とんでもなく賢い子供
そんな毎日を繰り返し繰り返し、そうやって気が付くと、そこから十年が経っていた。
新は宣言通り中学から私立の学校へと入り、今は14歳だった。
その学校には、ギフテットクラスというものが新設されていた。
彰も新も特に学校に勉学の何某かを求めて入ったわけではなかったのだが、新がとんでもなく賢い事から、教師達がとてもではないが自分達では教えられない、と訴えて作られたクラスで、入学時に点数が良かった者はそこから更にテストを受けて、それに合格したならそのクラスに入れる事になっている。
だが、それは狭き門だった。
何しろ新が基準となっており、新を百として八十以下なら入る事はできない。
とはいえ、やはりどこにでも賢い子供は居るもので、全国から我こそはという賢い子供が入学を希望してくるので、今は五人が在学していた。
彰の紹介で、日本に来たいと思っていた研究員を教師として呼び寄せ、それぞれの専門を教える大学のようなクラスだ。
そこから留学を目指す子供が多いので、普段は英語の授業なので、そもそもが英語を理解できないと授業にはついては来られなかった。
今年13歳になる颯は、新に猛指導を受けて、何とかそのクラスに入ったが、毎日ついて行くのに必死なようだった。
たった五人の生徒なので、皆が皆仲良くしていて、皆が皆頭が良いので話も合う。
とはいえ、社会性を身に付けるのが目的なので、新は学校行事にも積極的に参加し、きちんと運動会の合同ダンスなどもこなして他の生徒達とも上手くやっていた。
どうやら、颯が傍に居て一緒に育ったことで、普通の子供というものの、取り扱いを学んでいたようだった。
そんな新を必死に追いかける颯に自分を見て、要はいつも頑張れと応援していた。
恐らく、新はいつか留学するだろう。
そして、颯もそれを追って行くのだろう。
そして新は、彰を追ってあの研究所に来て、颯もまたそうして自分の元に来るのだ。
そんな未来が、要には見えた。
颯はといえば、感覚的には普通の子供で、泣いて笑って大変だった幼児期を過ごし、新のように落ち着いて何かを悟ったような様子は無かったのだが、勉学については大変に優秀だった。
恐らく、同じ年の頃の要と比べたら遥かに優秀だった。
だが、ギフテッドとまで呼ばれる賢さは無いため、新に無理について行くのがそれは大変そうだった。
毎日が戦いのような颯に、子供なのに、と要は不憫だったし、穂波もそこまでして新について行こうとしなくても、と言うのだが、颯はどうしても新と同じ道を行きたいようだった。
ちなみに、新と颯は紫貴を通じて血の繋がりがある。
穂波が紫貴の前の夫との間の娘であるため、新は颯の叔父という立場になるのだ。
混じったのがオレだったからかなあ…。
要は、そう思うと颯が不憫で、何となく毎日憂鬱になるのだった。
彰が、要のそんな様子に気付いて、言った。
「…要?最近暗い顔をしているな。何か気に掛かる事でもあるのか。」
彰は、あまり変わらない。
本人は老いを感じると言うが、55歳になった今でも見た目だってあまり変わらないし、パフォーマンスも全く衰えを感じない様子だった。
紫貴も60になったのだが、それでも美容液のせいなのか、未だに緩やかに老いている様子で、彰と並んでいても全く違和感はない。
変わった事と言えば、彰が時々要や新しい研究員たちに仕事を任せて、休みを取るようになったことぐらいだ。
前は、休みなどあって無いようなものだった。
彰自身が、休もうともしていなかったからだ。
それが、ここ最近は絶対に一週間に二回は休みを入れるし、長期休暇もしっかりと取る。
研究はしているが、実験関係は全部部下達に任せ、考えるように促してなかなか答えを言ってはくれない。
どうも、自分が引退した後の事を考えて、準備しているようにも見えた。
ちなみに要は今、41歳だ。ここへ来た時にはまだ22歳で、彰はその時36歳だった。
