唐揚げを作ろう
つくります
俺たちは臆面も五体投地のアキホちゃんにお構いもなく、だばだば流れている大河のほとりで酒盛りの段取りを始めた。
用意したのはキャンプ用の大き目なガスコンロ、大量のオリーブオイル、大きめな中華鍋、一瞬だけドラゴンに戻ったプリティちゃんが横っ面をはたいて仕留めたグレートザキングナマズ。そのナマズを「こんなのやったことねーよぉ」と泣きながらさばいた俺。
包丁の先生は女紙様だった。
まずは一発、包丁を頭にさして固定してから別な包丁で背から捌けとか、内臓は危険ですっごい危険だから傷をつけないように手でほじくり出せとか、皮は食えないから気合ではがせとか、かなりの鬼だった。
社畜の俺だからこそ「イエスマム!」と従順に従ったけどな。
『骨はあげたら食べられるのですわ。グロさは気合で乗り越えるのですわ』
「女紙様が厳しい。元上司よりも世間よりも厳しい」
『花嫁修業の一環として、魚をおろすのは必須なのですわ』
「……嫁にいくご予定をお聞いてもよろしくって?」
『…………』
返事がない。ただの屍のようだ。ただ文字だけが『ぐぅ、餌付けが足りなかったとでも!??』と続いている。
なんだその餌付けって。今まで生きてきた俺の記憶の中で餌付けなんて、会社の同僚が旅行先で買ってきたお土産くらいなもんだったぞ。
大残業明けのおやつの時間に、机の中に柿の種があったことはあったけど。
あれ、なんで柿の種なんだろう?
『……片栗粉を出すのですわ』
おっと、女紙様に流れる文字の圧が大きい。こう、迫力満点で、ところどころかけている文字の形が、テラーでホラーだ。ご機嫌が大変麗しゅうない様子。怒れるお局様のいうことは素直に聞くのが社畜という生物の掟だ。
「かしこまりました奥様!」
『奥様ではないのです!』
「わかりました未婚の奥様!」
『モキー!!』
後が怖いからからかうのもこの辺にしておこう。
からっと続きます