ビルという名の世界樹
自動扉を開け中に入る。東京駅周辺にありそうなビルのエントランスがあって、駅でもないのに自動改札が見える。あれを見るとおぞましく感じる。そして俺が一歩中に入るとガタンと自動改札が一斉に開く。
【盛大な出迎えであるな】
『わたくしを見送るのにふさわしいですわ!』
「こえーよー、この世界にホラー成分はいらねーよー」
俺が欲しいのはワクワクとかきゃっきゃうふふであってギャーではない。アキホちゃんも気味悪そうにして俺の陰に隠れようとしてる。やっぱキショイよね。
薄気味悪い自動改札をバシバシ叩きながら通過する。あれだ、昭和の家電を直す感覚だ。知らんけど。
自動改札を過ぎるとちょっとした空間になってて見慣れたエレベーターが並んでいる。新しいのかピカピカだ。
「水が出ていたのは5階だったかな」
奇しくも前の職場が5階だった。いやな記憶だ。
「イヤな気配がするですぅ」
アキホちゃんが俺を盾に知るがごとく後ろに隠れたままだ。なんだろう、残機が減るから勘弁願いたいんだけどっていうそばから残機が減った。こうしていても残機が減るだけなので↑ボタンを押してエベーターを呼ぶ。
「アシタマデニヤットケヨ!」
嗄れ声の怒鳴り声なチャイムが鳴る。耳をふさぎたくなる。
「行きたくねーなー」
「やややややはりアテクしが、いいいいけにえになるですぅ!」
「それはダメ」
俺みたいになっちゃだめだ。行くしかねえな。