気が進まない俺
気が進まないときもあるのです
「といわれましてもですね」
俺にできることなんてないだろこれ。そりゃーなんとかできるなら手伝いたい気持ちもあるけどさ。
『たしかに、伊能さまにしかできないことですわ』
スペアリブのたれはすでに二回は拭いてキレイキレイな女紙様がいう。
隅っこのほうに「おなか一杯ですわ」って書いてある。よーございましたね。
「……何をしろってのよ。俺にできることなんて――」
『ともかく、行ってみるのですわ』
そうしないと残機が増えないのですわ、と紙には続いている。脅しか、女神様が脅しか。
「森には獣とかがたくさんいるんだろ? 俺の残機で足りるのか?」
倒木を乗り越えただけで残機が減りかねない俺だぞ?
散歩だけで残機が減る俺だぞ?
「道の安全は俺が確保しよう。里の者にも連絡して周囲の魔物を狩ろう。もちろん、何らかの形のお礼はする」
【道々の安全は我も担うのである。どうせそこの紙っぺらは役立たずなのである。留守番でもするのである】
『超絶美人なわたくしを襲う不届きなケダモノは存在しないのですわ』
「その代わりにお俺が襲われるオチだろそれ」
紙を食べたって腹は膨れないし。そりゃ近くにいるよわっちい俺に的が移るにきまってる。
バカらしい。
手元に、静岡あたりの地ビール缶を出して、カシュッと開ける。ちょっと濃い薫りがひろがっていく。
『知らないお酒ですわ』
【それは知らぬ酒であるな】
「……あげないよ?」
あなた達、純米大吟醸を飲んだでしょ?
ぬるっと続きます