけてはプレゼントしていたんだよ。お姫様のお話の方がよかった?」


「まさか。今となってはその本のお陰で理想の男性像が作れて、その通りの男性……アルフレッド様に出会えたから有難いわ。そうか……私がそんな事を言っていたのね。」


「覚えてないのも無理はないよ。まだ幼かったから。」


「そうね。今日のことを忘れないためにも帰ってまた絵本を読むわ。じゃあねロイ君。またね!」


「ああ、気をつけて……。」



 ロイはグレーシアが出て行った扉を見つめていた。扉が閉まるとため息を吐き、天井を見上げて目を閉じ「思い出さなくてよかったよ……」と呟くとソファにもたれかかった。



 ロイとグレーシアは2つ違い、グレーシアはキャロラインと同い年であった。ロイはキャロラインに恋心を抱いて以降、グレーシアに事あるごとに強い男性、特に騎士は男として強くて格好いいこと、女の子は守ってくれる強い男性が好きだと伝えるようにしていた。それまで他の女の子と同じように、物語に出てくる王子様の存在に憧れを抱いていた少女の考えを変えるため、必死になって力説したものだ。


 次第に強い男性に興味を持ち出したグレーシアに、あえて逞しい男性が主人公の絵本を選んでは()()()()()()()()()()()と伝えてプレゼントするようになった。

 幼いグレーシアはロイからのプレゼントを当然喜び、彼女の部屋はいつしか逞しい男性の本の割合が多くなっていった。


 物心ついた頃にはグレーシアは逞しく強い男性に憧れを抱くようになった。そこでロイが打った次の手が、私兵団の訓練を見学させることだ。最初はロイの訓練を観にくるかと誘ったが、逞しい男性達が競い合う姿にグレーシアはロイの思惑通り興奮し、一層のめり込む。


 そこまで来たら後は成長し有名になったアルフレッドの話をするだけだ。いつしかグレーシアの夢は王国一強い男の妻になることになっており、当然アルフレッドの話に食いついてきた。ここまで来たら後はロイがやることは、アルフレッドと出会わすだけだ。出会えば後は行動力があるグレーシアがなんとかするだろうと目論見はものの見事に当たり後少しのところまで来ていた。



 グレーシアの親が結婚に急いでないことも救いだった。彼女が好きになった男性をと考える家庭のおかげで今まで婚約話が持ち上がらなかったおかげで、アルフレッドに近づくことができた。想いが通じ合えばグレーシアの家族がとんとん拍子に話を進めるであろう。そうなればシスコンのあの兄を少しでもキャロラインから引き離すことができる。



 幼かったロイが必死に考えた作戦は、長い年月を経て素晴らしい結果で終わりを迎える予定だ。幼く何も知らないグレーシアを利用したのは申し訳ないが、結果としてロイによって好みを作られた男性に本気で好意を寄せているのだから許して欲しい。


 全てはキャロラインを手に入れるための壮大なロイの作戦なのだ。



「このことは墓場まで持っていくが、話さなくてはいけないことは話さないとな……。」



 いつの間にか目を開けたロイは天井を見上げたまま、自分に言い聞かせるように呟くのであった。

 

お読みいただきありがとうございます

これで課題7は終わりです



明日からは課題8に入っていきます



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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