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太陽の下

「ヴェルナス様」


 城内の喧騒が収まった後、ゼリムがアリスの下へと馳せ参じた。


「ラジアルへ上陸した人間、221名。排除完了致しました」


「そう、ご苦労様~」


 玉座に腰を下ろしたアリスが、両足をブラブラさせながら気だるそうに返す。


「ちゃんと掃除しておいてよね~。人間達が来た後は、城中が生臭くなってしょうがないんだから」


「はぁ、しかし多少の血糊などを残しておくのも、後の侵入者に対して……」


「そんなベタな演出で怖気づくようなヤツが、この城に来る訳ないでしょ。父様の若い頃とは違うんだから」


「……分かりました、ヴェルナス様の仰せのままに……それと……」


「まだ何か?」


「いえ……さほど気にする事も無いかもしれませぬが……どうも上陸した人数と残った遺体との数が合わないらしく……」


「どーせ、行儀の悪い子が片付ける前に食べちゃったんじゃないの?」


「確かに、その可能性もありますが……」


「ダメだよ~人食以外の子に食べさせちゃ。人間なんて不味い上に装備品もごちゃごちゃ付いてて、間違って食べたらお腹壊しちゃう」


「は、徹底させます」


 ゼリムは一礼すると、畏まったまま玉座のアリスを見上げた。


「なぁ~に?」


 何処か。何処か違和感を感じる。何時ものアリスなら「つまんなーい」と愚痴る所なのだが……。


「いえ、報告は以上です」


 下手に問い質して、また機嫌を損ねられても困る。蛇が居るかも知れない藪を突く事もないだろう。


「それでは、ヴェルナス様は引き続きお部屋でお寛ぎ下さい」


「はいはい」


 再び一礼をして部屋を出るゼリムに、アリスは片手をヒラヒラとさせながら見送った。


 鋼鉄の扉が閉じられ、靴音が遠ざかっていく。室内が静寂に包まれた、その時……。


「上手く行った上手く行った」


 アリスの座る玉座の裏から、もう一人のアリスが現れた。もう一人のアリスは、玉座に座るアリスの頭を撫でる。


「上出来上出来、アレだけ返事が出来れば問題ないね」


「ありがとうございます、ご主人様」


 玉座に座るアリスは、もう一人のアリスに撫でられ頬を染めながら頭を下げた。


「魔魂恵身。初めて使ったけど、大丈夫そうね」


「はい。この身の中に、ご主人様に分け与えられた魂がしっかりと……」


 魔魂恵身。使役した命に己の魂を分け与える事で、己の姿と記憶、そして幾ばくかの魔力を分け与える秘術。


「ふふふ、侮ったねゼリム。私だって、何時までも魔術が苦手って訳じゃないんだから」


 してやったり。アリスがほくそ笑む。


「じゃ私が出かけてる間、上手く誤魔化しておいてね」


「本当に宜しいのですか、ご主人様。万が一ゼリム様達にばれてしまったら……」


「だから、ばれないようにアナタを作ったんじゃない」


「それはそうですが……」


「それに、もしも魔王の名を騙るヤツが居るんだとしたら、黙って見過ごす訳に行かないでしょ。現在、人間界の侵攻が許されているのは魔王ヴェルナス軍のみ。そして仮とは言え、今の魔王ヴェルナスは私なんだから。真偽を確かめなきゃ」


 アリス(本体)は、そう言って小さなカバンを背負うと、玉座に設置された水晶玉に手をかざし魔力を込めた。水晶玉の中には、一面の緑が映し出される。


「確かココは……ラック・ワン平原か……この辺りで良いかな」


 自身の転送場所を確認し、アリスは更なる魔力を込める。


「それじゃ、行ってくるね」


「はい。行ってらっしゃいませ、ご主人様」


 アリス(分身)に見送られ、アリス(本体)は転送術によって水晶玉の中に黒い炎と共に吸い込まれていった。


 闇と光の道を瞬時に行き交い、アリスは己の身を遠く離れた草原のど真ん中へと移動させる。


 アリスは刹那の浮遊感を覚えた後、柔らかな大地に降り立った。


「上手く行った……かな?」


 アリスは周囲をグルリと見渡した。


 ラジアルでは感じられない、目に痛いほどの陽光。風に乗って運ばれるのは、臭気ではなく青い芝生の香り。耳に聞こえるのは、地の底から届く怨嗟の声ではなく、楽しげに歌う小鳥達の歌。


 まさしく、ラジエルではありえない光景。転送が成功した証拠だ。

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