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課題6 決闘をやり遂げろ③

その日はいつもの起床時間より早く目覚めた。朝食の確認に来たバロックに朝食の時間はいつも通りと伝えると、ロイは制服ではなく動きやすい服に着替えた。

 今日はいよいよミソニの大熊であるアルフレッドと対峙する日だ。場所はこちらの指定でシュバルツ家の私兵達が普段訓練で使用する場所を指定しておいた。

 時計を確認するとまだ約束の時間まで充分時間がある。少し身体を温めておこうと考えたロイは久しぶりに訓練場へ向かった。


 訓練場へ向かうと顔馴染みの私兵の1人がいたため手合わせを願い出る。快く引き受けてくれた彼と軽く剣を交えると次第と体も温まり、それと同じようにロイのやる気もみなぎってきていた。


 一休みしようと声をかけようとした時、珍しく息を切らしながらハーマンが走ってきた。



「どうしたハーマン!」


「あの……熊が……」


「熊?!」


「熊が来ております!」



 確かにミソニの大熊とは約束した。そのことだろうと思いつつ、ハーマンの焦りが気になったが、ロイはとりあえず門へ迎えに向かった。


 門へ迎えに行ったことでハーマンの焦りの理由がわかった。門には約束の人物であるアルフレッドがいたのだが、彼は約束の場所に馬ではなく熊に跨って来ていたのだ。

 確かにこれは予想外すぎる。昨日からそうだがハンスリン家は行動が全く読めない。何もかもが規格外すぎる家なのだ。普通に考えたらこんな家を敵に回したくはない。この状況を見たら名前を聞いて逃げ出した男達の気持ちが少しは分かる。クマに狩られる気分だ。だがロイはここでも決して逃げることはしない。必ずキャロラインを手に入れたい……そのために動いているからだ。




「おはようございます、アルフレッド殿。出迎えが遅れて申し訳ありません……。」


「こちらこそ急な申し出を受け入れてくれて感謝する!君は素晴らしい青年だと思っている……だがすまないが妹の相手に相応しいとは思えない!そのために申し入れた!」


「騎士ではない私では受け入れ難いと理解しています。ですからご納得いただくために受けて立つと決めました。」


「良い心がけだ!決闘などと私に有利すぎる故……ルールはそちらが決めていい!」


「ありがとうございます。とりあえず中へどうぞ。場所を移動しましょう。熊がここにいることに申し訳ありませんが、使用人達が怖がっているのです。あの……何故熊なのですか?」


「サブローのことか?怖がらせてしまい申し訳ない。馬を使うとだな……キャロラインに気付かれるんだ。」


「気付かれたらいけないのですか?」




 言いづらそうにアルフレッドが言うためロイが聞き返すと、アルフレッドは今にも泣きそうな顔をし始めた。




「キャロラインに……君と決闘すると言ってしまったら……大嫌いだと言われたのだーーー。それなのに今日出掛けたと気付かれたら一生会話をしてくれないかもしれない。それだけは避けたいのだ。本当は辞めようと思ったさ。でも私から挑んだ手間断りづらく……こうして来たまでだ。」


「なるほど……。キャロライン嬢もそのようなことを言うのですね。」


「こんなこと初めてなんだ!!キャロラインがあんなに自分の考えを伝えられる子だと知らなかった。私や父はキャロラインのことを思っての考えだったのだが、彼女にはそうではなかったみたいだ。」


「私が認められないのは当然です。ですがきちんと私を見てからご判断いただきたいです。決闘は継続でよろしいですよね?」


「君はいいのか?キャロラインがこの決闘を許していない。ならば私はこのまま帰ることもできる。」


「それではいつまで経っても私は認められません。ならばやるしかないと思っております。」


「わかった……。君の考えは男気があって素晴らしいと思う。」


「では場所のご移動を。あの……サブローはどうなさいますか?」



 ロイはチラッと視線をサブローに送った。サブローは野生のはずなのに恐ろしいほど従順で、その場に大人しく座っていた。




「こいつは現在私が教育中ですので、決闘の場に同席させます。ですが動きませんのでご安心を。馬のように括り付ける必要もありませんので、そちらに手間はかけさせません。」



「馬よりも怖い熊を括り付けずに放し飼い……手間以前の問題では?」と言葉に出そうになるのをグッと我慢してロイはただ頷いた。いや、もはやロイの範疇から超えており、頷くほかなかった。





「ではこちらでやりましょう。」



 ロイは先程までいた訓練場へアルフレッドとついてきたサブローを案内する。間近で国1番の強さと謳われているアルフレッドを一目見たいのか、いつの間にか私兵達が集まりだしていた。シュバルツ家の私兵達は訓練場を取り囲むように集まっていたが、サブローがいることに気がつくと1箇所に固まりだした。(やはり熊は怖いよな……)ロイはそんなことを考えながらアルフレッドに空いた場所にサブローを待機するよう伝えると、サブローはアルフレッドの指示が来る前に指定された場所へ移動しゆっくり腰を下ろした。やはりサブローはロイの言葉がわかるらしい。意外と熊は賢いと思いつつアルフレッドを見ると、訓練場で血が騒ぐのかやる気に満ち溢れたアルフレッドと目があった。




