表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/50

課題1 お友達になりましょう①

「キャロライン様おはようございます。」


 明るい日差しに目を開ければ、そこにはいつもの見慣れた天井がある。まだ半分寝ぼけたまま起き上がれば、キャロラインの侍女であるネモが少し心配そうな顔でキャロラインを覗き込む。



「やはり、昨日もお辛い経験をされましたか?」


「えっ?昨日……」


「キャロライン様……どうかされましたか?昨日の記憶がもしかして消えてしまっているのですか?それはいけません!今直ぐ医者を読んで参ります!!」


「待ってネモ!違うのよ。大丈夫……私はどこも悪くないわ。」



 勢いよく部屋を飛び出そうとするネモを慌てて制止すると、キャロラインは再び何かを考えるように視線を落としていた。



 

「そうでございますか。ですが……何かございましたか?」


「そうね……。夢を見ていたのかと思ったのだけど……」


「夢ですか?」



 キャロラインは昨夜の出来事を夢だと感じてしまっていた。今までどんな男性でも逃げられた彼女からしたら、昨夜の出来事はあまりに都合が良すぎるからだ。

 だがだんだん頭がはっきりしてくると、昨夜の出来事が嘘ではないと、あまりに鮮明な記憶が思い出させてくれる。




「昨夜はいろんな事が起こったの。少し聞いてくれるかしら?」


「もちろんです。」



 キャロラインは昨夜の出来事をネモに一つずつ伝えていく。いつものように男性に逃げられた事、その後取り残されたバルコニーでキャロラインの家のことを知りながら立候補してきた男性と出会ったこと、場所を変えて話したこと、ひとつひとつ言葉にすることで自分の身にこのような事が起きたことを実感し恥ずかしくなるが、ネモは目を輝かせて話を聞き入っていた。




「キャロライン様、ようやくキャロライン様を見てくださる素晴らしい方と出逢われたのですね!」


「どうかしら……。ほらお兄様と会うとやはり無理と考えてしまうかもしれないし……。」


「本当にあのアルフレッド様はキャロライン様の邪魔ばかりする!!叩きのめしましょうか?」


「ありがとうネモ。でも貴女にまた叱られたらお兄様はまた落ち込んでしまうわ。」


「キャロライン様の恋路を散々邪魔しているんです!当然の報いですよ?それに私ではなくキャロライン様が怒った際にはきっと寝込んでしまうでしょうから、キャロライン様が怒る前に私がきちんと教えるべきです!」


「ネモは本当に頼りになるわね。」


「キャロライン様のことが大好きですから。それにアルフレッド様とは同い年のためキャロライン様より長く接してます。こんな関係になるのも当然ですよ。」



 ネモの家もハンスリン家に長年仕える家柄のため、幼い頃よりハンスリン家に出入りし、同い年のアルフレッドの遊び相手となっていた。キャロラインが産まれると3人でよく遊ぶ仲となり、やがてキャロラインの侍女として仕えるようになるが、アルフレッドと長年の付き合いだからこそ、立場からは違えど彼にきちんと物申せる貴重な存在である。


 大人になるにつれ鍛えて強くなり、体力面だけ見れば確実にアルフレッドはネモに勝てるのだが、アルフレッドは幼少期のネモによく負かされていたせいか精神的にネモに対してのみ弱気となるため、ミソニの大熊と恐れられている彼が唯一敵わない相手でもある。




「ありがとう、ネモ。私も大好きよ。」


「それでキャロライン様、立候補してきた勇気ある方のお名前は?」


「それがね……シュバルツ次期公爵様なのよ。」


「えっ?!あの夜会にはなかなかご出席されない幻の方で、ミムサの若きクレマチスと呼ばれている方ですか?」


「そうなのよ……。何かの間違いよね?もしかして酔っていらっしゃったのかしら?」


「キャロライン様はその様に見受けられましたか?」


「……いいえ。しっかり目も合わせてくださったし、会話におかしなところはなかったし……。」


「会話はどんなことを?」


「ごく普通の内容よ。趣味とかそんな辺りかしら。」


「趣味などの会話を楽しまれたんですね!」


「そんなに驚くことかしら?」


「シュバルツ次期公爵様は仕事以外の会話は苦手だと噂で聞いております。キャロライン様もご存知ですよね?」


「ええ……、そうね……。でもそうであるとすれば、やはり昨日のシュバルツ次期公爵様は酔っていたのよ!」


「どうしてそう思われるのですか?」


「あの方は感情が表に出ず、何を考えているかよく分からないと言われている方よ?なのに昨日は私の話を楽しそうに聞き、時には笑ってくれたの。酔っていなきゃそんな反応しないはずだわ。」


