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課題7 ミソニの大熊を懐柔せよ①

今日のロイは朝から感情が大忙しだ。ミソニの大熊であるアルフレッドとの戦いは緊張したし、その後両親から揶揄われ恥ずかしい気持ちもした。そして出勤前にまさかキャロラインが会いに来てくれ、しかもキャロラインからも好意を伝えられたことで嬉しさが最高潮に達した。人生で1番幸せな日かもしれない。浮かれてキャロラインと時間を忘れて抱き合ったし、別れがこんなに辛いとも思わなかった。そこまでは最高な気分だった。キャロラインと別れてふと出勤前だったことを思い出したロイは慌てて時計を確認して一気に血の気が引いた。余裕だと思っていた時間はあっという間に過ぎ去っており、気付けば始業時間を大幅に超えていた。ロイはそこから慌てて城を目指して走ったが、当然盛大な遅刻をしたため、現在上司であるフランから個室へ呼び出され絶賛お説教中だ。天国だった気分が一気に地獄へ落ちた気持ちだ。それで終わればいいのに不思議なことに怒っているはずのフランがやけに楽しそうにニヤついているため、ロイはまだ何かあると嫌な予感を抱いていた。




「ロイ……お前が遅刻とは珍しい。」


「申し訳ありません。」


「俺は今日仕事前にクリスに会った。やけにクリスが浮かれていたからつい声をかけたが、お前と途中まで一緒に来たと言っていたんだが……なぜお前はこんな時間に登城したのかな?」


「…………すみません。」


「そういえば誰がが噂していたぞ。お前とクリスが馬車を降りて誰か女性と話していたと。しかもやけにお前が楽しそうだったと。」


「知り合いに会いましたので。」


「ただの知り合いか?そういえば徒歩で登城した者がお前が可愛らしい女性と楽しそうに路地裏に消えて行ったと話していたのを聞いたぞ?それが知り合いの女性かな?」


「…………。」


「お前仕事前にいちゃついたせいで時間を忘れたのではないのか?」


「いちゃつくなど……しておりません。」


「お前、クレマチスと恐れられているのにこう言った類の話の受け答えはポンコツだな。お前は無遅刻で仕事熱心だ。初めての遅刻なんだから今回は大目に見よう。その代わり……彼女が誰か教えろ!」


「何故ですか?!」


「遅刻は始末書を書く必要があるんだぞ?始末書には理由を書かなければいけない。女性といちゃついて時間を忘れていたなど書いて提出するのか?」


「……書きません!」


「ロイまさか虚偽の始末書を書いたりしないよな?虚偽は犯罪だ。わかるか?お前に残された選択肢は2つ。俺に全て話すことで今日の遅刻を揉み消してもらうか、始末書を提出し全ての者がお前の恋愛話を知ることになるか……どちらがいい?」




 フランの意地悪い問いかけの答えは一つしかなかった。キャロラインのことを始末書にでも今記載してしまえば、間違いなくアルフレッドとロバートの怒りを買うことになるだろう。それを防ぐためにはフランにキャロラインのことを話すしかなかった。



「……わかりました。話します……。その代わり他言無用でお願いします。」



 ロイは観念するとキャロラインとのことを簡単に説明した。本当は詳しく説明する予定ではなかった。だが相手は話術に長けているフランだ。クリスからなんとなく想い人のことを聞いているのもあるのか、話をはぐらかしてもフランからの質問攻めに合い、気付けばロイはキャロラインとのことを洗いざらい話してしまっていた。




 その後気をよくしたフランはアルフレッドに戦いを挑んだことに対して背中を思いっきり叩きながら褒めてくれた。ようやく解放されたロイは仕事に取り掛かろうとしたが、フランよりジルが待っていると伝えられるとジルとした約束を思い出し、ジルの部屋へ急いだ。



 ジルもフランと同様遅刻したところから質問攻めをするため、ロイは解放された頃には珍しくぐったりしてしまっていた。



 仕事も忙しくあっという間に終業時間を迎える。ロイは少しだけ残っていた仕事を片付けるとようやく帰路についた。だがここでもまだ休むことは許されなかった。今度はまた珍しく早く帰宅したクリスとユリンによって今日の出来事の尋問が始まったのだ。クリスはフランからロイの遅刻を聞いたらしく大層楽しそうにしていた。

