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真相2

 コリーナの声が、扉の外から聞こえてきた。


「この部屋からならば、結界を消すのは容易なのだよ」


 トレル王は嫌らしく口角を上げた。 


「君はコリーナと随分仲が良いらしいじゃないか」


「それが……何?」


「いや、見てみたいと思っただけだよ。君の正体を知った娘の顔を」


「お父様!」


 寝所の扉が大きく開かれ、数人が部屋になだれ込んできた。


 先頭はコリーナ、その後ろには護衛団長ウッドと第一騎兵団部隊長エルサーが続く。


「申し訳ございません、お父様! 急に結界が消えたので、心配で許可もなく……」


 王の寝所に飛び込んできた三名は、その目に映る光景が理解出来ずに立ち止まった。


「アリス? どうしてココに……」


 アリスはコリーナの言葉に反応せず、ただトレル王を見下ろしていた。


「コリーナよ! この者は憎き魔王の手下! 私を呪うだけでは飽き足らず、直接手に掛けようとお前に近づいたのだ!」


「え……」


 コリーナが、アリスと王の顔を何度も見比べる。


「お父様……そ、その様な冗談は……」


「冗談ではない! その者の眼を見るがいい!」


 コリーナが恐る恐るアリスの瞳を見やる。


 輝く銀色の筈だった瞳は、血の様に赤黒く変色していた。


「そんな……アリス……うそ……ウソよね……」


 アリスは答えず、右手の光弾を増幅させる。


「アリス!」


「コリーナ! 族を討て!」


 コリーナが動く前に、ウッドとエルマーが王の声に反応した。


 二人はアリスに向かって飛ぶと、重ねる様に剣を振り下ろす。


 ×字に振り切られた二刀の刃が、アリスのドレスを切り裂いた。


「アリス!」


 コリーナは咄嗟に駆け寄ろうとするも、アリスの切り裂かれたドレスが瞬く間に修復されていく様をみて、思わず息をのんだ。


「アリス……アナタ……本当に……」


「姫様! お下がりください!」


 再びウッドとエルマーが刃を振りかざす。


 アリスは手にした光弾を二つに分け、襲い掛かる二人の騎士に放った。


 光弾は二人の腹部に着弾し、軽々と奥の壁まで吹き飛ばす。


 ウッドとエルマーは短く呻き、そのまま意識を失った。


「コリーナ……」


 アリスの声に、コリーナが振り返る。


 これは何かの間違いだ、アリスはきっと否定してくれる。コリーナは願った。


 しかし……。


「コリーナ……アナタの人を見る目、あまり過信しない方が良い」 


「アリス……」


「私の事すら、見破れなかったんだから」


 アリスの言葉が、無情にもコリーナの願いを打ち砕く。


「う……うぁあああああああ!!」


 エルマーの落とした剣を拾い上げ、コリーナがアリスに襲い掛かった。


 アリスは再び己の腕で刃を受ける。その腕に、微かな痛みを感じた。


 刃を受けた腕から、僅かに血が滲んでいる。


 たかが鋼鉄の剣で傷をつけられるのは、アリスにとって初めての経験だった。


「あああああああ!」


 獣の様な雄叫びと共に、コリーナが剣を乱れ振るう。


 アリスは受けずに、流れる様な動きで剣戟を躱した。


「良いぞコリーナ! お前の剣ならヤツを斬る事が出来る!」


 トレル王が喚起に満ちた声を上げた。


(これが、アルバニス家が受け継ぐ力……か)


 アリスはコリーナの剣に目を見張った。それは、振るう毎に鋭さを増しているようで、僅かにアリスの皮膚をかすめる様になっていた。


 今はまだ脅威にはなっていない。今なら止められる。今なら、殺せる……。


 アリスは拳に魔力を集中する。だがそれを、コリーナに向けて撃てる気がしなかった。


「コリーナ……」


 コリーナの笑顔が、涙が、アリスの脳裏に浮かぶ。アリスはそれを強引に振り払った。


(私は魔族だ、魔王の後継者だ、自分のすべき事は分かっている……)


「アリス!!!」


 コリーナが大剣を上段に構える事で、僅かな隙が見えた。今撃ち込めば、終わる。


「コリーナ!!!」


 アリスはコリーナに向かって飛び込むと、大剣を掻い潜りその背後に回った。


「しまっ!」


 後ろを取られた。コリーナは一瞬で己の死を悟り、目を閉じる。


 しかし、何時まで経っても痛みは感じない。


 やがてコリーナは、恐る恐る後ろを振り返った。


 そこには……。


「……アリス!」


 アリスはコリーナに背を向け、己の倍はあろうかと言う巨大な刃を全身で受け止めていた。


 刃はアリスの胴部を袈裟に割き、白いドレスを真っ赤に染めている。


 コリーナには、アリスが己を凶刃から守てくれている様に見えた。


「ア、アリス……」


「コリーナ! 何をやっている!」


 コリーナを名を叫んだそれは、己の父親。トレル王……だった者。


 彼はその体躯を倍以上に膨張させ、手にした巨大な剣をアリスに打ち付けていた。


 コリーナと同じ茶色の頭髪は激しく逆立ち、顔のシワはより深く、口元には牙の様な犬歯が見える。


「コリーナ! とどめを刺せ!」


「お、お父様……」


 異形に成り果てた父を見上げたコリーナは、理解が追い付かない。


「ふふふ、随分と立派になったじゃない……」


 巨大な剣の刃を抱えたまま、アリスがクスクスと笑う。


「我がただ単に伏せっているだけだと思うたか、魔王を討ち滅ぼす為の研究は常に進めておったわ」


「魔王を倒す為……ねぇ……ふふっ」


 アリスが再び笑みを漏らすと、トレル王の目端が吊り上がる。


「……何が可笑しい」


「トレル王……アナタが殺したかったのは、本当に魔王だったのかしら?」


「何だと?」


「そう、アナタが本当に殺したかったのはアルバニス家の……」


 トレル王が巨大剣を横に払う。


 アリスの体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。

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