「ルールは模造刀で。どちらかの剣を弾いた方が勝ちでどうでしょうか?」


「それでは私に完全に有利であるが?」


「手加減して勝っても、あなたもお父上も私を真に認めてくれないはずです。正々堂々といかせていただきます。」


「覚悟は素晴らしいな!そこまで言うなら手加減はしない。」


「構いません。では剣はこちらを。」



 ロイは用意していた模造刀をハーマンから受け取るとそれをアルフレッドに手渡した。



「確認してください。この場所も確認していただいて大丈夫です。」



 アルフレッドは模造刀を手に取ると簡単に確認をした。同じように訓練場を見渡すとロイに「問題ない。」と伝えてお互いが剣を構えて位置についた。



「始め!」



 ハーマンの声を合図に試合が始まると、アルフレッドがものすごい勢いでロイを目掛けて走り込んでくる。その動きはあまりに一瞬で見ている者達はロイの負けを確信したが、ロイはアルフレッドの攻撃を剣で受け止めており、周りから歓声が上がった。



「私の早さに対応できるとは……見かけによらないな。」


「……っお褒めいただき光栄です。」



 自身の速さにまさか対応できるとは思っていなかったためアルフレッドは少し驚いたが、鍛え抜かれた力に敵うわけはないはず……と判断しアルフレッドは手に加える力を一層強めた。そのまま力で押し倒そう、そう考えロイに全力で刃を押し付ける。ジリジリとロイを追い詰めていきあと少しというところで急にロイが手の力を緩めた。

 全力で推していたアルフレッドは予想外の展開に一瞬体制を崩しそうになる。持ち前の足腰の強さで普通の人では分からないほどのふらつきしかしなかったが、ロイはその一瞬の隙にアルフレッドに背を向け走りだした。




「逃げても無駄だぞ!」



 すぐさまアルフレッドは全力で追いかける。熊とのスキンシップ(お仕置き)の一環で彼らと競走したこともあるため足の速さには自信がある。見ていた人々は「熊が走っているようだ……」と呟くように、本当に熊が走ってくるかのような威圧が感じられた。

 あっという間にロイに追いつき剣を振りかざすと、ロイはまたもや振り返りその剣を受け止める。まさか2度までも受け止められるとは思わずさすがのアルフレッドも驚いていた。




「ロイ殿……そなたただの外交官ではないな。」


「……っ、私は外交官以外の顔は……ありませんよ。」



 アルフレッドの力を全力で受け止めるロイは、力んでいるため言葉が途切れ途切れになる。それでもアルフレッドの力を必死で受け止めていた。




「キャロラインに近付く覚悟はそれなりにあったというわけだな……。」


「……もちろんです。」


「よろしい。だが手加減はしない。いつまで持つかな!」



 アルフレッドは力任せにロイを剣で押し付ける。ロイは必死に剣で抵抗しながらも、ジリジリと後退するため誰が見てもロイが劣勢だと感じる光景であった。

 ロイは後退しながら周りが気になるのかアルフレッドから視線を逸らすことがあった。戦いでしかも相手と交えている時に目を逸らすのは隙を相手に与えてしまう。騎士ならば状況を確認するため行う行動かもしれないが、戦い慣れてないロイが行うその行動は、アルフレッドには逃げ道を探しているようにしか見えなかった。



「隙だらけだぞ!!そろそろ終わりにしよう!」



 アルフレッドが渾身の力を込めてロイの剣をはたき落とそうとした瞬間、ロイの口元が不敵に微笑んだ。その変化に気付いたアルフレッドは本能でおかしいと感じ体制を整えようとする。右足に力を入れるのと同じタイミングで、右足がふらついた。転びそうになり足下に意識が集中したその瞬間、まるで隙を待っていたかのように、ロイが信じられないスピードでアルフレッドの前に飛び出し、そのまま剣をはじき飛ばした。


「なっ……!」



 勝負は一瞬だった。足下に集中していたせいで手の力が緩んだ瞬間を見逃さなかったかのような最適なタイミングでロイが剣を弾いたため、油断していたアルフレッドの手から剣は簡単に外れて宙を舞った後、アルフレッドのかなり後ろの位置に剣は地面に突き刺さった。



 あまりの一瞬の出来事にその場にいた全員がこの結果を理解できなかった。シュバルツ家の私兵達だってどこかでアルフレッドが勝つと先入観で見ていたのだろう。だが現実はアルフレッドの手には剣がなく、ロイの手にはしっかりと剣が握られており、どちらが勝者かは明確だった。

お読みいただきありがとうございます



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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