それから一緒に様々な研究を重ねて来て、成果を出して来た。
このままずっと彰と共に、研究をして歳を取って行くのだと思っていたのに、彰はもう引退を見据えて準備を始めている。
その事実が、要には重いのだ。
その上から颯の事があって、さすがの要も表に出てしまっていたのだろう。
「…彰さん、もう引退を考えてますよね?」
彰は、眉を上げた。
そして、その事か、とため息をついた。
「…まあ、まだ十年はやるつもりだが、こればかりは十年やそこらで引き継げるものでもないからな。元から一緒にやっていた君達に、着実に自分で考えさせて進めさせている間に、新が育って来てここへ来るだろう。そうしたら、最後はあれに君達ごと引き継いで、それで私の役目は終わると思っている。新には、既に細胞学の方面では私が毎日授業を進めていて、大学に行かなくてもその分野では恐らくそれなりにできる。ただ、社会で尊重されるには肩書が必要なので留学はさせようと思っているし、新しい何かをあちらで掴んで来るかと期待しているのだがな。君だって、あと十年すれば私の気持ちが分かるようになって来る。颯だって優秀なのだろう?恐らく新を追って行くし、あれもここへ来るのではないのか。」
要は、首を振った。
「新と颯は紫貴さんを通じて親族ですが、オレのせいで新ほど優秀じゃないんです。あの子は、今必死に授業について行こうと頑張っています。時々新に教えてもらうので何とかなってますけど、ギフテッドクラスはあの子には荷が重かったと最近では見ていて思うんです。オレのせいかって、不憫にも思えて来て。」
彰は、またため息をついた。
「君だって穂波だって優秀だ。あのクラスに入るためには、努力ではどうにもならない壁がある。颯は、あのクラスに入ったのだろう。君達の優秀な血があるからだ。自分をそんな風に卑下する事は無い。それに…私は、新を見ていて思ったのだ。私もそうだが、そこまで優秀だと最初から他との越えられない壁があり、自分が特殊だと自覚したら疎外感と孤独が半端ないのだ。誰も理解してくれず、疎まれるのもどうしたら良いのか分からない。皆に羨望の眼差しで見られるようになる頃には、私のように心を閉ざして社会とは関わりたくないと思ってしまっている。新がそうならないように、常に私が傍に居て理解を示し、紫貴が愛情を注いで回りには君達優秀な者達で固めて守って来た。そんな環境にない賢い子達は、不幸だ。私がそうだった。そうと知らずに不幸で、自分は他より劣っているのかもしれないとまで思わせていた。要、だから私達は、君達が言うほど良い物ではないのだよ。」
そうは言われても、やはりこうして育って来ると、その優秀さは羨まずにはいられない。
だが、彰や新にしか、分からない何かがあるのかもしれない。
「…オレは、彰さんが好きです。って言っても、異性としてとかじゃないですよ?尊敬しているし、手が掛かっても人間的にも魅力的だと思うから。彰さんを目指してここへ来て、彰さんに追いつこうと必死に研究して来ました。オレは今41歳ですが、これからも彰さんを目指して研究して行けると思っていました。それが、あと十年でなくなるとなったら、オレは何を目指したら良いのか分からなくなると思ってしまって。ずっと、ここに居るんだって思ってしまっていたから…そんなわけはないけど。」
彰は、苦笑した。
「そうだな。私もここから出る気はなくて、ステファンのように生涯独身でここに籠って最期もここで迎えようと思っていたよ。それでも、私の頭脳は残したいと考えて、子供ぐらいは欲しいと考えても居た。それが…紫貴に出逢って、何もかも変わった。最初は目的だった子供すら、紫貴が居たらどっちでも良いと思うようになり、共に居るうちにこれが幸せだと気付いて、自分がそれまで不幸だったのを知った。幸せになって、思ったのだ。これまで、社会に貢献しようと必死に研究して来たし、結果を出して来て、そろそろ次にその役目を譲って、自分は自分の幸せを感じるために生きて行こうと。あと何年生きられるか分からないし、紫貴と共に余生を楽しみたいのだ。なので、引退するまでは休みは取るが、その準備もする。あの、私が全力を傾けて来た薬の完成だけは、私が亡き後でも成し遂げて欲しいと思うしな。」
