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課題3 ミソニの大熊の妹①

ロイとキャロラインは目的地に着くと馬車から降り、そのまま先を進んだ。キャロラインの歩幅に合わせてゆっくり歩みを進めるロイの気遣いは有り難かったが、キャロラインは馬車からずっと繋がれている手が気になって周りを楽しむ余裕はなかった。



「キャロライン?どうしたのかな?」


「……分かっていますよね?ロイ様は意地悪です。」



 キャロラインの態度を揶揄うようにロイが声をかければ、キャロラインが少しだけ拗ねたような反応を返してくれる。まだ会って数回ではあるが、キャロラインの知らない表情も少しずつ知れることができて、ロイは新たな発見に喜びを覚えていた。



「ごめんね。君があまりに可愛らしいから。それにほら転んでは大変だ。どうか僕に君を支えさせて?」



 ピクニックの場所までは馬車が降りてから少し歩かなければいけない。舗装され歩きやすい道ではあるが、ロイは万が一転んではいけないと気遣い手を繋いでくれていた。



「ロイ様は本当にお優しいですね。それに……こんなに女性を褒める言葉を述べる方だとは思いませんでした。」


「キャロライン、君だけだよ?そこは信じてくれ。僕は今まで女性を仕事上褒めたことはあっても、プライベートで口説いたり褒めたりしたことはない。僕を見て欲しいのはキャロラインだけだからね。」


「……恥ずかしいです。」


「ハハッ……慣れてくれ。これでも抑えているんだよ?これからもずっと言い続けるからね。まあ僕からしたらその反応も可愛いからいいんだけどね。」


「ロイ様は私を過大評価していませんか?可愛らしい女性は沢山いますよ?」


「誰かがそう言ったとしても、僕はキャロライン、君が1番可愛らしいと思うし、君だからいいんだ。どうか僕の言葉を信じて。ほら、見えてきた。あそこでピクニックをしよう。」



 ロイが示した先には、小高い丘とその下にはとても美しい花畑が広がっていた。広大な花畑は色とりどりの花が咲き誇っており、美しいという言葉がぴったりな場所であった。




「とても綺麗です……。国立公園にこんな場所があるなんて……私知りませんでした。」



 敷物の上に腰を下ろしたキャロラインが思わずそう呟けば、ロイはそれをただ嬉しそうに見つめていた。



「ここは有名な場所なんだけど……キャロラインは知らなかったんだね。なら連れてきてよかった。」



 ロイは微笑みながらそう伝えるが、実際はキャロラインがこの場所に来たことがないことを調べ済みだ。ここはミムサ国の中でも有名な場所で、美しい花を見ることができるため、ピクニックの場所として恋人や家族に人気で現に今も多くの者がピクニックに来ていた。そもそもこの国立公園はこの場所以外にも広大な芝生でピクニックや運動ができたり、おしゃれなカフェがあったりと国民にとってはよく利用する場所なのであるが、何故かキャロラインはこの場所に幼い頃より寄り付いていなかった。それを知ったロイは不思議に思いながらも、有名な花畑を知らないのは勿体無いと思いこの場所をピクニックの場所として選んだのであった。




「国立公園はあまり来ないようにしていましたので……。」


「どういうこと?」

 

「なんでもありません。それよりもお食事にしませんか?我が家の料理人が腕によりをかけて作ってくれたものです。お口に合うといいのですが。」


「ありがとう。これは美味しそうだね。楽しみだよ。」




 キャロラインは先程出た言葉を誤魔化すように慌てて話題を切り替え、用意していたバスケットの蓋を開ける。バスケットには美味しそうなサンドイッチと付け合わせのサラダが入っていた。サンドイッチは様々な種類が用意されており目で見ても楽しめるものであった。


 ロイは美味しそうなバスケットを覗きながら、先程キャロラインが溢した言葉が心に引っかかっていた。



 ――――――――――――――――――――



「とても美味しかったよ。ありがとうキャロライン。」


「お口に合ってよかったです。」


「特にこのチキンは絶品だね。ソースが美味しいのはもちろんだけど、このチキンの柔らかさには驚くよ。こんなに美味しいチキンは初めて食べたかもしれない。」


「チキンは我が家では大切な食材で……。特にこの蒸したチキンは父も兄も喜んで食べるものなので、料理人もより美味しい調理法を研究しているため、チキンにはかなり自信があります。」


「そうか、蒸したチキンは体を作るのに適した食材だもんね。さすがハンスリン家だね。こんなに美味しい調理法を研究するなんて、ハンスリン家の料理人の腕は凄いね。」


「ありがとうございます!その言葉伝えさせていただきます。皆さん喜びます。」


「キャロラインは邸で働く人達をとても大切にしているんだね。」


「はい。皆さんとても仕事熱心ですし、とても優しいのです。いつも私を可愛がってくださって……兄の妹と言うだけで恐れられる私を邸の人達は可愛いと言ってくださるのです。あの家は温かい人が沢山いて私をキャロラインという1人の人間として見てくれる……とても大切な人達なんです。」


「キャロライン……。君は外の世界でとても傷ついているんだね。でももう安心して。僕がこれからは支えたいと思うし……僕も君にとって温かい人になりたいと思う。だめかな?」


「ロイ様……」


「あっもちろんまずはお友達からね。って言ってもこんなに口説いたり、手を繋いでいては説得力ないか……。でも嘘ではないからね。少し僕が急ぎすぎたね。これからはお友達として節度ある行動をしていくよ。そしていつの日か……その先に進めばと思ってる。」


「ロイ様……。あの……。」


「どうしたの?」


「お友達の少し先に進んでもいいですか?」


「えっ?!それって……」


「その……まだロイ様のようにはっきりと自分の気持ちは理解できていません。ですが……ロイ様と一緒にいると落ち着きますし、会える日や手紙が届くのが待ち遠しいのです。ですから……少しだけお友達から進みたいと思うのです……。」


「キャロラインありがとう……。少しでも僕のことを考えてくれていて。ゆっくりで構わない。君の気持ちが少しでも僕に向いているなら……こんなに嬉しいことはないよ。友達以上恋人未満の関係にしてくれるってことだよね?」


「はい。ですから手を繋いでいただくのは……恥ずかしいのですが嬉しいので……やめないでください。」


「キャロライン、君は……。ごめん嫌だったら突き放して。」



 ロイはその瞬間、キャロラインと繋いでいた手を引き寄せると、そっと優しく抱きしめた。




「ロイ様?!」


「もしキャロラインが嫌ではないなら……ここまでは許してほしい。友達以上なら……君に触れる権利が欲しい……。手を繋ぐよりもできればここまで……。だめかな?」



 抱きしめられているため顔は見えないが、ロイの声は微かに震えていて緊張しているのが伝わってくる。キャロラインは恥ずかしさで少しだけ震えている自身の手を遠慮がちにロイの背中に回す。

 その仕草が嬉しくてロイが少しだけ手に力を込めれば、キャロラインは嬉しそうにロイの胸に顔を寄せた。



「だめ……ではないです。」


「ありがとう……キャロライン。このままゆっくり進めていこう。」



 キャロラインは返事をする代わりにゆっくりと頷きロイへの答えを返す。



「あー、ダメだ。可愛すぎる。」



 ロイが困ったように呟く声は、緊張と恥ずかしさで胸の音が煩いキャロラインには聞こえなかったが、花畑から届けられる甘い花の香りとほのかに香るロイのコロンの香りに包まれたキャロラインは、安心感を覚えるのであった。

お読みいただきありがとうございます

今日から課題3が始まります



続きは明日の11時に更新予定です




引き続きよろしくお願い致します

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