総身の知恵もこのくらい
考えても価値があるかは別問題
「あれ、もしかして俺って詰んじゃってる感じ?」
缶ビール片手に我に返った。
プリティちゃんも、ダンプさんも「いきなりなに言っちゃってんのコイツ」という顔で俺を見ていた。女紙様は、その、顔がないからね。
『伊能さまは、自由ですわ』
かわいく首をかしげるように、紙が傾いた。
「自由……」
自由ってやつは高くつくんだ、俺は知ってる。自由を求めて会社を辞めた後輩が、無職期間が長すぎて働く意欲を保てなくなってたんだ。夏休み明けに登校できなくなる小学生と似てるな。
その後輩を最後に見たのは、生活保護の申請のために付き添った時だった。あれからどうしているのか。
「いまはいいけど、すぐに息詰まるってことか」
自堕落は最高だ。でも、何もすることがなくなるんだ。刺激に対して鈍くなるのかな。
「酒にも飽きちゃうってことか。それともおぼれちまうのか」
酒を楽しめないのってのは、ろくなもんじゃない。人生において5兆%の損失だ(当社比でな)
「のんきに笹食ってる場合じゃねぇ!」
俺の心のパンダが叫んだ。
いまやらないでいつやるんだ。いまでしょ。
「よし、ダンプさんの里に行くぞ!」
俺が叫ぶと、ダンプさんがハッとした顔になる。
「い、いいのか」
「いかないと酒がまずくなる」
「……論理が飛躍しすぎて俺には理解が追いつかないが……助かるのではあるが、気が進まないのだろう?」
「ロスタイムな人生を楽しくするためには、こっちから動かないとダメなんだ!」
勢いに任せて立ち上がり、テーブルをバーンとたたいた。
俺の視界の隅っこの残機が、一つ増えた。
だらっと続きます