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~1~


「で? どうなんだ? 上手く行きそうか?」


「思っていた以上にあか抜けてない野暮ったい子だよ。あれじゃあ、恥ずかしくてどこにも連れて歩けやしない」


「そうだなぁ。確かにあの見た目じゃ、ちょっとなぁ。もう少しどうにかならないのか? あれならどこかの田舎令嬢の方がよほど見目は良いぞ。侍女はちゃんと仕事しているのか?」


「なあ。お前なら、もっと綺麗な令嬢との縁談もあるだろう?」


「結婚は顔でするわけじゃない。没落寸前の子爵家に、美しいと評判の娘を嫁がせたがる家なんかないだろう?」


「ああ、だからキャメロン家か? うまく見つけたもんだな」


「それが、幸運にも向こうから声をかけて来てくれたんだ。向こう様は鉱山や鉄工の家系だからな。我がアンダーソンの肥沃な大地が欲しいんだろう。

 見た目が悪く売れ残り寸前の娘を押し付けて、我が領地を自分の物にしようとするなんて、流石は戦争屋の考える事だ。恐れ入るよ」


「なるほどねえ。災害で荒れた土地を開拓するには打ってつけの家ってわけか」


「見映えは悪くても頭は良いんだろう? だったら領地経営は丸投げで、お前はそのまま騎士を続けられるってわけか? うまいこと考えたな」


「まあ、そういうことだ。そのまま領地に押し込んで、たまに帰るだけの夫婦関係だ。我慢もできるさ」


「そりゃいいや」



 若い貴族令息たちであろう、笑い声が大きく交差する。




 夜会の雑音に紛れ庭園の片隅で貴族令息が三人、気の置けない様子で楽しそうに会話を楽しんでいた。

 そんな彼らの様子を、つる薔薇で飾り付けられたアーチの陰に隠れ聞いている令嬢が一人。その身を隠すように小さく身を丸め、息を殺して聞き耳を立てていた。

 


 令息たちの話題の人物。コーデリア・キャメロン。

今、アーチの隅にうずくまり隠れているその人だ。


 コーデリアは言い知れない衝撃を受け、どうすることも出来ず動くことができなかった。

 声の主の一人は間違いなくコーデリアの婚約者候補である、ハリスン・アンダーソンだ。暗がりとはいえ、夜会用に用意された灯りで人物の識別はできる。間違いない。



 コーデリアは怒りで頭に血が上り、わなわなと震える指を握りしめなんとか抑えようとする。握る指先は冷たくなっていて、正気でないことがわかった。

 自分のことを言われるのは構わない。見た目だけなら、そう言われるだけの容姿をしていることくらい理解できている。そう言われても仕方ないと諦めもしている。

 頭が良いことだけが取り柄の、令嬢失格と言われていることも知っている。

 何をどう言われようと、コーデリアは気にしていない。

 だが、家の事を、家族の事を言われるのはどうしても納得ができなかった。

 今すぐ飛び出して殴りつけてやりたい衝動をどうにか抑えながら、ゆっくりと音を立てないようにその場を離れた。



「頭の良い女性は嫌いじゃない……」



 最後の方に何やら言い訳めいた言葉が耳に入ったような気がしないでもないが、もはやコーデリアがそれを受け入れることはない。

 彼女の中では彼との婚約はあり得ないものになっていった。







「……と、まあ。こんな感じのお話しをしていました。せっかくのお話しですが、ハリスン・アンダーソン子爵様とのご縁は無かったことにしてください」


 一緒に夜会に来ていたコーデリアの兄 ルーク・キャメロンに、先ほど自分が耳にしたことを全て話して聞かせた。

 兄ルークは眉間にしわをよせ、難しい顔をしている。



「話はわかった。じゃあ、コーデリアの中では、彼との縁談は無いものとして良いんだな」

「ええ。ありえないわ。私だけならともかく、『戦争屋』などと言われて聞き流すわけにはいかないもの」

「『戦争屋』ねえ、何代前の話しをしているんだか。そんなこと、未だに口にする人間がいることに驚いたよ」


 ルークは苦い顔をして、少し笑った。


『戦争屋』 何代か前の頃には隣国とのいざこざが絶えず、その為武器を作るための材料となる鉱山を持つ者が富を得ていた。そのため戦争屋、武器屋などと揶揄し、嫉まれる存在になっていた。キャメロン家もかつては、その戦争屋と言う呼び名で呼ばれていたことも確かにあった。

だが今では戦争など起こることもなく、鉱山の富は橋や鉄道と言った国の発展のために使われている。そのことを現在のキャメロン家は誇りに思っている。

未だ戦争屋などと呼ばれることに、ルークも苛立ちを覚えた。



「でも、本当に良いのか? その、お前は……」

「は? 私がなに? 無理なものは無理よ。はっきりお断りしてね、お兄様!」


 言うだけ言うと、コーデリアはさっさと夜会の喧騒を抜け出し帰路に着こうとする。


「おい、待てって。今日のお前のエスコトートはハリスンだろう? 黙って帰るなんてさすがに失礼だろうが」

「あら、忘れていましたわ。それでしたら、お兄様が適当に理由をつけておいてください。私は先に帰ります」


 コーデリアは令嬢らしからぬ力強い足取りで会場を後にした。

 ルークはその後ろ姿を見つめながら「言い出したら聞かない頑固者が……」と、ボソリとつぶやいた。




 社交シーズンが始まったばかりの今宵、夜会はまだまだ終わらない。

 ダンスを楽しむ者。珍しく美味なる食事に舌鼓を打つ者。噂話に花を咲かせ、賭け事に没頭する者、夜会には人の本性をさらけ出す力があるのかもしれない。


 煌びやかな飾りと、目にも美しい色鮮やかなドレスで着飾った淑女たち。普段よりも上等なワインに、楽団の心地よい音色が耳を刺激し気分が高揚するのだろうか。

 派閥争いや男女の色事に加え、秘め事もそこかしこで目にすることができる。

 人間の本音も自然と溢れ出るのかもしれない。


 だとすれば、先ほど庭園で耳にした彼の言葉も本心なのだろう。と、コーデリアは結論付けた。

 主催者である公爵家にはすでに挨拶を済ませている。仲の良い令嬢には、後で色々と聞かれるだろうが仕方ない。笑い話にしながら愚痴を聞いてもらおう。



 帰りの馬車の中でコーデリアは深いため息を吐いた。

 思いのほか早い戻りに従者や侍女は「訳アリ」と読み、黙ったまま静かに放っておいてくれている。伯爵家の使用人は仕事が出来る人間でありがたいと、心から思った。



 コーデリアは心のどこかわからない場所にぽっかりと穴が開いたような感覚を覚え、これはなんだろう?と考えてみるも、恋愛経験の乏しい彼女にはわかるはずもない。ただ、なんとなく泣きたくなるような思いは気のせいではない。と言う確信だけはあり、湯あみの時に泣けば目が腫れたりしないかも?と、密かに思う。


馬車の窓越しに暗い空を眺め、コーデリアは深い脱力感に襲われていた。



最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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