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潜入2

 ウッドに促され、アリスは兵達と共に正門を潜る。


「そうだアリス殿。これを」


ウッドはアリスに一枚のカードを差し出した。


「これは?」


「我が軍は何時でも新しい力を求めている。君のような若く強い力をな。その気があったら、何時でもそのカードを持って城へ行くと良い。それは私の推薦状のような物。ほぼ無条件で入隊審査も通るだろう」


「せっかくのご好意ですが、私は修行中の身で……」


「はっはっは、分かっている。その気になった時で構わない。それに、そのカードは国家公認。持っているだけで、ある程度の優遇を受けられる。持っていて損はないだろう」


「そうですか……それでは、ありがたく頂戴します」


 アリスはペコリと頭を下げ、カードを受け取った。


「宿は各エリアにあるが、お勧めは北区の宿屋だな。安い上にサービスもそこそこだ、一度覗いてみると良い」


「ありがとうございます、それでは……」


 警備へと戻るウッド達に頭を下げ、アリスはトレルの雑踏へと向かった。


 暫く街の中心へと向かっていたアリス。正門が見えなくなった所で、ニヤリと口角を吊り上げた。


「ちょろいもんね」


 アリスは受け取ったカードを指先で弄ぶ。


「所詮、人も魔物も同じ。初めに力の差を見せ付ければ、御しやすい事この上ない」


 必死に笑いをこらえるアリス。狙い通りに事が運び、楽しくて仕方がないようだ。


「いざって時の為に人間に貸しを作ろうかと思っただけなんだけど、こんなお土産まで貰えるとはね、ラッキーラッキー♪」


 まだ、このカードが何処までの効力を持っているか分からないが、何かと役に立ちそうな気はする。


「とりあえず情報収集かな、魔王の呪いってのを調べないと……」


 情報収集と言っても、アリスにとっては多くが初体験。何から手をつけるべきか、考えをめぐらせる。


 すると、何やら魅力的な香りが漂ってきた。


「情報収集と……オヤツにしようかな」


 アリスが少しだけ歩く速度を速める。辿り着いたのは一軒の屋台。のぼりには「串焼き牛」と描かれていた。


「いらっしゃい、お嬢ちゃん。食べてくかい?」


 立派なお腹をした中年女性が、人懐っこい笑みで声を掛けてきた。アリスは即座に頷き、串焼きを一本注文する。


 串焼き牛とは、サイコロステーキを五つ串に刺し、直火で焼いた物のようだ。


 まだ湯気の立ち上る熱々の串焼き牛を、アリスは受け取った瞬間にかぶり付く。


「……美味しい!!」


「そうかい、ありがとう」


 アリスの素直なリアクションに、店主は嬉しそうに微笑んだ。


「ウチで食べる魔牛より、よっぽど美味し~。今度ゼリムにも教えてやろ」


「マギュウ? どこの牛だい?」


「えっ!? う、ううん! 何でもない!」


 流石に「魔界の牛です」とは言えず、アリスは慌てて頭を振る。


「そうだ、おばさん。王様に掛かった呪いの事、何か知ってる?」


「ちょっと! そんな事、大きな声で言っちゃダメだよ!」


 今度は店主の方が慌てだし、周囲を忙しなく見渡す。


「何処で聞いたか知らないけどね、その件に関してはトップシークレットなんだよ」


「そうなの?」


「そりゃそうでしょ。一国の王が床に臥せってるなんて他国に知られたら、あっと言う間に戦が始まっちゃうよ。この国と停戦状態にある国は一つや二つじゃないんだ。だから国内でも滅多に口に出しちゃいけないんだよ。ただでさえ、最近は他国の軍が国境まで接近してきたなんて噂もあるのに……」


 屋台のおばちゃんが知ってる時点で、とてもトップシークレットとは言えない気もするが、アリスは「そうなんだ」と相槌を打っておく。


「どうして、そんな事を聞くんだい?」


「私、魔道士見習いなんだ。魔王の使う呪術ってのに興味があってさ、それでこの街にきたんだよ」


「そう……でもね、今言ったみたいに、この件には緘口令が敷かれてるんだ。だから詳しい話も伝わってこないんだよ……まぁ、城内の人間なら分かる事もあるんだろうけど」


「じゃあ、お城の人に聞けば……」


「無理無理。一般人に話してくれるわけないよ。下手したら捕まって牢屋に入れられちまう、悪い事は言わないから止めときな」


「そっか~……残念」


 アリスは肩を落とし、食べ終わった串をゴミ箱に投げ捨てた。


「ま、せっかくだから観光でもして行きなよ。大して見るところないけどさ」


「うん。ありがと、おばちゃん。じゃあね」


「ちょっとちょっと、御代忘れてるよ!」


 その場を離れようとしたアリスを、店主が慌てて呼び止める。


「そっか、ごめんごめん」


 アリスは苦笑いを浮かべ、懐から取り出した小袋を串焼きの隣に並べた。店主が袋の中を覗くと、中には金貨がギッシリと詰まっていた。


「そんじゃ、おばちゃん。バイバイ」


「ちょ、ちょっと! これじゃ多すぎるよ! 店ごと買えちゃうよ!」


 店主は再び呼び止めようとするが、駆け出したアリスはアッと言う間に雑踏の中に消えてしまった。

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