彰は、幸せになった。
その幸せに引っ張られるように、要も穂波と颯を得て幸せになった。
それは、要が望んでいたことだったが、それでも彰を失うのは、つらかった。
できたらここで、最期も要が看取って一緒に研究を続けて行きたかったのだ。
だが、彰は次の目的を見つけて、それを成すために十年後にはここを去るのだろう。
自分もいつかはそんな気持ちになるのかもしれないし、要には、彰を責めることも、ここへ残って欲しいと懇願することもできなかった。
「…彰さんが幸せになったのなら、それがオレの望みでもありましたから。紫貴さんのお蔭で、オレも穂波に出逢えて幸せになったんですしね。悩んでいても、仕方がないですね。オレはオレで、彰さんの後を継いで、新と一緒にあの薬の完成を目指さないと。」
彰は、フッと微笑んだ。
「十年後には君も51になる。そうなった時、新に次を託してくれたらいいのだ。君が余生を過ごそうと思い始めた時、私達がまだ元気であったら一緒にあちこち出掛けよう。ま、それまでにも私があれに講義をして、ここまでの私の研究の道筋を教えておくから。そんなに手間はかけさせないと思う。もしかしたらあれは、在学中にさっさと次のステップを考えてからここへ来るかもしれないぞ?何しろ、あれは恵まれている。私が14の時にやっと受けられた授業を、あれはもっと幼いうちから私から受けていたのだ。楽しみだよ。」
彰は、遠い目をした。
彰の目には、ここで自分の代わりに立ち働いて研究に没頭する、新が見えているのかもしれない。
あれだけ生き急ぐように、自分を検体にしてでも実験を繰り返して先を目指していた彰の姿は、もうそこには無かった。
要は、笑った。
「彰さんと余生かあ。そう思うと、何か楽しみになって来ました。でも、オレが引退するまでまだ二十年はありますからね。その時まで、楽しみに準備するかな。」
彰も笑って、立ち上がった。
「では、本日も終わった。帰ろうか、私達の居場所へ。」
そうして、二人はいつものように、ヘリポートへと向かった。
その時は、まだこれから何が起こるのか、気取ってもいなかった。
新は、颯と共に迎えの車に乗って、屋敷へと帰って来ていた。
いつも、こうやって二人一緒に車で登校し、下校して来る。
執事の細川が迎えに行くからだった。
ここから颯はすぐ近くの要の家へと帰るのだが、今日はどうしても課題を新に見てもらわないといけないと、家に帰らずここでしばらく留まるつもりだった。
玄関の扉を開くと、いつもなら出迎えてくれる、母の紫貴の姿がない。
キョロキョロと新が見回すと、メイドの志穂が言った。
「新様。あの、奥様は三時ごろからお昼寝と仰って、お部屋に居られるのですわ。お声をお掛けしても、出て来られるご様子が無くて…覗いてみたのですけれど、よく眠っておられるようでしたので、お起こししていないのですが…。」
三時…ということは、二時間か。
新は、二階の両親の寝室へと上がって行った。
そうして、扉をノックしたが、確かに返事はない。
そっと扉を開いて、呼びかけた。
「…お母さん?」
中は、暗くなっているが電気もついていない。新は、そっと中へと足を踏み入れて、大きなベッドの上にじっと眠っている、母の顔を覗き込んだ。
「お母さん?あまり眠ると、夜眠れなくなりますよ。」
パラパラと、遠くからヘリの音が近付いて来るのが聴こえて来て、時間通りに父が戻って来るのが分かった。
新は、いくら何でも父が帰って来て、寝ていては気まずいだろうと母の肩をそっと揺すった。
