ヒトの気持ち2
「ふ~ん……おおかた魔法で心不全でも装うとしてるって所? でも魔力が漏れてたら、現場に魔力の痕跡が残っちゃうよ? 随分と雑な工作だね」
騎士の男がピューターを突き飛ばし、術師の男と共にアリスに襲い掛かる。
「お手本を見せてあげるよ」
アリスは焦るそぶりも見せず、両手を二人の男に向けた。
「うぐっ!」
その瞬間、二人の男は突如苦しみだし、その場に崩れ落ちた。
「この手の魔力操作はね、繊細さが大事なの。無駄な力は使わず、魔力で手の形をイメージして、こう心臓をキュッて……」
「がぁ……は……!」
床に転がった男達が、苦しみでのた打ち回る。
「ま、待ってくれ! 殺さんでくれ!」
ピューターが、アリスと男達の間に割って入る。
「どいて先生。分かってるの? その人達は先生を……」
「分かっとる! そいつらが命令に従っているだけだと言う事も! だから殺さんでやってくれ!」
ピューターが土下座する勢いで懇願する。
アリスには理解できなかった。どんな理由であれ、自分を殺そうとした者の為に頭を下げる等。
「分かった……」
アリスが力を抜くと、二人の男は体をビクンと痙攣させ、やがて動かなくなった。
「一応気絶はさせたよ、後は先生の好きにして」
「す、すまん……」
ピューターはアリスに一礼すると、転がっている男達を後ろ手に縛りあげた。
「殺した方が楽なのに……」
「随分と過激なんじゃな……城で聞いた噂と大違いだ」
「先生、私の事を知ってるの?」
「あぁ、最近コリーナ姫様と一緒に食事をしとる魔導士じゃろ? 診療に訪れた時に話を聞いたわい」
「それなら話は早いかな……」
アリスはピューターに会いに来た事、王の呪いに関して調査している事を隠さずに話した。
「率直に聞くけど、先生何か知ってるよね? そして何かに逆らった。だから殺されかけた」
「……なぜそう思う?」
「それが一番腑に落ちるから」
「……単純明快じゃな」
アリスなりに考察を重ねた処、やはり魔族の仕業とは思えない。そう考えれば、選択肢は自然と限定された。
「ワシは医の道を、人の道を外れたんじゃ……」
「それってやっぱり……」
「悪いがそれ以上の事は何も言えん」
「殺されそうになったのに?」
「それでもじゃ……すまんな……」
「じゃあ、勝手に覗かせて貰うね」
「何?」
ピューターを見つめるアリスの銀色の眼が、少しずつ赤黒く濁って行く。
「な、何じゃ! コレは!」
ピューターはアリスから目を逸らせず、それどころか身動き一つとれなかった。
「……なるほどねぇ……だいたい思ったとおりかな」
アリスはピューターの脳内にリンクし、その記憶を辿った。
「お主……何者なんじゃ……」
ピューターは直感した、今自分の目の前に居るのは人知を超えた存在だと。
「私はアリス……修行中の魔導士……だよ」
アリスがパチンと指を鳴らすと、ピューターの意識が急速に遠ざかる。
「お……お主……まさか……」
アリスはピューターの失神を確認すると、虚空を見詰め、覗き見た記憶を反芻する。
ほぼ予想通り。その理由や動機も間違いないだろう。
「わざわざ来る必要もなかったかな」
その時、アリスの脳裏にコリーナの笑顔が思い浮かんだ。
「仕方ないよね、私は次期魔王だから……」
悩む必要などない。アリスは自分にそう言い聞かせ、診療所を後にした。