 ユリンもまた早くキャロラインに会いたいと興奮しており、ようやく解放されたロイはハーマンに1人の人物に連絡するように伝えると、そのまま眠りについてしまった。




 ――――――――――――――――――――――



 キャロラインと想いが通じ合い手紙でのやり取りは行っていたが、ロイの仕事が忙しくなかなか会うことが出来ずにいた。ようやく2人が会うことが出来たのは気持ちが通じ合ってから2週間後のことだ。だが今日は2人っきりではない。以前アルフレッドと約束したシュバルツ家の私兵達の稽古をアルフレッドがつけてくれる日なのだ。


 キャロラインは朝から張り切って厨房に籠り、ロイのために腕を振るっていた。それを複雑そうに見ていたアルフレッドとロバートであったが、キャロラインからランチボックスを手渡された2人は歓喜し、邸はうるさくなった。



 キャロラインは大きなバスケットを抱え、アルフレッドはキャロラインから渡されたランチボックスを大切そうに抱えて馬車に乗り込んだ。最初ロバートが自分も稽古をつけるからついてくると言い出したが、それをエリーヌが止めてくれたことでなんとかアルフレッドと2人でシュバルツ家に向かうことができた。


 アルフレッドは2回目だが実はキャロラインはこれが初めてのシュバルツ家だ。公爵邸のためハンスリン邸より大きいのはもちろんであるが、何よりロイの両親がいるかもしれないと思うと緊張してきた。


 クリスとは一度会ったがとても歓迎してくれていた。だがロイの母親がどうかはわからない。恋愛小説や噂話で義母との関係に悩むというのはよく聞く。実際キャロラインの父と兄はかなり厄介な部類で小説にでも出てきそうな人物だ。可愛い一人息子を奪う女狐と思われるかもしれない。受け入れてもらえないかもしれない。キャロラインは無意識のうちに胸の前で握りしめていた手に力を込めていた。


 だが心配ばかりしてはいられない。ロイがアルフレッドに戦いを受け入れたように、キャロラインも自分から行動しなくてはいけない。それが大切な人と一緒にいることならなおさらやるしかないのだ。


 決意を固くしたキャロラインが窓の外に顔を出してみると、大きな邸が見えてきた。



「キャロライン、見えてきたな。やはり大きいな!」



 アルフレッドが同じ邸を見て呟くので間違いなくロイの家なのだろう。まだだいぶ遠いが大きいのはこの距離からでもわかる。これが王都にあるタウンハウスの大きさだというのなら、領地の家はどれだけでかいのか……。キャロラインはとんでもない家の人と付き合っていることに今更ながら気付いていた。



「あっロイ殿がいるではないか!」



 アルフレッドはどうやらロイを見つけたらしい。だが遠すぎてキャロラインは見つけられなかった。キャロラインは決して目は悪くない。ただアルフレッドがとんでもなく視力がいいだけで、普通の人ならキャロラインと同じようにロイを見つけられないはずだ。



「なっ?!あれは誰だ!!!!」


 またもやアルフレッドが叫ぶためキャロラインは身を乗り出して確認するがあまりの遠さに人すら認識できない。だがアルフレッドの表情から察するにあまりいい人物ではないようであった。




「お兄様?」


「キャロライン!あいつに妹はいたか?」


「……聞いておりませんが?」


「あいつは一人っ子だったはず。ならばあいつの隣にいるあの女は誰だ!!!!!キャロラインというかわいい彼女がいながらあいつは何をしているのだ!!!!!!」


「かっ彼女!!お兄は恥ずかしいです!!!」


「落ち着いてください!!!お2人とも!!!!」




 ロイの隣に見ず知らずの女性を見つけてとんでもない力で地団駄を踏むアルフレッドのせいで馬車が上下に揺れる。彼女と言われて赤面したキャロラインが、手加減を間違えてアルフレッドをビンタし、その衝撃でアルフレッドが馬車の壁に頭を打ちつけるため馬車は横に揺れる。

 怪力兄妹のせいで馬車は上下左右に動くため、従者は馬車を走らせることに苦戦し思わず叫びながら、シュバルツ家を目指すのであった。

お読みいただきありがとうございます

本日より課題7の始まりです



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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