「お母さん、お父さんが…」そこで、ハッとした。おかしい。「…お母さん?!」
母の、呼吸が止まっている。
新は、ガバッと上布団を跳ね上げると、サッと母の胸の音を聴いた。
…微かに、打っている。
「…細川!」新は、必死に寝台脇に父が医療器具を置いているのを知っているので、その棚を開いた。「細川!早くお父さんを!早く!」
そこには、彰からざっと説明を受けただけのたくさんの器具が入っている。
その中から、記憶にある器具を引っ張り出して、母の口を開かせてチューブを突っ込むと、必死にポンプを握った。
肺が膨らみ、力を抜くとしぼむ。
細川が、慌てて駆け込んで来て事態を悟ると、急いで転がるように玄関へと駆け出して行った。
「ああ、奥様!」
志穂が、悲痛な叫びをあげる。
だが、新は力を抜かなかった。母の自発呼吸が戻って来ない。ということは、睡眠時無呼吸ではないだろうし、何か他に原因があるのだ。
いずれにしろ、早く父に診せなければ、母は命を落としてしまう。
新は、何も出来ない自分を呪った。
こんな時、父ならきっとさっさと判断して処置をしてしまうのだ。それなのに、自分は呼吸が止まっているからそれに対処するしか、他に何も分からなかった。
余計なことをして、更に悪くなる可能性があったからだ。
いつもなら一瞬で到着するヘリの音が、今はどこまでも緩慢に聴こえてならなかった。
一方、彰は要と共にヘリが着地するのを待っていた。
上空から見ていると、細川が青い顔をして、必死にこちらを見上げて風圧に耐えてこちらを見上げている。
…何をしているのだ。
彰が不思議に思うと、細川はスマートフォンを上げて、必死に振っていた。
彰は、ハッとして自分の胸のポケットに手を入れた…細川から、連絡が?
彰がスマートフォンを開くと、そこには細川からの、紫貴が危篤という連絡が入っていた。
「…なんだって?!」と、パイロットに言った。「私が戻るまで待っていろ!」
彰は、まだ地上まで数メートルの所で、いきなりヘリの扉を開いて、飛び降りた。
要もパイロットも仰天している中で、彰は芝の上に着地して、物凄い勢いで屋敷へと駆け出して行った。
「…何事だ?!」
要は叫んだが、自分は生憎そんなに運動神経が良い方ではない。
なので、イライラしながら着地するのを待って、そうしてヘリを降りて必死に屋敷の中を目指した。
「紫貴!」
彰が、悲壮な顔で寝室へと飛び込むと、真っ暗な中で新が必死にポンプを押していた。
…呼吸が止まっていたのか。
彰が駆け寄ると、新が言った。
「お父さん、心拍は薄っすら感じ取れますが、私が見つけた時には呼吸が止まっていて…これしか、私にできることがなくて…。」
新は、涙を浮かべていた。
彰は、紫貴の様子を見てサッと抱き上げ、言った。
「…すぐに研究所へ連れて行く。」と、新を見た。「その手を止めるな。あちらへ着くまで持たせねば。ヘリを待たせてある。行くぞ!」
新は頷いて、そのまま父の横を走って、必死にヘリへと向かった。
途中、走って来た要とすれ違いそうになったのに、彰はそれを通り過ぎながら、叫んだ。
「要、戻る!紫貴の呼吸が止まっている!」
「ええ?!」
要は、今走って来たばかりなのに、慌ててまた彰を追って走った。
「お父さん?!」
颯が後ろから言うが、要は叫んだ。
「お母さんに今日は帰れないかもしれないからここへ来て泊まっててくれって伝えてくれ!」
そうして、待っていたヘリへと矢のような速さで乗り込んで行った。
かと思うと、降り立ったばかりのヘリは、また研究所へ向けて飛び立って行ったのだった。
ヘリの中で、彰は自分の腕時計に仕込んであった薬を紫貴に投与し、一時的に仮死状態にした。
そこでやっと解放された新が、ホッと肩の力を抜くと、彰は、呟くように言った。
