世界
とある執筆中の作品データが破損……。
絶望しながらPCにデータが残っていないか漁っている時に、この話を見付けました。
かなり昔、途中まで書いた物です。
心が折れかけていたこともあり、気分転換に調整してあげてみる事にしました。
なぜ、この話を書いたのかは思い出せない……。
ひょっとしたら、昔どこかのサイトに上げたかも?
ゆるゆると楽しんでいただけましたら、幸いです。
とある世界の、とある時代……。
この世には、人間との共存を拒否した者達が世界中で闊歩している。
通常の倍はあろうかと言う野獣、人の形を模した魔界の住人、意思を持った鉱物に、牙を持った巨大植物。
一歩外に出れば、非力な人間は何時命を失ってもおかしくは無かった。
勿論、人間達もただ搾取されるだけではない。
騎士、魔道士、傭兵、武術家……あらゆる肩書きを持つ者が、人の天敵を打倒しようと日々修練を重ね、血煙の舞う戦場へと足を運ぶ。
世界の歴史は、異形の者達と人間達との戦いの歴史その物だった。
そんな世界に生きる、人間達の大望。
それは……『魔王の討伐』。
世界を蹂躙する異形達の頂点、魔王。
その手は山脈を握り潰し、その脚は軽々と街を踏み潰すと言われ、吐き出す吐息は台風を思わせる程激しく、魔界の炎や雷を自在に操るとも語られる。この世を支配しようと目論む、魔界の王である。
その姿を見た者は、数百年を数える人と魔物との戦いの中でも僅か数名。皆が、英雄として後世にまで語り継がれる程の猛者だ。
しかし、そんな英雄達をもってしても、魔王打倒は果たせていない。
人々は魔王と、その配下である魔物達の存在に怯えながら、魔王を倒せる英雄の出現を待ち望む。そんな日々を繰り返していた。
アルバニス国の首都トレルに集まった者達も、そんな英雄の予備軍と言って良いだろう。
厳粛にして荘厳なアルバニス城。その中庭に、様々な出で立ちをした屈強な男達が集結していた。その数、二百を下らない。
皆が歴戦の兵である事は、身に付けた武具や立ち振る舞いを見れば一目瞭然。彼らの力を結集すれば、一国の軍隊にも引けは取らないだろう。
そんな兵達を前に、壇上に上がった初老の男が手にした銀の錫杖を高々と掲げる。
皆の視線が一斉に壇上へと集まった。
錫杖を掲げた鎧姿の老人は、眼下の兵を見下ろし満足そうに頷く。
「皆の者! よくぞ集まってくれた! 王に成り代わり礼を言う! 私は騎士団長を務めるフェイガル!」
立派な白髭を蓄えたフェイガルは、王の代理を証明する銀の錫杖を掲げたまま咆える。
「弱き民が魔物共に虐げられ、命を落とす日々を、我々に見過ごす事はできぬ! 戦う牙を持つ我々が、民に成り代わり巨悪の根源を討つのだ! 王は言われた! 戦にて功を得た者には、望む物全てを与えようと!」
フェイガルの言葉に、怒号の入り混じった喚声が上がる。
「出発は明後日! 向かうは淫濁の地ラジアル! その日を、魔王ヴェルナス終焉の時とするのだ!」
喚声は更に増し、やがて野太い雄叫びは城下町まで届くほどになっていた。