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潜入

 破軍の都市トレル。


 トレルは、大陸最大の軍事国家アルバニス国の首都。アルバニスは代々、首都に時の王の名を冠する慣わしがあり、首都の名はそのまま王の名でもある。


 アルバニスは国財の多くを軍事政策に割き、時に世界のバランスを保ち、時に隣国の脅威となり続けている国。


 それは魔物に対しても同様で、トレルの軍隊が最も魔王討伐の可能性を秘めているとも言われていた。


 それは守勢に回った場合でも顕著であり、首都トレルは過去に一度も魔物による被害を受けた事が無い。


「ラック・ワンのヌシが出たぞ! 各員配置に付け!」


 トレルの正門に構える強固な金属製の扉。その内側で、警報としての鐘が激しく打ち鳴らされる。


 本来であれば、民にとっても危険を知らせる鐘の音なのだが、トレルの民は何の危機感も感じない。己の身に危険が及んだ経験がないからだ。


 トレルを囲むラック・ワン平原のヌシと言えども、例外ではなかった。


 しかし、今回は少々勝手が違ったようだ。門の上部で監視していた兵士が、その異常にいち早く気が付いた。


「グギャァァアアアァアアア!」


 身の毛も弥立つ獣の咆哮が轟き、巨大な虎が鋼の扉に突撃した。重々しい金属音が鳴り響き、鋼の扉が激しく振動する。


「隊長! ヌシが門を抉じ開けようとしています!」


「バカな!」


 過去にも巨大虎が街の近辺に現れた事はあった。


 だがそれは、あくまでも街に出入りする人間を狙った物であり、門を超えようとした事は一度も無かったはずだ。


 だが、幾度と無く繰り返される衝撃と振動が、監視の報告が間違っていない事を証明している。


「隊長! 如何いたしましょう!」


「ヤツを相手にすれば、此方の被害も甚大な物となろう……出来るだけリスクは冒したくなかったが、致し方ない……迎撃の準備だ! 門の外でヤツを仕留める!」


 部隊長の命に、装備を固めた男達が一斉に動き出そうとした。


 だが次の瞬間、頭上から聞こえた監視の声に、全員の動きが止まる。


「隊長! 人です! 人が徒歩で此方に向かってきます! おそらく……女! 武装している様子はありません! 一般人と思われます!」


「こんな時に……さっさと鐘を鳴らせ! 近付かせるな!」


「それが……もう目と鼻の先に居るんです! 今から知らせても間に合いません!」


「何だと! なぜ気が付かなかった! 見落としていたのか!」


「も、申し訳ありません……周囲にも目を配っていたはずなのですが……」


「言い訳は無用!」


 部隊長は監視を一喝し、部下を連れて正門の脇へと走る。巨大虎が正門の前に居る以上、別の場所から外に回りこむしかない。


 兵達は正門の脇に隣接された関係者用の通用門から、勢い良く外へ飛び出した。


「な、何だ!」


 しかし、門を超えた兵達は目の前の光景に思わず足を止める。


 正門の前、人の数倍あろう巨大な虎と、まだ幼さの残る少女が睨みあっているのだ。


「グォォオオオオオ!」


 巨大虎の雄叫びに、部隊長がとっさに叫ぶ。


「君! 逃げなさい! そいつから離れるんだ!」


 部隊長が必死に叫ぶ。しかし少女は、虎を前にしても全く怯えた様子を見せず、両手をユックリと掲げた。


「はぁああああ!!!」


 気合一閃。少女が掲げた両手を勢い良く振り下ろすと、目の前の巨大虎が少女の手の動きに合わせて地面に叩き伏せられた。


「うぅうりゃぁあああ!!!」


 少女が更に両手を振り上げると、巨大虎は見えない何かに投げ飛ばされ、少女の頭上を越えて緑の大地に投げ落される。


「ココはアナタの来るべき場所ではない! とっとと帰りなさい!」


 少女が巨大虎に向かって叫ぶ。


 フラフラと立ち上がった巨大虎は、少女を一瞥するとジリジリと後退し、やがて踵を返して走り去って行った。


 あまりの出来事に成り行きを見るしかなかった兵達が、少女の笑顔で我に返る。


 部隊長を先頭に、皆が少女に駆け寄った。


「君、怪我はないか?」


「ええ。ご覧の通りです」


少女はその場でクルリと回って見せた。


「そうか……いや、君の技には驚いた。私はトレルの警備隊隊長ウッド。君は……さぞ名のある魔道士とお見受けするが……」


「私の名はアリス、修行の旅をしている魔道士です。まだまだ世に名を馳せるほどではありませんわ」


「謙遜を……アレだけの力を持った術、我が軍でも見た事はない」


「それを聞いたら我が師も喜ばれる事でしょう。先程の術は我が師から受け継いだ物です」


「そうか、良き師の下で学ばれているようだ……と、このような場所で立ち話もないな……アリス殿もトレルに用があるのだろう」


「ええ、少々宿を取ろうかと」


「うむ……おい! 開門だ! 急げ!」


 ウッドが頭上の兵に指示を出すと、程なくして正門がギシギシと軋みながら開いていった。

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