「……キャロライン様、それは……。」



 ネモの言葉は扉を叩く音で遮られてしまう。慌ててネモが対応すると、戻ってきたネモの手にはピンク色の美しい薔薇が5本集まった小さな花束があった。




「まあ、なんて可愛らしいのかしら。でもどうしてこれを?」



 可愛らしい花を見て嬉しそうに目を輝かせるキャロラインは、その花の出所を不思議がった。




「キャロライン様、昨夜は間違いではありませんよ。」


「えっ?!」


「このお花は先程邸に届いたそうですが……差出人はロイ・シュバルツ次期公爵様です。」


「そうなの?!あれかしら……使用人の方が気を利かせて送ってくれたのかしら?」


「なぜそう考えてしまうんですか……。キャロライン様、きっとこの方は今までの男性とは違いますよ。少しだけ信じてみませんか?」


「信じる……。」


「そうです。この花束を持ってください。分かりますから。」




 ネモか渡した花束からは薔薇のいい香りが漂い、キャロラインの気持ちを落ち着かせてくれる。ピンク色の薔薇をとても可愛らしいと思いつつ眺めれば、花束とともにカードが挟まれていることに気がつく。

 そのカードを手に取って見ると、「昨夜の続きをまた2人で」と短いメッセージとカードの差出人であるロイの名が直筆で書かれており、ロイ自らがキャロラインのために送ってくれたとこが伝わってきた。



 夜会で話せても逃げられてその後に発展することなど今までなかった。だがロイは自らの意思でまた会えることを期待しているような言葉をカードに込めてくれ、ネモが言う様に今までの男性と違った気が確かに感じていた。




「ネモ……お礼を伝えた方がよろしいわよね?」


「そうですね。是非お手紙など書かれてはいかがでしょうか?」


「わかったわ。ネモこのお花を花瓶に入れてくれるかしら?」


「はい、すぐにご用意致しますね。」




 キャロラインはネモに再び花束を託すと、机に向かい引き出しから可愛らしい便箋を取り出しペンを取る。



 花束を受け取ったネモは、必死に悩みながら手紙をしたためるキャロラインを横目に見ながら、花瓶に薔薇を入れるため花束のリボンを解いていく。


 薔薇は怪我をしないよう棘が全て取られており、キャロラインへの気遣いが伺える。また社交界の薔薇と呼ばれているキャロラインを例えたような薔薇の棘を取ることで、薔薇の棘と揶揄されているアルフレッドの存在など気にしないという表れのようでもあった。




「さすが……ミソニの若きクレマチス様。ただキャロライン様はなかなか手強いですよ。頑張ってください。」




 ネモは独り言のように小さく呟くと、薔薇を一輪ずつ花瓶に入れていく。その顔は実に楽しそうだ。




 5本の薔薇の意味は、あなたに出会えてよかった。そしてピンク色の薔薇は、可愛い人という意味がある。


 贈られたキャロラインは花の意味など知る由もないが、ネモは知っていたため届けられた花束を見た瞬間、ロイの本気を感じていた。

 だがいい出会いを求めて夜会に参加しても、ことごとく逃げられ、昨日で自身の年齢と同じ18回目を逃げられたキャロラインは、傷つくとこに慣れすぎて本当の好意を理解できずにいる。


 ただ花束を贈るだけなら、もっと豪華な花束にするはずだ。それを敢えて5本と少ない花の花束を贈るということは、深い意味がないと言う方が難しい。

 そしてそれがあの有名な、ミソニの若きクレマチスと呼ばれているロイからの贈り物だとなると、さらに花束に込められた気持ちに信ぴょう性が増してくる。  



 ロイとキャロラインの2人に、どこで接点があったかなどネモは分からなかったのが唯一気になることではあるが、ネモは大好きなキャロラインが今度こそ幸せになれる未来を願いながらまた一本薔薇を花瓶に移すのであった。


 

お読みいただきありがとうございます

本日より課題1の始まりです



ロイとキャロラインの2人の物語を

どうぞよろしくお願いします



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