表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

王女コリーナ

「さぁ~て……どうしよっかなぁ」


 そびえ立つ城門を前に、アリスは腕組みをして唸った。


「紹介状を使っても良いけど、必ずしも中へ入れてくれるとは限らないし……かと言って、忍び込むのもリスクが高い……」


 屋台を離れた後も何人かに話しを聞いてみたが、答えはほぼ同じだった。


「王様に掛けられた魔王の呪いは、城内の人間にしか分からない」


 つまりアリスがこれ以上の情報を得ようと思えば、厳重な警備が敷かれた城内に侵入し、話を聞きださなければならないのだ。


 尤も、アリスの力を持ってすれば侵入自体は容易い。いざとなれば、力ずくで話を聞きだす事も可能だろう。


 だが、出来るだけ事を大きくしたくない。少なくとも、ゼリムの耳に入るような事はあってはならない。力に物を言わせるのは最後の手段だ。


「ジッとしてても仕方ないか……」


 アリスは城壁をなぞる様に歩き出した。


 アルバニス城は近隣国の城塞と比べても一際大きく、外壁を一周するだけで日が暮れてしまいそうだ。


 それでも何かヒントがあるかも知れない。一縷の望みに掛け、アリスは城を見上げながら様子を探る事にした。


 しかし特別な物は無く、何時の間にか城の裏側まで歩いて来ていた。


「そうそう都合良くは行かないか~……ん?」


 アリスが肩を落としかけたその時。正門の真裏に位置する小さな城門に、武装した兵士が隊列を組んで並んでいるのが見えた。明らかに、正門の警備よりも人数が多い。


「こりゃ、都合良く行っちゃうかも」


 アリスが、ほくそ笑みながら一人の兵士に近付いていく。


「あの~、何かあるんですか?」


「な、何だ君は。近付いちゃいかん、あっちへ行ってなさい」


 列の一人に声を掛けると、兵士は猫を追い払うようにアリスに向かって片手をヒラヒラを振る。


「そー言わずに。私、警備隊長様に紹介されまして、お城の見学をさせて頂こうと立ち寄った次第なんです」


 アリスは、そう言ってカードを兵士に見せる?


「ウッド殿に?」


 兵士は訝しげに眉をひそめるも、アリスのカードが本物と分かると、少しだけ悩む素振りを見せる。


「すまないが、今我々は姫様をお出迎えする所なのだ。案内なら後でしてやるから……」


「姫様と言うと、アルバニス国の王女様?」


「そうだ。コリーナ姫様は国のしきたりによって、二十歳になられるまで三日に一度、街の教会で聖拭の儀を執り行っていらっしゃる。今、その儀を終え戻ってこられるのだ。教会の帰りは、何時も裏門を使う決まりなのでな」


「なるほど……それでは、せっかくなので私も王女様にご挨拶を……」


「な、何を言ってるんだ! ダメダメ!」


 どさくさにまぎれて列に加わろうとするアリスに、兵士が待ったをかける。


「何を騒いでおる! 姫様のお帰りだ! 整列せんか!」


 リーダーらしき初老の騎士が、アリスを押さえていた兵士を叱り付ける。


「はっ! 申し訳ありません!」


 怒鳴られた兵士は慌てて姿勢を正し、横目でアリスに囁く。


「良いか、絶対に前には出るな。斬られても知らんぞ。此方から姫様に声も掛けるな。良いな」


「了解しました~」


 アリスは笑いをこらえながら、兵士の後ろで敬礼をした。


 やがて、街道から複数の蹄の音が近付いて来た。豪華な馬車を中心に、装備を固めた騎兵が一団となっている。おそらく、あの馬車の中に王女が居るのだろう。


 アリスは何とか接触を試みようと模索するが、流石に直接声を掛けるのは得策ではない。


「仕方ない……あの子を使わせて貰うか」


 騎兵の一団が次々とアリスの前を通過して行く。続き、王女の乗った馬車がアリスの前を通過しようとした。


 その時、馬車を引いていた馬の一頭が突然立ち止まり、激しく嘶き、暴れだした。


「何事だ!」


「わ、分かりません! 馬が急に!」


 突然の事に、流石の兵士達も動揺を見せる。


 運転手は必死に手綱を絞り馬をなだめようとするが、馬はロデオのように荒れ狂い、一向に収まる気配を見せない。


「コリーナ姫様に危害が及んではいかん! その馬を殺せ!」


 リーダーの騎士が命ずると、馬車の周囲に待機していた兵士達が、一斉に腰の剣を抜く。


「お待ち下さい!」


 兵士達が馬の首に向かって剣を振り下ろそうとした時、アリスが声を上げて前に歩み出た。


「何だキサマは! 邪魔をするな!」


 リーダーがアリスに向かい一渇するも、アリスはその声を無視し、暴れまわる馬に近付く。


「怖がらないで、もう大丈夫……」


 アリスは優しく語りかけ、馬の鼻面に手を添える。すると、それまでの暴れ方が嘘のように馬は動きを止め、大人しくなった。


 兵士達が呆然とする中、アリスはその場にしゃがみ込み、何かを摘み上げる。


「釘……ですね。恐らくこれを踏んでしまったのでしょう……可愛そうに」


 アリスが馬の顔を撫でると、馬もアリスに頬ずりで返した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