「…動転していた。」彰は、紫貴の口からチューブを引っこ抜くと、それを放り投げた。「すぐにこれを投与していれば、君がついて来る必要も無かったのに。どちらにしろ、これで時間の猶予ができた。前に話しただろう、24時間の猶予ができる薬だ。紫貴は一時的に死んでいるが、その間に検査をして処置をすれば、間違いなく復活できる。安心していいぞ、新。」
新は、涙を流しながら、頷いた。
「私は…何もできなくて。」新は、後悔しているようだった。「細胞学など、何の役にも立たなかった。私は、もっと医学全てを学んでおかねばならなかったのに。もっと細分化された所は、後からでも良かった。」
彰は、首を振った。
「いきなりに命の瀬戸際に立たされるのは無理だ。まだ君は子供なのだからな。とりあえず助けたければ、救命術だけでもやっておけば良い。医師としての知識が欲しければ、医学部に行かねば。私が教える私の研究のことは時間が掛かるので、専門的な事だけにしたいのだ。他の事は学校で学んで来い。後で繋がって来る。」
新は、仕方なく頷いた。
母は、真っ青な顔をしている。一時的に死んでいるだけだというが、それでも新は、心配だった。
「何が原因でしょうかね。」要が、心配そうに言った。「朝は何も無かったのでしょう。いつも念入りに検査してるし前の検診の時も所見は異常なしでした。」
彰は、紫貴のことを抱きながら、言った。
「…朝、少し胸が痛むとか言っていたのだが、前の日にふらついて厩舎の柱に胸をぶつけたと言っていたので。打撲かと湿布で対処を。骨は折れていないし色も変わらず腫れもないので、問題ないと思っていた。だが…この様子だと、もしや肺梗塞では。」
新が、彰を見上げた。
「先週、関西へ新幹線で戻られましたが、もしかしてその時に血栓が?」
関西には、紫貴の穂波以外の二人の子供達が居るのだ。
彰は、頷いた。
「そうかも知れない。動いておいた方が良いと言ったのだが、ずっと座っていたからな。とにかく、造営剤を入れてCTに掛けて…心拍を停めているから血液を回さねばならないし…やることが多い。間に合わせねば。」
二十四時間の期限だ。
完全に時が止まるかのようにこの間は維持されるのが分かっているので、何とかこの間にできる限りの事をして、命を繋ぎたい。
幸い、新の発見が早かった…恐らく、あのままでも彰が帰ったら見つけただろうが、紫貴の呼吸が止まっていたのはほんの数分間だと思われた。彰が到着するまでなら、更に数分経っていただろう。その数分で、後遺症の有無が大きく違うからだ。
もしかしたら、心拍も止まっていたかもしれない。
まだ辛うじて生きている状態で薬品を投与できたので、後の処置に格段に希望が持てたのだ。
彰は、新を改めて見て、言った。
「…よく見付けてくれた、新。君は君にできる最高の対応で私を待てた。なので、紫貴を助ける希望が持てたのだ。よくやった、感謝する。」
新は、それでも苦し気な顔をした。
「お父さんならもっとできたと後悔ばかりです。私は、こんなことをしている場合ではない。医学部に行きます。すぐにでも留学させてください。試験を受けます、早く学びたい。」
新は、焦っているようだった。
十四歳というと、彰があちらに渡ったのと同じ歳だ。
彰は、頷いた。
「細川に手配させろ。私もあちらの滞在先など手配するが、それは紫貴を無事に治してからだ。どちらにしろまだ時間はある。まだ5月だろう。研究所に着いたらクリスに聞くといい。私は紫貴の治療に全力を傾ける。」
そうしているうちに、ヘリはさっき出て来たばかりのヘリポートへと到着した。
ハリーやクリスが、パイロットから連絡を受けてストレッチャーを横にこちらを見上げているのが見えた。
着陸したヘリから彰は紫貴を抱いて降りて行き、そのストレッチャーに紫貴を寝かせると、急いで中へと入って行った。
要も新もそれを追って行き、紫貴は研究所の中へと運び込まれて行った。




